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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
9/12

第9話 沼田大王-ヌマタノオオキミ-

 避難所に学生たちを引き渡すと、俺たちはまた移動した。

 県庁方面に城が一つできているようだったので、そこへ向かった。

 見えてきたのは三階建ての城だった。斉明女学院と同じ階数、似たような見た目。城郭階級は同じくらいのはずだ。


「今度は三人だから心強いな」


 門の前に立って俺は言う。


「紅葉(ねえ)って戦力になってる? きょーいちの足とか引っ張ってない?」

「大丈夫、めちゃくちゃ助けてもらってるから」

「だったらいいんだけどね」


 紅葉さんは何も言わず、


「解放」


 静かに刀を出現させた。俺も同じようにする。椿姫の刀は金色の刀身を持っていた。


「敵を倒して手に入れたのか?」

「そうだよ。最初はその辺に刺さってたのを使ってたんだけど、こっちの方が性能いいから乗り換えた」

「乗り換えできるんだ」

「できなきゃやばいでしょ。最初に何を拾うかの運ゲーになっちゃうじゃん」

「確かに。でも、スキルとかついてたら捨てるのもったいなくないか?」

「スキルは引き継ぎできるよ」

「マジで?」


 紅葉さんも「そうなの?」と同時に反応する。


「武器を持ち替える時に固有剣能を引き継ぐか聞かれるから「はい」って答えればいい」


 椿姫はわかっている情報をまとめてくれた。

 固有剣能は、同時に三つまでつけていることができる。

 三つを超えた場合でも保有状態となり、城の中にいるとき以外は常時入れ替え可能らしい。


「すると、武器が弱くても固有剣能の数でカバーできるってことか」

「やれるだろうね。でも、できればモンスター倒した時に出た刀の方が能力高いよ。きょーいちも早めに持ち替えるべきかもね」

「そうか……」


 せっかく、この旋風丸に愛着が湧いてきたところだったんだけどな。


「よし、行こう」


 新しい情報をもらったところで、城の攻略にかかろう。

 俺たちは正門へ向かって進んだ。


「門番はいないな」

「でも、侵入は察知されているはずです。気をつけましょう」


 何事もなく門をくぐったが、すぐに足が止まった。

 廊下は回廊になっていて、その真ん中に池ができているのだ。階段は回廊の奥。回り込んでいく必要があった。


「なーんか、嫌な予感がするよねえ」


 椿姫がつぶやく。


「念のため、二手に分かれましょうか」

「そうだな。俺が一人で行くよ」

「あたし、きょーいちと話してみたいな」

「ちょっと椿姫っ、ふざけてる場合じゃないのよ!?」

「まだお互いのことよく知らないし、戦いの時に息を合わせたいじゃん?」

「駄目っ。私についてきなさい」

「あーもう、紅葉姉はお堅すぎ!」


 紅葉さんに椿姫が引っ張られていく。

 二人が左手へ進んだので、俺は右から回り込もう。

 回廊の足元は板張りになっている。池とのあいだに柵などがないので、何かが突っ込んできたら遮るものがない。


 俺は正面と池に意識を向かわせる。

 こぽっ、と水の音がした。

 激しい水しぶきが上がった。


 巨大なサンショウウオみたいな異形が飛び上がり、俺に向かって突っ込んできた。とっさにジャンプして突撃を交わす。ぐしゃっ、と壁に穴が開いた。敵の左側面に着地してすぐに斬りかかる。


