48話 チェリー
「――よし、ここから2階層だ。全員気引き締めろよ」
無慈悲な謝罪からしばらく。
俺たちは第3区画、イセがいたオアシス付近まで移動を完了させていた。
イセのいた場所には確かに大きなミネラルホークが1羽いたものの、まるでロボットかのように口に水を含んではミネラルホークを産み、水を含んではミネラルホークを産み、の繰り返し。
通常の個体ではあり得ないスキルを持っていてボスとしての機能もしっかりと果たしていたため、一応戦う覚悟はしたが、既に1階層を攻略した俺たちには目を合わせようともしなかった。
だから俺たちはわざわざオアシスには入らずその近くに出現していた階段へ一直線。
そうして何事もなく階段の下まで辿り着くと、今度は緊張からか全員が喉を鳴らす。
未知の道のり……俺だって緊張していないわけじゃない。
けど……。
「今は楽しみって方が勝ってるんだよな」
俺はそう呟き胸を高鳴らせながら1歩1歩階段を下る。
ただダンジョンの第1区画みたいに明るくその場を照らす石みたいなものはないのかやたらと暗い。
この暗さはちょっと危ない――
『第2階層へと侵入しました。初侵入者用の仕掛けが起動します。3、2、1……』
仕掛け!?
もしかして罠か!?
矢、落とし穴、毒ガス、背後から大玉……とか?
――ぱっ!
「ま、眩し!」
唐突に強烈な光が階段壁面で灯った。
赤青黄紫……なんかミラーボールの光強いバージョンみたいで嫌なんだけど。
厳かな雰囲気がぶち壊しな――
『おめでとう』
『おめでとうございます』
『おめでとうだね』
『おめでとう』
壁一面に映し出される1階層のモンスターたちと全く知らない何人もの声。
それにちらほらと拍手の音が……。
これダンジョン作ったの絶対人間でしょ!
これあれじゃん、エヴ●じゃん!
光の感じといい、ちょっとバブリーな時代から抜け出せてないエヴ●好きの犯行じゃん!
え、ちょっと恥ずかしいんですけど。
別に俺がこれをしてるわけじゃないのに恥ずかしいんですけど……。
これが共感性羞恥。
まぁ、それだけじゃなくて単純にこれを浴びせられてる自分が恥ずかしいわ。
――とんとん。
「ん? どうした?」
『おめでとうw』
でたでたイキリ爺の嫌なとこ。
なぁこのプレイ受けてんの俺だけじゃないからな。
お前も言われてるんだからな。
それとお前……履修済みなのかよ。
人の世に染まりすぎててもう俺より人間じゃん。
「はぁ、でもこんなポップでギャグにとんだことするってことは2階層って案外優しいのでは? ちょっと気が楽になったかも」
「ぷぺ!」
「おっ! 出口見えてきたな! よし、初っぱなは余裕たっぷり、全員で相手を威圧して――」
――ひゅん
足を早めて2階層に突っ込もうとすると、俺の頬をなにかが掠めた。
ほんのり香る甘い匂い。
この感じは果物?
だとしたら2階層にはデザートと相性がいいドロップ品が多い可能性大。
「こりゃ、杏仁豆腐を作れる食材もこの探索で手に入れられるかも。ああ大見えきったのに最悪、あんまり普通のと変わらない杏仁豆腐を出すかもしれなかったから、その点でも気が楽――」
――ひゅん、ひゅんひゅん!
当たっても痛くはない。痛くないんだけど……。
『チェリーサル【E-】』
「この童貞猿がよおおおおおおおおお!! 鬱陶しいんじゃボケええええええっ!! 今まだ俺が考えてる途中でしょうが!!」
『余裕とは?』
『ご主人様……』
「うっさい!やられたら倍でやり返さないといけない文化が人間にはあるんだよ! 卑猥ミサイル背中乗せてもらうぞ!」
俺はイキリ爺とあーちゃんのメモに返事をしながら卑猥ミサイルに乗り込み前進。
さっきまでの訳が分からない光ではなくて、2階層に照りつける陽を全身に浴びながらついに新しいステージに到達したのだったが……。
「う、きき!」
「お前ら……群れなしすぎだろ! 童貞ちゃうんかい!」
眼前には広がるのは心踊る大自然、を覆う山のようなチェリーサル。
こいつら揃いも揃ってお盛んが過ぎるだろ!
やってやるからな。
俺がテイムした卑猥ミサイルのミサイルを暴れ飛ばしてやるからな!
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