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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
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第2話 爆腕-ハゼカイナ-

 さっきの通りに戻ってきたら、とんでもない数の餓鬼が死体になって転がっていた。

 翔太郎さんが怪我をした人の手当てをしている。兄弟子たちは残党の討伐にかかっていた。


「恭一も無事だったか」

「翔太郎さんも怪我はないんですね」

「たいしたことはなかった」


 こんな状況でも涼しい顔だ。

 腕前は圧倒的だけど、けっして驕らない。ちょっと口下手ではあるが、そんなところも含めて俺はこの兄弟子を尊敬していた。


「あいつらは大丈夫なのか? 武器を手に入れてはしゃぎすぎているようだが」

「さあ……」


 道場では高三の俺が最年少だ。今日は師範が休みだったので、翔太郎さんが中心になって鍛錬を行っていた。師範は無事かな……。


「うおーっ、固有剣能が解放されたー!」


 兄弟子の一人、安堂(あんどう)さんが声を上げた。大柄な大学生だ。


「これ、もう世界救えるだろ」


 安堂さんはニヤニヤしている。異常な状況に置かれてメンタルがおかしくなってないか?


「ははっ、みんなぶっ倒してやるぜー!」


 安堂さんは、はしゃいでどこかへ走っていってしまった。

 おいおい、どう考えても敵は餓鬼だけじゃないだろ。みんなで協力すべきなのに。


「翔太郎さん、さっきの刀、武器攻撃力7でしたよね?」


 残った兄弟子たちが不気味な笑みを浮かべて近づいてきた。


「俺ら、それよりいい性能の刀を手に入れちゃったんで、これから各自行動します」

「おい、まだ状況がわからないんだぞ。下手に動き回るべきじゃ……」

「助ける力があるなら俺らがやらなきゃ。今も人が襲われてるんですよ?」

「そうかもしれないが……」

「おい恭一、お前も武器を手に入れたようだな。性能は?」


 俺は一瞬言葉に詰まったが、正直に武器攻撃力5で固有剣能は解放待ちであることを打ち明けた。すると、みんな面白そうに笑った。


「情けねえな。あれだけ本物のサムライになるとか言いながら武器の能力すらアンロックできないのかよ」

「しかも攻撃力5って……くくく」

「本人もあんなに鍛錬して全部50だし……はは」


 俺はうつむいた。異常事態では人間の本性が出る。みんな心の中では俺を馬鹿にしていたのだ。


「おい、俺たちは仲間を馬鹿にして笑うような真似は教わっていないはずだぞ」


 翔太郎さんだけが俺をかばってくれた。


「でも実際弱いですし」

「数字って残酷ですねえ」

「憧れだけじゃ限界ありますよ」


 俺は兄弟子たちの顔を見ることができなかった。


「じゃあ、俺らは救助に行きます。別に悪いことじゃないでしょ? 翔太郎さんは翔太郎さんでやりたいことやってください。じゃあまた」

「おい!」


 翔太郎さんが止める間もなく、兄弟子たちは行ってしまった。


「……恭一、あまり気を落とすな」

「はい……」

「あの人たち、ひどすぎます。伊吹さんは私を助けてくれました。なのに数字や能力だけで決めつけるなんて」


 四季園さんが怒った声で言った。


「どうも俺、みんなに見下されてたみたいだ。今まで気づかなかったなんて間抜けだよな」

「伊吹さん、あなたが素晴らしい人だということは私がわかっています。このご恩は絶対に忘れませんからね」


 そう言ってもらえるだけで救われる。しかし……。


「翔太郎さん、これからどうします?」

「とりあえず今のうちは、あまり道場から離れない方がいいだろうな。通信もやられているし、逃げてきた人が通りかかったら情報を集めてみよう」


 さすが、冷静だ。


「四季園さん、よかったら一緒に来ないか?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん。道場なら男女別で休めると思うし」

「あ、ありがとうございます」


 翔太郎さんは手当てをしていた女性を抱きかかえた。気を失っているようだ。


「行くか」


     †


 道場の前まで来たところで、俺たちは止まった。

 門の前に大型の異形がいたのだ。

 赤色の皮膚で、異様に太い両腕を持っている。両腕を持ち上げていられないのか、拳を地面につけて前傾姿勢を取っていた。頭は見上げるほどの位置にある。


爆腕(ハゼカイナ)という異形だな。動きは鈍いが一撃食らうだけでも即死級の破壊力を持つらしい」


 翔太郎さんの前に敵のデータ画面が出ていた。

 あの声の主は俺たちに何をさせたい? こんな地獄を作り出して、この世界をどうしようっていうんだ。


「恭一、戦えるか」

「やります」

「二人でなんとかするぞ」


 翔太郎さんは気を失っている女性を四季園さんに預け、刀を抜いた。

 左右に散開し、ハゼカイナの両側面から迫る。


 うおおおおおおおおん!!!


 相手のすさまじい咆哮! 思わず立ち止まってしまう。


「怯むな!」


 翔太郎さんが突っ込んでいった。

 相手の左腕に刀をぶつける。だがはじかれた。皮膚が恐ろしく硬い。

 ハゼカイナが左腕を振るった。それだけで強烈な風が起きる。俺は腕で顔を隠した。

 翔太郎さんは回避しつつ、反撃の剣を放った。しかし、どれも通らない。

 俺もようやく立ち直って、右側から斬撃を加える。硬い。どうしても刀が跳ね返される。


「腕は駄目だ! 他の部位を狙おう!」

「はい!」


 翔太郎さんが跳んだ。突き出された相手の腕を走って、眉間に突きを入れる。

 刺さった。

 ハゼカイナが絶叫した。その衝撃で翔太郎さんが吹き飛ばされた。俺は走っていってキャッチする。


「すまん」

「怪我はないですか?」

「平気だ」


 翔太郎さんは体勢を立て直した。


「恭一、やはりお前は下がっていろ」

「で、でも」

「どうやら二人で相手をすると俺の固有剣能が発動しないらしい」


 翔太郎さんの固有剣能〈対面優位〉――1対1の戦闘時のみ、持ち主の攻撃力が2倍になる。

 そうか、仲間の手助けも認められないのか。

 翔太郎さんはまっすぐハゼカイナに突っ込んでいく。相手の豪腕をかいくぐり、懐に潜り込んだ。


「消えろ」


 真上に跳んで、喉に刀を突き刺す。完全に通った!

 喉を貫かれたハゼカイナは、呻き声を上げながら後方へ倒れていく。どおん、と振動が起きた。敵は完全に沈黙した。


「……勝ったようだな」

「さ、さすがですね翔太郎さん」

「たまたまだ」


 こういう時でも手柄を誇らない。いつもの翔太郎さんだな、と思いつつ、俺は悔しさを感じていた。


 なんの役にも立てなかった。ダメージすら与えられなかった。

 俺の身体能力は確実に上がっていて、武器も手に入れられた。

 でも固有剣能はないし、今ではまだ足手まとい。


「くそっ……」

「落ち込むな」

「翔太郎さん……」

「お前の頑張りはちゃんと見ている。すぐに成長できるさ」


 初めてかけてくれた、兄弟子の優しい言葉。俺は少しだけ救われた気分だった。

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