 皮膚はぶよぶよしていたが刃が通った。切り裂いたところからどろどろと黒い液体が漏れる。

 きゅあっ、と妙にかわいい声を上げて異形が反撃してきた。振ってきた尻尾を、俺は刀で受け流す。軌道のそれた尻尾が壁にぶつかってまた穴が開いた。


「伊吹さん、大丈夫ですか!」


 紅葉さんたちが加勢に来てくれる。


沼田大王(ヌマタノオオキミ)ねえ……。変な名前」


 椿姫はデータ画面を見ながら歩いてきた。


「椿姫、のんびりしない! あなたも戦うのよ!」

「へいへい」


 椿姫が金色の刀を構え、突っ込んだ。ヌマタノオオキミは尻尾を合わせてくる。

 椿姫は刀身で受けてはじいた。相手の脇腹に迫ると、下から切り上げる。俺の傷口に重ねる形になった。

 さらに紅葉さんも同じ場所を攻撃する。三連撃で傷口が広がり、黒い液体がどぼどぼ溢れ出す。

 ヌマタノオオキミはこちらを向いた。ぐっと体勢を下げて飛びかかってくる。


「うおおおおっ!?」


 廊下が狭すぎて避けられない。

 俺は相手の顔面に刀身を当てた。接触したまま一気に押し込まれていく。そのまま廊下の隅まで押されていって、


「ぐはっ!」


 壁に激突させられた。


「伊吹さんっ!」


 紅葉さんが側面から斬撃を浴びせた。ヌマタノオオキミは叫んで体をぐねぐね動かした。泥が飛び散る。


「うっ、痛っ……!」


 紅葉さんは泥の当たった左腕を押さえた。制服が溶けて黒い煙が出ている。


「紅葉姉、下がって!」


 椿姫がその横から前に出た。体勢を立て直したヌマタノオオキミが前足を振って攻撃してくる。椿姫は華麗に回避し、相手の右前足を切り裂いた。


 きゅあああああ!


 ヌマタノオオキミが口から泥のブレスを吐き出した。

 椿姫は大きくうしろにジャンプしてかわした。そのまま、動けなくなっている紅葉さんの襟を掴んで引っ張る。


「紅葉姉、止まってると死ぬよ?」

「わ、わかってる……」


 ヌマタノオオキミは四季園姉妹に突進していった。二人とも回避に専念している。

 ――チャンスだな。

 俺は旋風丸を握り直してそっと近づいた。


 固有剣能を発動させるにはここしかない。

 俺は低い姿勢から突っ込んだ。ヌマタノオオキミの右の下腹。そこには俺たちが与えた斬撃の痕がまだ残っている。


 旋風丸についた固有剣能〈傷口に塩〉は傷つけた部位へのダメージが増加する。狙うなら腹しかない!

 ヌマタノオオキミが俺の接近に気づいた。だがもう遅い。俺は下段に旋風丸を構えていた。


「おらああああああッ!!!」


 渾身の切り上げが腹に入った。

 初撃とは比較にならなかった。

 傷口が大きく裂けて中身が一気にこぼれだしてきた。

 ヌマタノオオキミは絶叫してのたうちまわる。刀身より長い傷口ができて、臓物がこぼれだそうとしている。


「紅葉姉、いくよ!」

「ええ!」


 ひっくり返ったヌマタノオオキミの頭に姉妹が迫る。


「せーのっ!」


 二人の斬撃が左右の目を割るように入っていった。

 紅葉さんの〈長緑(おさみどり)〉からは蔦が飛び出し、椿姫の刀からは雷撃がほとばしった。

 それぞれの属性が発動している。


 衝撃でヌマタノオオキミの巨体が跳ね上がり、そして動かなくなった。

 全員、刀を構えたままでじっと様子を窺う。ヌマタノオオキミが復活する気配はなかった。


「……倒したな」

「きょーいち、かっこよかった! 好きになっていい?」

「えええ!?」

「こらっ、椿姫! ふざけないで!」

「紅葉姉は今のきょーいちを見て何も思わなかったの?」


 冷静に問いかけられて、紅葉さんが固まる。


「……かっこよかった、です」


 ものすごく恥ずかしそうに言う。かわいいな……。


「あ、きょーいち赤くなってる。どっちの言葉に照れたんでしょうねえ」

「て、照れてねえし」

「わかりやすいんだよな~」


 にしし、と椿姫は笑った。小悪魔め。


「と、とにかく一階のボスは倒しましたし、上を目指しましょう」

「そ、そうだな。行こう行こう」

「二人で話を逸らそうとする。息が合ってますね~」

『合ってない!』


 俺と紅葉さんは同時に叫んだ。そして、お互いの顔を見合わせた。椿姫はずーっと笑っている。


「息、マジでぴったりじゃん」

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