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62話 ラブコメの波動

「――彰君。今日はありがとうね。営業は夜だけなのに来てもらっちゃって」

「ランチタイムがないと暇で暇で。むしろ呼んでくれて嬉しかったですよ。それに丁度良かったです。この前の監査とか言ってたあのお客さんだけじゃなくて、試食会に呼んだあの常連の女性客……今日滅茶苦茶お腹空かせてるみたいですから」

「なんかもう異常だよね。あの小さい身体のどこにあんな量は入ってくのか……」

「ちゃんとお金は払ってくれるって言ってますからいいお客さんではあるんですけどね。いつもセーブさせてしまっているのかと思ったら、ちょっと悔しいというかなんというか……。今度あの常連さん用に特大ラーメンの器持ってきます。自分実は究極のラーメンには器も重要だと思っていて、最近陶芸も始めたんですよ」

「は、はは。相変わらず真面目だね、彰君は」

「いや、この日のために休みの日全部使ってまで新メニュー用意してくる竜居さんには負けますよ。しかも……あんなに美味しいの初めて食べましたよ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 ――カラン。


「あ、来たみたいですよ」

「それじゃあイセ、おしぼりとお冷持って行ってくれるか?」

「う、うん。分かった」

「それと蟹田は彰君のサポートを頼む」

「了解ですマスター。彰殿、私の身体をどうぞ自由にお使いください。手でも足でも食べていただいて結構ですので」

「そんなアン●ンマンじゃないんだから、自分食べろとか。本当に面白い人ですね蟹田さんは。でも器用ですし、料理人には向いてると思います。一緒に頑張りましょう」

「はい。お願いします。料理ができるようになればいつでも自分を……ふふふ」

「は、はは。本当に変わってますね」


 最強の海鮮チャーハンが完成して数日。

 とうとうこの日を迎えた。


 他の業務に集中できないから今日はもう、お昼の営業を止めて試食会という体で外部監査人の石田さんをお迎えしているというというわけだ。


 店には異様な緊張感が流れ、そんな中でもあの常連さんはひたすらに料理を食べ続けている。


 試食会ということなら呼ばない訳にはいかないと思って声を掛けたけど、今日の常連さんは来店した時から様子がおかしい。


 なんか疲れているというかげっそりしているというか……。


 爆食しているのはそれを解消するため、に見えなくもない。


「お待たせしました。おかわりのラーメンになります」

「ありがとう」

「あの……」

「なに?」

「私は食べれる部位は決まっているので、その……」

「大丈夫、私は調理済みのものしか食べない」

「そ、そうですか」


 そんな常連さんの相手をするのは蟹田ことコメコメホタテクラブ。


 ボス特有のスキルで形態変化ができるコメコメホタテクラブには米の補充のためにこっちの世界に居ついてもらうことしたのだ。


 たまにわけの分からないこと言うし、自分の身体を舐めたりするから心配で心配でならないけど、意外にも顔がかっこいい、というか絶世の美男子なお蔭でその仕草すら女性には大うけ。

 彰君同様修行に来ているという設定で働いてもらっている。


 イセとイキリ爺とコメコメホタテクラブにあーちゃん。


 この店もモンスターで溢れて来たな。


「――いらっしゃいませ! お冷とおしぼりになります」

「ありがとうございます。……。これで20歳ねえ。いいわ、それもこれも私を満足させてくれる料理を出してくれれば見なかったことにしてあげる」

「は、はい。ありがとうございます」

「ありがとうございます。……。まだ決まったわけじゃないんだけど、自信はあるようね。まぁいいわ。さっさとチャーハンを持ってきて頂戴」

「か、かしこまりました」


 以前よりも迫力がある石田さん。


 緊迫感はさらに上がり、調理する俺の手も少し震えているみたいだ。


 大丈夫、大丈夫……。

 これで、無事完成。先に準備してたから提供時間も最速で印象はいいはず。


 あの時食べたチャーハンで、さらにミネラル汁で炊いたあの米も使ってるんだ。


 きっと大丈――


「――そこのあなたちょっといい?」

「私ですか?」

「……。いや、さっきからこっちをちょろちょろ見ていたから。何か用かしら?」

「用……。チャーハンを頼まれたので気になっただけです。マスターのチャーハンを美味しいと言っていただければ、それは私のことが好きと言っているのも当然ですからね」

「それは、どういうこと?」

「チャーハンの制作には私自身、その全てが注ぎ込まれているといっても過言じゃないからです。今からあなたに美味しかったと言ってもらえるのが楽しみですよ。そうあなたみたいに美しい女性にそう言われるのはね」

「それってつまり、その……私に好きって言われたいってこと? あなたが? えっと、その、あの……それは、その……。食べてから! 食べて答えを出すから!」

「勿論です。相性がいいことを願ってます」

「あのーえっと、お待たせしました。海鮮チャーハンになります」


 蟹田と石田さんの間で訳の分からないラブコメの波動が流れるところ、イセは申し訳なさそうに海鮮チャーハンを差し出した。

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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