46話 そういえば
「95点。あっちといい勝負になると思う。切磋琢磨楽しみ」
「おお! ありがとうございます! って向こうまだオープンしてないですよね? なんでその勝負できるとかって――」
「……。知り合いで、味見頼まれたから」
「そうなんですか。じゃあうちもご贔屓にしてもらえると助かります。あ、当然サービスしますから」
「うん。また来る。ごちそうさま」
「はい。ありがとうございます!」
本日最後のお客さんだったいつもの女性を見送ると、そっと準備中の札を掛ける。
点数は基準がよく分からないからあれだけど、あの人に大丈夫と言われると、妙な説得力がある。
イセに初めて今の中華そばを振る舞ってから1週間。
水の量や生地を寝かせる時間、ゆで時間、これらを彰君とほぼ毎日試して試作から完成までかなり粘ったけど……これで一先ずは安心。
でも……いい勝負になるかぁ。
どれだけ強敵なんだよ、向こうの店。
「お疲れ様です! ど、どうでした?」
「な、なんか緊張しましたね」
心配な様子で顔を出す彰君とバイトの荒井さん。
どうやら2人も今のやり取りをずっと見ていたようだ。
「95点でいい勝負だって。暇暇でお給料が……ってこともないから安心して」
「そ、そうですか」
「じゃあ取りあえずお祝いですね! 頑張った祝い! テーブル片付けてご飯にしましょう! イーちゃん! こっち手伝って!」
「――い、行った? 今の人?」
「うん! 今日も疲れたねぇ!それで竜居さんがね、中華そば完成祝いになんでも好きなもの作ってくれるって!」
「ちょ、荒井さんそんなこと一言も……。まぁいいか。今日は無礼講!みんな何が食べたい?」
課題は残っている、というかまだまだ中華そばは改良の余地があるんだろうと思い知らされつつ、俺は荒井さんに押しきられる形で注文を聞いて厨房へ。
俺もたまには思いっきりビールでも飲んじゃおうかな。
つまみは……そう言えば定食メインでおつまみ品みたいなのがうちは少な――
「ねぇ。あの人ってさ、たまに来るの?」
「ああ、いつもラーメンとチャーハン大盛りで……あ、チャーハンもそろそろテコ入れの――」
「あれ、気を付けた方がいい。あ、別にあなたの心配をしてるわけじゃないんだけどね!」
どこか様子がおかしいとは思っていたけど、今日のイセは1段と焦り怯えた様子が見られて俺の方こそ心配になってしまう。
あの日からイセはテイムされているんだから当然って言いながらこっちで一緒に働いてもらっている。
勿論給料は出しているし、最近はバイトの子たちと遊びにも行ってるみたいで……こっちの世界でこんなに怯えた様子を見せることはもうないと思ったんだけどな。
そういえば今は慣れたみたいだけどあーちゃんもイキリ爺も最初は……。
「気を付けた方がいいって、それどういうこと?」
「モンスターってランクが上がってくると、相手の力を察しやすくなって……多分あれすごく強い」
「あの常連さんが?そんなこと――」
「ぷぺ」
「ごが」
イセの言葉に同調するようにあーちゃんとイキリ爺も声を上げた。
こっちの世界にイセたちより強い存在、か。
気のせいな気もするけど頭にだけは入れておこうか――
「おーっす! お疲れ様! 今日も食べに来たよ!」
「あ、なんだ真波か」
「『あ、なんだ真波か』、じゃないでしょ!なになになになんかくらーい雰囲気醸し出しちゃってさ!」
「真波、さん」
「こんばんわ、イーちゃん!こんな陰気臭いのほっといてご飯にしよ!実は今日こんなのも持ってきたんだ!ほら、イーちゃん甘いの好きだけど、ここって胡麻団子しかないって言ってたでしょ」
「あ、あっ。それは、その……。べ、別に他に甘いのが食べたいなんて言ってないんだから! あれはあれで美味しいでしょ! でもありがとう、ございます」
人見知りなのかちらっとこっちを見るイセと、バレないように私も甘いのが欲しいと言いたげな視線を送ってくるあーちゃん。
あーちゃんのジト目もええなぁ。
じゃなくて、確かにこの店のデザートってあれくらいしかないし、家で出してあげることも……。女性のお客さんも多いし、用意してあげたら喜ぶか。
「ほら、綺麗でしょ! 撮影スタジオの近くにある人気店で買ってきたの!」
「うわあ、綺麗……。これ本当に食べ物なの?」
宝石のように煌めく果物がいっぱいに乗ったゼリー。
ゼリー、ぷるぷる、あーちゃん、オイルスライムのドロップ品……うちで出しても違和感がないってことも考えて連想されるのはあのデザートしかない。
そもそも中華料理屋なのになんで俺はこれを用意しなかったのか……。
「作るか、杏仁豆腐」
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