50話 翼
「――うごっ!」
「おまっ! ちょ、待てよ!」
殺意をもって攻撃しようとした矢先、そのモンスター、『トウヒヒ【E+】』は敵意を剥き出すどころかそそくさと逃走開始。
ついつい俺の言葉もキ●タク風になってしまった。
今回は解放の条件が優しくて拍子抜け、と思ったけどいやはや想像したより走るのはっや!!
チェリーサルと違って筋肉質で大きいラグビー体型の体が砂浜でもぐんぐん進んでいく。
しかも頭のてっぺんが禿げているせいで陽の光が反射、全自動●陽拳が炸裂している。
トウヒヒって名前、もしかして頭皮からきてる?
そう思うとすごい可愛そうな奴に思えてきたな。
「いやいやいやいや、でもあれは盗人。また髪の話してるってぼやかれても絶対謝らないし、絶対倒す! 身体強化中(脚)!」
俺はスキルを発動させてさらりと滑る砂を思いきりはね飛ばして突進開始。
チェリーサル同様王圧は効いていないみたいだけど、これなら直ぐに追いつけ――
――べしゃぁ
「うわ! なんだこれ!きっも!」
「うごご!」
俺の動きを確認したトウヒヒは、だらだらに汗をかいた自分の禿げた頭に手を当ててなにかこ削ぎ落とすような仕草を見せると、それを俺に向かって投げ飛ばしてきた。
白濁していてべとべとしていて甘い匂いがする。
汗、にしては色がおかしいけど、あそこから出るもんなんてそれしかないよな?
とにかく汚いのは有罪です。
さっさと吹かないと、ってヤバ口に入った!
「おげぇ! まっず……くないな。なんなら混じりっけのない最高品質の砂糖並みに旨いんだけど。これ、もしかして砂糖を溶かしたみたいな感じのものなのか? だとしたらこいつも捕獲決定!殺さないから大人しくしなさ……。あ、脚が、動かない」
トウヒヒの汗を浴びてしまった脚は、瞬時にそれが固まったことで地面に張り付き、さらには両脚がくっついてしまった。
スキルを使って脚を太くさせたのが裏目に出たか。
横取りに拘束スキル……ねちっこくて性格の悪い構成。
まるでこの条件のために生まれたモンスター。
おちょくり逃げ特化とか害悪もいいところだろ。
「でも、こんな状態になったとしても俺にはまだスキルがある。まだダサいから使いたくないって思っていたんだけど、背に腹は変えられない。だってお前は俺が最速でぶん殴らないといけないから! 身体強化小肩甲骨!」
腕と脚のように膨らむ肩甲骨は皮膚や肉を突き破ることなく伸びていく。
そうして隆起した肩甲骨は当然腕と連動して動くのだけど……。
「この『翼』労力とかいろいろ大変なんだよな」
肩甲骨でできた翼。
一応飛行能力はある。
あるけど……。
「こ、これくらいかな? おいっちにさんし……」
空目指して腕だけエア平泳ぎ。
これくらい大きく動かさないと、翼がちゃんと羽ばたいてくんないのさ。
ダサすぎて絶対イキリ爺には見せらんな――
「うごぷぷ……」
「てめぇ余裕こきやがって!ちょっとでかいサルの分際で……ってぷぷぷ。お前もなに? その体」
俺の動きを遠目で見るトウヒヒ。
砂糖の汗をかいたからなのか、自慢の体はどこへやら見事に縮み上がっている。
ふわふわな犬が水を浴びたみたいになってやんの。
「う、ごぁぁあぁあ!」
「怒ったか。しかも近づいてくるとか……。そのまま逃げてりゃ案外ダメージ少なく済んだかもなのに。その距離じゃ加減がうまくいっても……」
――ばひゅっ
「やばっ! やりすぎた!」
思い切り羽ばたかせてしまった翼は突風を巻き起こし、俺と地面を繋いでいたやたらと硬い砂糖の塊をひっぺはがした。
そして俺はぐんぐんと真上へ進み、ちょおっと危ない高さまで移動。
ちゃんと羽ばたかせられないから、飛び上がったらあとはそのまま着地しかまだできないんだけど。
「これ落下死しちゃうってことないよね? ……。頼むぞ身体強化――」
『トウヒヒからトウヒヒシロップがドロップしました。ドロップ品はアイテム欄に自動追加されます』
あいつ死んじゃったのか……。
俺も後を追うから……って思うわけないじゃんざまあみろ!あんの猿!
「俺は生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きるんだよおおおおおあおおわあぁぁあぁぁあああ!」
俺は両手を組んでそんな願いを込めながら、地面に向かって一直線。
情けない声が第2階層に鳴り響いた。
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