40話 ひれ伏す
「結局あの素材だけじゃ、麺の太い細いとかそんなのが合ってるかどうかしか分からなかったから……頼むぞ『ミネラル汁』」
彰君との麺づくりが始まったその週の定休日。
俺は更なる美味いを求めてダンジョンの扉を開けた。
1階層第3区画は相性が悪いから、あーちゃんはお留守番。
イキリ爺は喫煙室で煙草を吸っているところを無理矢理連れて来た。
喜々快々の店内カスタムは今回の1階層突破で第1段階が解放されたということで、部屋が最大で3つ増やせるようになった。
それで1つはお1人で寡黙に食べられるようなお客さん用、もう1つはファミリーや団体用、そしてそれだけ部屋を増やしお客さんをガンガン流せるようになると、取り敢えず行列はなくなったから、1つはこれ以上必要になったときのためにストック……しようと思っていたのだけど、遂にイキリ爺が煙草デビュー。
流石にそこらへんで躊躇なく吸われるとまずいと思い、泣く泣く喫煙所用にそのカードを切ったのだ。
イキリ爺の奴、1日で箱半分くらい吸って……。
これでダンジョンの業務しようとしたときに走れませんとか言ったらブチギレもんだよ。
今イキリ爺とあーちゃんは親父の残したボロ屋で一緒に住んでるけど、最悪追い出す可能性さえある。
店の床で寝かすぞって脅迫はイキリ爺にとって今のところ一番恐ろしい罰ゲームだからな。
……。試しに第3区画まで走らせてみるか?
「なあイキリ爺。第3区画まで背負ってもらえるとらくな――」
『移動用の足なら準備ありますよ』
「え?」
有無を言わせずそう書かれたメモ帳を見せつけてくると、イキリ爺はさっさとこの場から離れ……。
「ぶもぉ……」
「足ってこいつか……。本当に大丈夫なんだろうな? というかこれに乗るのかぁ」
『最近こいつ大人しいんで大丈夫っすよ。それと乗り心地最高っす』
イキリ爺が連れて来たのは特大のホーンボア。
その背中には俺の家にあった布とか座布団とかそんなのを使って、作ったであろうお手製の鞍がかけられている。
暇な時間ダンジョンは勿論俺の家でも2匹が何をしているのかあんまり知らなかったけど、いつの間にかこっちにそんなものまで持ち込んでたんだな。
ダンジョンに来ると第2区画から移動したくなさそうな素振りを多々見せていたし、こいつの野草、野菜への執着ってのは凄まじいな。
「ともかく……これで移動が楽になるのはありがたいけど。身体強化中(脚)」
俺はスキルを発動してさっそくホーンボアの背に飛び乗った。
本当におかしなくらい大人しい。
特にホーンボアに関してはそれ用の育成とかしていた記憶はないんだけど――
「ごがああああああああああああああっ!」
「ぶもおっ!!」
「うーん。当人たちは至って真面目なんだけど、あんまりいい光景じゃないな」
千ソゲソ草を鞭に見立てて、イキリ爺はそれでホーンボアの身体を叩いた。
するとホーンボアはその立派な角をこれでもかと反り返らせて、大きな声で鳴く。
確かにスピードも乗り心地も悪くはないんだけど、なんか嫌。凄く嫌このモンスター。
『――とっておきも見ててください!』
「え?」
「ぶもおおっ!!」
第2区画に入っても勢いを落とさないホーンボアの身体をイキリ爺が叩くと、股間から角が発射。
その辺にいたぼけっとしていたコムボールと転がしていた玉を粉砕。
しかもイキリ爺がホーンボアの口に弾薬を詰め込む要領で野草を突っ込むと角は簡単に復活、角は最小限のクールタイムで撃ちだされる。
これはまるで戦車。
とんでもない兵器。
見た目以外は限りなく完璧。そう、見た目以外はね。
「ぶもっ! ぶもぃいぃぃぃぃぃいいいぃぃぃ゛っ!」
「おいお前。それわざとやってないだろうな? ってもう第3区画か。流石にここからはこいつでも――」
『すみません。こいつ興奮し過ぎて止まらんみたいです。しかもこのまま果てても本望だって』
「この卑猥変態ドMモンスターがっ! 俺たちはお前なんかと心中したくないんだよ!」
一向に止まる気配のないホーンボア。飛び降りるにしても、スピードに乗ったこの状態じゃ間違いなく怪我をするし……仕方ない。
わざと爆発を1発もらってから降りよう。
こいつも本望って言ってるし――
「って……何これ?」
変態ホーンボアを見限る覚悟を固めつつ第3区画に侵入。
しかしそこには前に来た時と違って空から見下し、爆発を促すあのくそ鳥が地面にひれ伏す姿があった。
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