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60話 自分が美味い

潮風を感じながら小さい火を頼りに道中手に入れてきた食材を焼いていく。


 ホタテシリーズモンスターからドロップした貝柱は焼くと見た目以上に柔らかい食感に変わり、身がホロっと崩れる。

 だからと言って弾力がないわけではなく、噛む度に味付けに使った醤油、それにバタカイのコク液腺というドロップ品から搾りとれるバターに似た風味でありながら磯野風味を残す濃厚な液体、いや、タレがその旨味を引き出して、一生咀嚼していたい最高の一品を生む。


 ツユイカとマメデパスからドロップしたゲソには既に麺つゆのような味が感じられ、軽くシヲを振る。

もろこしホタテがドロップした触覚もろこしはしゃっきりと芯の部分まで食べれる巨大なベビーコーンのような食材で、砂糖醤油を塗って焼くだけで体の大きなホーンボアたちでさえ満足、しかも手間がかからず手足を器用に使わなくていいからストレスは0。


 網を持ってきたなかったから、網焼きはできないけどその代わりに使っていた鉄板には旨味の溢れた汁が残り、これがまぁ美味い。


 バケットにつけて食べても良し、シュリンプドッグがドロップしたふりふりえび尻尾を茹でてこれを付けてくっても良し、酒に合わせても良し。


 辛い辛い戦いから一転最高のなんちゃってバーベキュー大会の開催でマッスルチキンたちもホーンボアたちも、爆発して若干煤をかぶっているあーちゃんも、全員が羽目を外し過ぎないように注意している風な卑猥ミサイルも、全員が目をとろんとさせてその場にあるザ・男飯に舌鼓を打つ。


 お店のお客さんとは違ってお金を払ってくれるわけでもないし、日本語を扱えるわけではないけど、これだけ喜んでくれると素直に嬉しい。


 なんかこういう瞬間って料理人になったきっかけみたいなのを思い出せて……凄いのノスタルジックな気持ちにさせられるな。


 あ、焼きカニモドキ完成した。


「……。うっめえ!! あー! こっそりワンカップの日本酒1つだけ持ってきてよかった! 甲羅に酒を注いで飲むとか……。ぷはぁっ! 滅茶苦茶贅沢! でもなあ、やっぱり日本人だとあれが食いたくなるんだよあれが」


「――ぎゅしゅしゅしゅしゅしゅっ!!」


 俺の視線の先に映ったのは俺の誘いに乗っかってホタテもカニもどきも躊躇せず、美味そうに食べるコメコメホタテクラブ。


 その身体からは触手が何本も飛び出ていて、米粒をぱらぱらと溢している。


 口はその殻の中にあるのか、カニの爪をその間に挟みこんで器用に飯をかっ喰らっている。


 たまに引っかかって腕が取れてしまうけど、それを俺に手渡し焼いてくれと催促。

 自分の腕まで美味しく頂いているという有様だ。


 ……。

 こいつ本当にボス?

 イセみたいにボスとしての風格がまったくないんだけど!

 風格はないけど、カニの風味は強く感じさせてるとかどうなってんの!


 俺ちょっと酔ってるかもなんだけど!!


「と、とにかく、ボスは倒さないとだし……。米食いたいし……。お前ら! 今がチャンス!そいつから米を搾り取ってやれ! 〆の時間じゃああああああああああああ!!!」

「「ごがああああああああああああああああああ!!!」」

「「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


  小躍りを決めていたコメコメホタテをホーンボアやマッスルチキンはずっと涎を溢して見ていた。


  そう、こいつらも俺と同じくボスを飯としか見れなくなっていた。


  俺の号令を今か今かと待っていたマッスルチキンとホーンボアは狂ったようにコメコメホタテクラブを攻撃。


 一緒に飯を食っていた和やかな空気は一変。

 米を求める恐ろしく醜い戦いが勃発。

完全に不意を突かれたコメコメホタテクラブは、動揺を隠せないようで反撃する余裕をなくしている、が……それでもカニモドキを食う手は止まっていない。


流石に全員からの一斉攻撃でダメージを負い始めるとその手を振り回したりはするけど、もはやそんなものは無駄。


 血走った目で羽交い絞めを決めるマッスルチキン。


 牙を零距離で発射する卑猥ミサイルを含むホーンボアたち。


 そしてそれを指揮するあーちゃん。


 全員が〆を食べるために恐ろしく効率的にボス討伐を行う。

 

 これ、俺の出番ないじゃん。

 ……。ぷはーっ! 最高の余興を見ながらだと酒が一層美味いな!


「――ぎゅしゅしゅしゅしゅしゅ……」


 ――サラサラサラサラ。


 流石にランクD。

 なかなかの耐久力だが、ついに総攻撃を耐えることができなかったのか、その殻の奥からさらに触手を飛び出させ米を大量放出。


 銀色に輝く米はブランド米のそれよりもつやがある。


 チャーハンに使う米はこれで決まりだな。


「さ、あとはこいつを始末してイキリ爺たちから採取物を受け取って……今回の探索は疲れたけど楽勝だったわ。さて……お前、死ぬ前に何かあるか?」

「ぎゅしゅ、ふ……」

『俺、これ自分のだけど……食えるなら食ってみたかった。だって』


 コメコメホタテクラブの言葉を翻訳してメモを見せてくれるあーちゃん。

 そういえばこいつ、自分の身体を食うことに躊躇なかったな。


 うーん。狂気じみた奴とは言え、料理人としてはそれを食わせてから殺してやりたいような……。でもなあ、ここから裏切られることもあるからなぁ。


 ……。

 ボス討伐ってテイムでも討伐扱いになる?


『なります。ただしリセット後新しくこの個体が生まれることはありません。代替モンスターが発生するだけです』

「そっか。それなら問題ないや。じゃあお前、俺たちの仲間にならないか?」

「ぎゅ、しゅしゅしゅ!!」

『コメコメホタテクラブがテイム可能になりました。テイムしますか?』


 勿論。


『2階層を突破しました。報酬を付与。事前にお話しさせていただいた通り2階層の形状クリエイト等が可能になりました。……。……。……。伝達事項。3階層以降への侵入にあらゆる制限がなくなりました。当然区画解放前であってもボスを連れていくことが可能。また……このダンジョンに住まう亜人種の侵入も可能になりました』


 亜人種?

 このダンジョンに住まう? あれ? そんな人たちいたっけ?


 まぁいいや。とにかくこれで米は無限に――


「「ごがああああああああああああああ!!」」

「「ぶもおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 アナウンスに耳を傾けていると唐突にマッスルチキンたちとホーンボアたちが吠えた。


 そして無防備なコメコメホタテクラブの手足をもごうと……駄目だこいつら! 海鮮に味を占めて、飯狂いになってやがる!


「ちょ! もうそれ仲間だから! 殺さなくていいから!」

「ぎゅしゅしゅ!!」

「いや、お前も自分から手足とろうとすんなや!! しかも笑いながら! 狂人……。じゃなくて狂モンスター来たよ、また」

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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