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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
8/12

第8話 四季園椿姫

 長野駅前のロータリーはまだ残っている。城に取り込まれているのは駅舎だけだった。


 ロータリーには餓鬼の群れがいて、餓鬼王の姿もあった。

 その餓鬼王が媚びるような態度を見せているのは、棍棒を持った筋骨隆々の鬼だった。餓鬼王より大きな二本の角があり、爪や牙も大きい。何より胸についた筋肉が半端じゃない。


拷魔(ゴウマ)です。階級は5」

「トガクビリで4だったんだから、今の俺たちじゃ勝てないかもしれないな」

「そうですね。おそらく、伊吹さんの兄弟子さんたちも……」


 拷魔の体には大量の血がついていた。道場のみんなと戦ったのだろう。


「あいつが見張ってるんじゃこれ以上近づけない。いったん引き返そう」

「もういいのですか?」

「ああ。他の、階級の低そうな城を見つけてそこを攻略する」

「自分のレベル上げを優先するということですね」

「いいかな」

「もちろん。私も同行させてください」

「こっちからお願いしたいくらいだよ」

「よかった。もういいよって言われたら傷つくところでした」


 四季園さんの微笑みに、少しだけ心がほぐれる。俺を気づかってくれているのが伝わってきた。

 俺たちは敵に見つからないよう、長野駅前から離れた。


 データ画面を展開すると、長野市のマップが見られるようになっていた。そこにいくつか赤色の点が打たれていた。


「ここに城がありそうだな」

「斉明女学院が三階建てのお城でしたから、同じような外観のものを探すのがよさそうですね」

「うん、そうしよう」


 俺たちは県庁通りの方へ向かって歩き始めた。

 まだ午後になったばかりだった。朝から城に突入したが、あまり広くなかったせいか、思ったほど時間は経っていないようだ。


 歩いていると、左手にコンビニが見えてきた。電気は消えている。駐車場に制服姿の男女が六人ほど集まっていた。同い年くらいだろう。


「あーっ、紅葉姉(くれはねえ)じゃん!」


 その中の一人が大声を上げた。髪の毛に赤いメッシュを入れて、異様に短いプリーツスカートを穿いた女の子だった。


「えっ、うそ……!」


 四季園さんが両手を口に当てる。


「知り合い?」

「い、妹です! こんなところにいたなんて!」


 四季園さんが走り出すと、妹も駆け寄ってきた。

 二人で抱きしめ合って、しばらくそのままだった。


 しかし……あれが四季園さんの妹なのか。


 髪の毛は派手だし、赤いネイルしてるし、ブラウスの第一ボタンは外しているし、スカートは短いし……すごくギャルっぽい。


 大和撫子を地で行く四季園さんとは正反対の属性に思える。でも同じ制服だし、本当なんだな。


「紅葉姉も選ばれたんだ」

「じゃあ、あなたも?」

「うん。この辺の敵と戦ってた」

「あちらの皆さんは仲間なのね」

「ううん、みんな助け出した人たち。能力者はあたしだけ」

「そう……」

「てか、その人は?」


 俺はステータス画面を展開した。


「伊吹恭一だ。四季園さんと一緒に行動している。よろしく」


 向こうも画面を開き、名前を見せてくれた。

 四季園椿姫(つばき)とある。


「ツバキだよ。紅葉姉がお世話になってるみたいだね。ありがと」

「こちらこそ、助けてもらってる」

「そうなん? 紅葉姉、姉妹の中じゃ一番弱かったから心配してたんだよ」

「え?」


 俺は椿姫の能力を確認した。


――――――

四季園椿姫

体力97

攻撃75

防御45

敏捷85

技巧75

――――――


 このギャルつえぇ……!


「え、マジで言ってる? 画面いじってない?」

「この画面どうやっていじるの? 逆に教えてほしいんだけど」


 それはそうだ。


「なんで俺はこんなに弱いんだ……」

「ありゃ、落ち込んじゃった。まーまー、敵を倒せば能力も上がるし、ゲーム感覚で生きていこうよ」

「死んだら終わりだろ……?」

「え、泣いてる? キモい……」

「その一言で泣くわ」

「もうっ、椿姫は本当に遠慮がないんだから!」


 四季園さんが怒った。


「伊吹さん、申し訳ありません。椿姫はちょっと距離感がおかしいのであまり気にしないでください」

「紅葉姉ってば、ひどいこと言うじゃん。あたしは明るいだけだよ~?」

「こんな状況でも変わらないのね。あなたらしいけど」

「適応力が高いと言ってほしいな。ちゃんと人助けしてるんだから褒めてよ」

「はいはい。えらいわね」

「うわっ、うぜー。自分の方が冷静だと思ってそうでうぜー」

「なんですって!?」

「あ、キレた。はっはっは、やっぱ煽り耐性ないよねー」

「くっ……!」


 なぜ俺は姉妹喧嘩を見せられているんだ……?


