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サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
10/12

第10話 分かつ風

 ヌマタノオオキミの死体が黒い粒子になって消えていった。あとには勾玉が一つ、残されていた。


「武器は出なかったか。こういうでっかいモンスターからは何個もアイテムが落ちるようにしてほしいね」


 椿姫が文句を言った。同感である。


「紅葉姉、きょーいちに使ってもらうってことでいい?」

「ええ」

「ええ!?」


 似ているようで似ていない反応をする俺と紅葉さん。椿姫がまたにやついている。


「今回の……なんていうの? 一番手柄?――はきょーいちだと思うし、使っていいよ」

「でも」

「遠慮せずにはい!」


 押しつけられたので、俺はありがたく使わせてもらうことにした。

 旋風丸のスロットに勾玉をはめ込む。

 三つの項目が浮き出てきた。


「俺も属性あった方がいいか?」

「そうですね。全員で別々の属性があれば、耐性を持つ敵に対しても抗えますし」

「いいと思うよ。耐性あったってまったく通らないわけじゃないし、持ってて損はない」

「じゃあ属性をつけよう」


 ただ、これってランダムなんだよな。紅葉さんや椿姫とかぶらなければいいが。

 属性を選択すると、旋風丸が光った。あらためて武器ステータスが表示される。


――――――

〈旋風丸〉

・武器攻撃力5

・保有属性〈業火(ごうか)

・固有剣能〈傷口に塩〉

 傷ついた部位を攻撃した際、損傷値が2倍になる。

――――――


「おっ、火属性だ! これはいいんじゃないか?」

「いい感じにばらけたね」

「これで、有利な属性を中心に戦術が組めますね」


 俺自身の能力もそうだが、着実に強くなっている。本当はいきなり最強に覚醒して無双したかったが、現実はそう甘くなかった。それでも俺は死ぬことなく成長を続けている。まだまだやれる。


「そんじゃ、二階の攻略にかかるか」

「行きましょう」


 三人で二階へ上がった。

 上がった先は迷路のような細い廊下になっている。


「見通しが利かないな」

「敵の気配ってなんとなくわかるでしょ。感覚を頼りに行くべし」

「俺は椿姫のようにできないんだけど」

「そうよ。できて当然のように言わないで」


 はあ~、と椿姫が深いため息をついた。


「きょーいちはともかく、紅葉姉は本当にあたしと同じ鍛錬してたんですかねえ?」

「うっ……。で、できないものは仕方ないでしょ!」


 紅葉さんが顔を赤くする。


「まあ、その辺はスキルで補ってくしかないね」

「そ、そうね……」

「ボスを倒したら紅葉さんに勾玉を使ってもらおう。椿姫、いいよな?」

「みんなで生き延びるならそれしかないか。他の敵からドロップしたらあたしにもちょうだいね」


 俺と紅葉さんはうなずいた。

 ここで城の情報を確認する。一階さえ踏破してしまえば城郭情報を閲覧できるのだ。


「城郭階級2、配置戦力・小」


 紅葉さんが読み上げた。


「斉明女学院よりはちょい上か」

「てか、ここって元はなんの建物だったっけ? 倒れてる人いないよね」

「なんだっけ。ファミレスがあったんじゃなかったか?」

「異変が起きたのは夕方だった。まだお客さんが少なくて、取り込まれた人は脱出できたのかもしれないわね」


 そうだといいが。


 俺たちは廊下をゆっくり進んでいった。

 ぎゃっ、と声がした。曲がり角から餓鬼の群れが襲いかかってくる。

 俺は即座に旋風丸を振って一匹目の首をはねた。向こうも渋滞している。その隙を突いて斬撃を繰り出し、十匹の集団を一気に全滅させる。


「すごい……。鮮やかな技でした」

「ありがとう」

「きょーいち、やるじゃん。全然弱くないよ」


 俺は照れくさくなって頭をかいた。

 さらに迷路を歩いていく。通った道はマッピングされていくので、最悪来た道を引き返せばいい。

 うねうねとかなり面倒な造りになっていた。餓鬼すら見当たらず、ただ息を潜めて歩くだけの単調な攻略になっている。


「配置戦力、小どころか無なんですけど~」


 椿姫がぼやいた。


「その分、奥に集中してるのかもな」

「それはそれでだるいっすなあ」


 ごおおおおおおお……。


「ん?」

「なんでしょう……」


 風の音か?

 奥で竜巻でも起きているんじゃないだろうな。城の出現自体が異常だから何が起きてもおかしくない。

 俺たちは刀を構え、その場で待機した。


 ごおおおおおおお……。


 風の音がどんどん大きくなってくる。異形が近づいているのか、ただ風が吹いているのか。


「……なあ、二人とも」

「はい?」「なに?」

「ここまで、ずっと細い通路だったよな」

「ええ、そうでした」

「隙間もなかったよな」

「脇道のこと? なかったね」

「ってことはさ、暴風が吹き込んできたら、ここって――」


 言った瞬間、視界がぶれる。

 すさまじい風に押し込まれて、俺たちはなすすべなく吹き飛ばされていた。

 風は迷路に沿って走った。俺は上下左右に振られながら必死でこらえた。


 そのうち、風が止んだ。

 俺は見覚えのない通路の曲がり角にいた。迷路のどこまで飛ばされた?

 マップを確認してみるが、自分の足で歩いていないせいか、情報画面に霧がかかっている。

 まずいな……。


「あれ?」


 俺は周囲を見渡す。


「いない……」


 周りは静かだった。

 どうやら俺は、四季園姉妹と分断されてしまったらしい。

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