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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
4/12

第4話 突入

「約束事を決めておこう」


 四季園さんを落ち着けるべく、俺は言った。


「勝手に突っ走らない。進む時は、お互いが無事であることを確かめてから行動」

「そうですね。無茶はしません」


 四季園さんはスカートのポケットから、日本刀のキーホルダーみたいなものを出した。


「解放」


 彼女がつぶやくと、刀が一瞬で大きくなった。さっき手に入れた〈長緑(おさみどり)〉だ。そういえば見かけないと思ったが……。


「そうやって収納できるのか」

「ご存じなかったんですか?」

「神様の説明が少なすぎるんだよ」

「能力画面の横に色々な説明が載っていますよ」

「マジ? そんなヘルプ機能ついてんの?」

「ええ」


 情報弱者が戦場で取り残されるのは必然だなあ。やられる前に気づけてよかった。


「収納」


 四季園さんが左手を掲げてつぶやくと、鞘だけが小さくなった。


「これで場所を取られません」


 俺もさっそく「収納」とつぶやいて鞘をしまった。


「よし、突入!」


 俺が先頭に立ち、うしろから四季園さんがついてくる。

 入り口の門は開きっぱなし。そこを抜けると、正面に長い廊下が見えていた。が、どう考えても長すぎる。空間が歪んでいるとしか思えない。


 廊下には途中に左右へ進む分岐ルートがある。


「どうする?」

「勘ですが、右へ行ってみましょう」


 まずは四季園さんの感覚を信じよう。

 俺は右に折れた。壁は白く、床は木の板でできている。角を曲がった。


 ――制服姿の女の子が立っていた。


「山川さん!」


 四季園さんが駆け寄ろうとして硬直した。

 女の子は、よく見ると首を巨大な手に掴まれていた。

 ドス、ドス、と足音がして、餓鬼が大きくなったような異形が姿を現す。女の子の体が床から離れる。体がだらりと垂れた。あれは、もう……。


 俺はすばやくデータ画面を開き、敵の情報を照会した。


餓鬼王(ガキオウ)……。ランクとしては昨日のハゼカイナより一つ下か」


 上位種というものが存在するようだ。


「許さない……」


 四季園さんの声が震えていた。


「山川さんを離せええええええッ!!!」


 四季園さんが刀を構えて突っ込んだ。


「おい、無茶は駄目だって!」


 俺もすぐに追いかけた。

 餓鬼王は女の子をその場に落とし、太い両腕を振るってきた。手首に腕輪がついていて、四季園さんの刀はそれではじかれた。廊下はあまり広くない。刀は不利だ。


「壁にぶつけるなよ!」

「わかってます!」


 四季園さんは連続で斬撃を繰り出し、餓鬼王と打ち合った。相手は腕輪でしっかり受けてくる。


 グアアアアアア!


 餓鬼王の咆哮で四季園さんがよろけた。相手の右ストレートが襲いかかってくる。


「させるか!」


 俺は割り込み、刀身で拳をそらした。相手の攻撃を受け流すのは、俺の習っている月山流(がっさんりゅう)の基本戦術だ。


 今度は俺が反撃していく。斬撃は受けられるが、相手を後退させている。

 ふわっと、餓鬼王の背後に影が踊った。四季園さんが相手の頭上を飛び越えて背後を取ったのだ。


「消えてもらいます」


 そんな声が聞こえ、餓鬼王の胸から刀身が突き出てきた。


 ぐおおおおお……。


 餓鬼王の動きが鈍った。これは〈長緑〉の固有剣能、〈(から)(づた)〉の効果だ。斬った相手の動きを鈍らせる。仕留めるなら今しかない!


「おらああああああ!!!」


 俺は跳躍し、脳天に刀を振り下ろした。

 餓鬼王の頭が真っ二つに裂けて、血ではなく黒い瘴気が大量に噴き出した。

 相手の巨体が倒れ、動かなくなった。


「……やりましたね」

「ああ、しっかり勝った」


 俺は深く息を吐いた。四季園さんはハッとした顔になり、倒れている女の子に駆け寄った。


「山川さん、山川さん」


 倒れたままの女の子に、四季園さんは声をかけ続けた。だが、返事はない。四季園さんは首筋に指を当てた。その瞬間、すべてを悟ったようだ。


「う、うううっ……!」


 四季園さんが女の子の横にうずくまって、床を拳で叩いた。


「絶対に許さない……。許さないから……」


 四季園さんは刀を手に立ち上がった。涙をぬぐい、決意に満ちた顔を俺に向けてくる。


「みんな殺されたと決まったわけではありません。生きている人がいるかもしれませんし、探すのを手伝っていただけますか」

「ああ、やろう。そのために来たんだ」


 ポーン、とあの冴えない音が聞こえた。あらためてステータスを確認する。


――――――

伊吹恭一

体力175

攻撃56

防御50

敏捷52

技巧50

――――――


 体力は減り続けているが、攻撃が確実に上がっている。いつになったら固有剣能は解放されるんだ?


「進みましょう」


 今度は四季園さんが先頭になって、廊下を歩き出した。俺は後方を警戒する。

 廊下の突き当たりに階段があった。俺たちはアイコンタクトを交わし、階段を上っていく。

 二階に出ると、すぐ左手に畳の敷かれた広間があった。


「うあ……」


 四季園さんが呻いた。

 広間には学生たちが五人も倒れていたのだ。近くに金管楽器があるところから見るに、ここはかつて吹奏楽部の部室だったのだろう。


「敵は……いませんね」


 四季園さんが内部を確認してから走り出した。一番手前の女子の首筋に指を当てる。


「い、生きてるっ……!」


 四季園さんが嬉しそうな声を上げた。

 俺も若干の背徳感を覚えつつ女子生徒の首筋に指を当ててみたが、ちゃんと脈打っているのが伝わってきた。大丈夫だ。


「気を失っているだけらしいな」

「よかったぁ……」


 女子五人、全員の生存を確認した。運ぶのは難しいので、ひとまず仰向けで並べて横にさせてやる。

 四季園さんがステータス画面からデータ画面に飛んだ。


「最下層を突破するとお城の情報が解放されるみたいですね」

「どんな感じなんだ」

「城郭階級〈1〉と表示されています」

「じゃあ、一番しょぼい城ってことか?」

「そのようですね。階級は10が上限、と」

「1でこれなのか……」

「一人で突破するのは無理ですね。助けなきゃいけない人もいますし、手が回らない」


 その通り。二人でもきついくらいだ。


「〈配置戦力・小〉とも書いてあります」

「確かに少ない。今のところ餓鬼王とぶつかっただけだしな」

「三階にボスがいる可能性は高いですね。あまり詳しくないのですが、大将は最上階にいるものなのですよね?」

「まあ、基本的にはそうじゃないかな」


 ゲームでも、ボスはダンジョンの一番奥にいると相場が決まっている。


「大将を倒せば、学校は元に戻るでしょうか」

「俺はそうなると思うな」


 ネガティブなことは言わない方がいいだろう。


「踏破ボーナスで一気に能力上がらないかな」

「それは期待しすぎない方がいいかと。お城のレベルも低いようですし」

「ま、期待すると裏切られた時ダメージでかいか」

「そうですよ」


 ははは、と二人で笑い合う。ただ俺には、四季園さんが無理して笑っているように見えた。友達の死を見せつけられたのだ。いつも通りでいられるはずがない。少しでも力になってやりたいな、と思った。

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