「あ、あのさ」


 俺は割り込んだ。


「あの人たち、普通の人なんだろ。権堂に避難所できてるからそこまで移動してもらった方がいいんじゃないか?」

「あっ、そうですね。争っている場合ではありませんでした」

「やれやれ、紅葉姉はすぐヒートアップするんだから」


 四季園さんがムッとした顔をした。家族に対してはこんなに感情むきだしなんだな。新しい一面を見られた。

 俺たちは椿姫が救出した学生たちに声をかけ、避難所まで送ることにした。


「なあ、四季園さん」

「なんでしょう」「どうかした?」


 ……そうか、どっちも四季園だった。


「えーっと、名前で呼んだ方がいいかな?」

「確かに……」


 四季園さんは考え込む。


「椿姫、城の攻略を手伝ってもらえる?」

「いいよ」

「では紛らわしいので、私のことは紅葉と呼んでください」

「わかった」


 四季園さんが紅葉さんにバージョンアップした。


「ところで椿姫ちゃん」

「えっ、ちゃん付けキモい」

「ごめん……」


 俺はまた泣きそうになった。このギャル当たりが強すぎる。


「普通に椿姫でいいよ。あたしの方が年下だし。あなたのこともきょーいちって呼ぶし、それでいいっしょ?」


 本当に距離感がおかしい。


「わかった。じゃあ……椿姫、長野駅にできた城には入ったか?」

「いや、ロータリーまで行って引き返したよ。拷魔って異形がいたじゃん」

「ああ」

「あれ、一匹だけなら相手できるんだけど何匹かいたからね。あたし、不利って思ったらすぐに引くタイプだから早めに撤退したよ」

「そうか。俺の兄弟子たちにもその危機感があったらな……」

「もしかして、袴で戦ってた人たちの仲間?」

「同じ道場で武術を習ってたんだ」

「……助ける余裕はなかったよ」


 椿姫は低い声で言った。


「仕方ない。みんな向こう見ずに突っ込んだんだから。椿姫は気にしないでくれ」

「うん」


 落ち込ませてしまったか。


「この辺じゃ長野駅の城が一番ランク高いのかな」

「たぶんね。長野でこれなんだから、東京はもっとやばいことになってそう」

「ニュースが見られないの、不便だな」

「まあ、こっちは目の前のことで精一杯だから。他を気にしてる場合じゃないよ」


 メンタルが強そうだ。隣を歩く紅葉さんも妹を気にしている。


「あなたの腕はわかっていたけど、よく生き残っていてくれたわ。ホッとした」

「紅葉姉こそ。お互い、死ななくてよかったね」

「ええ。……お姉さまたちは大丈夫かしら」

「あの二人もたぶん選ばれてるはず。だったら死ぬ要素がないよ」

「そうかもね」

「お姉さんたちは大学生とか?」

「ええ、一番上が大学四年生で、次が大学二年生。その次が高三の私で、最後に高一の椿姫という四人姉妹です」

「みんな剣道やってるんだ?」

「一つ上の姉だけは、伊吹さんのように武術を習っています。剣道と掛け持ちですね」

「アオイ姉はガチで猛者だからなぁ。攻撃力カンストしてそう」


 めちゃくちゃ強そうだ。


「ところで……袴姿で、髪の毛を縛ってる男の人を見なかった?」

「んー? 見てないな。それも道場の人?」

「ああ」


 兄弟子たちの生首は晒されていたが、あそこに翔太郎さんの首はなかった。

 あの人はまだどこかで生きているはず。相当強いし、簡単に殺されるとは思えない。

 彼女らが姉のことを心配するように、俺も翔太郎さんの行方を気にしていた。

 また、無事に再会できたらいいのだが……。

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