55話 縁の下の力持ち
「危なかった……」
ちょうど私が居たからよかったけど……『こっち』はお店をするのにあれもこれもうるさすぎ。
誰をどういう対価で雇うのか、その種族、年齢、住処、そんなものは全く関係ないじゃ駄目なのかな?
税金? とかいう徴収制度とか住民情報の保管とか……あんなのを義務付けられるなんて私のいた所じゃ奴隷商で管理されてる奴隷とか、商品として捕まったモンスターくらい。
これが普通っていうこっちの世界はちょっと異常としか思えないけど……やっぱりご飯は美味しい。
それにここの店主、というか血族はちょっと別物で向こうにはいなかった、というかあり得なくて……私は期待してる。
ダンジョンの攻略と世界一美味しいご飯を。
「私も『戻れたら』楽なんだけど……。戻れないから、こっちで出来ることを――」
「あ、あの、すみません騒々しくなってしまって。それで、その……もしかしてですけどこの杏仁豆腐の効果、気づいてたりしてました?」
店主。
見た目はひょろひょろでただの人間。
でも野心は先代よりもあって、ダンジョンを今まで一番うまく利用できている。
力も一番あるみたいで……今回は本当にあるかもしれない。ダンジョンの攻略。
「……なんとなく」
「あー、やっぱりですか……。その、ちょっとうちの従業員はいろいろ訳ありで、多分お客さんのあれがかなり有効に働いてくれて……あはは、とにかく助かりました」
私が杏仁豆腐をあのお堅い女に食べさせたのが、事態を収拾させたと思っているみたい。
あれはあくまで私がこっちで唯一使える力、それを助長させるためだけの行為だったんだけど……変に勘繰られるよりはいい。
私がダンジョン攻略に加担していると判断されればペナルティとしてあの扉を利用できなくなることもあるから。
前にそれで失敗した時はかなり後悔したな。
「お礼はいい。それに、まだ全部解決したわけじゃないでしょ?」
「そうなんですよね。チャーハン、外部監査人の女性が言ってたお題なんですけど……正直どう思います、うちのチャーハン。いや、こういうことを聞くのはどうなのかなって分かってはいるんですけど、卵にチャーシュー、結構もう何をすれば美味しくなるのかって……」
「……。まずチャーハンの評価から。今のままじゃ及第点。正直感動、とまでいかない。他のお店でもたまに食べれるレベル。あの人げ……。女の人を納得させるにはこの程度じゃ無理」
本当は無理じゃない。
私がいろいろ操作して上げればこの程度でも十分、というか十分すぎる。
でも、確かダンジョンのどこかにこの炒飯を劇的に変える食材があったはずで……私ももっと美味しい料理が食べたいからそこまでは手伝ってあげない。
これは敢えての優しさ。
「やっぱりそうですよね」
「次に美味しくするためにはだけど……もっと進んでいろいろ試すといい、と思う。えっと、失敗は成功の基。駄目ならもっともっともっと突き詰めて、探して……とにかく頑張ること。素人だから具体的には教えられないけど……」
「進む、突き詰めて、探す……。いえ、助言助かりま――」
『――なぁなぁ今の見たか? 結構ヤバかったよな今のやり取り』
『私、動画とったんだけどアップロードしちゃおうかな。バズるかも』
『今の外部監査人だよな? あんな対応していいのか?』
周りのざわつきが耳に入る。
店主もスタッフも、あのイセっていうモンスターもその内容は分かってないけど、騒ぎ過ぎたことを心配して……。
流石にこれはこの子たちだけじゃどうにもならない。
ここは私が人肌脱ぐしかない。けど……。
「店主。とにかく美味しいチャーハン期待してるから。ここで起きたことは、多分聞いてた人もいるけど、みんな理解してる。ね、みんな!!」
『……なんかよく分からないけど、応援してる!』
『そうよ! ここのご飯食べれなくとか信じらんないもん!』
『イセちゃん! 私知ってるよ! 見た目が子供なだけで20歳以上なんでしょ!』
うん。催眠スキルで店内は問題なし。
あとはさっきの女の周囲……これは大変な仕事になりそう。
縁の下の力持ちは大変――
「よし! みんなの応援を受けて今日は全品半額にします! あ、常連さんの分はただにしますからね。良ければサービスも……」
「じゃ、じゃあ杏仁豆腐大盛」
「分かりました! 彰君! 杏仁豆腐直ぐ用意して!」
そういうと店主は厨房へ。
急に注文が増え、私の前にはこれでもかと杏仁豆腐が……。
うん。
やっぱりこれも美味しい。でもチャーハン早く食べたい。
って、あ。これの効果が……。
「仕事大変一杯……。それ最高かも。もっともっと縁の下の力持ちしゅるぅ!」
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