表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライソード・ダンジョン  作者: 雨地草太郎
1/12

第1話 崩壊

 道場で師範代の話を聞いている時、その地震は起きた。

「でかいぞ!」

 兄弟子の誰かが叫び、みんな板の間にうずくまった。


 ――これは震度7いったんじゃないか?


 俺は両手で頭を隠しながら思った。

 やがて振動が収まると、みんなおっかなびっくり立ち上がった。


『能力付与の抽選を開始します』


 不意に、女の声が頭の中に響いた。

 道場には男しかいないのに。誰かしゃべったか?

 周りが騒ぎ出す。どうやらみんな同じ声を聞いたらしかった。


(ひら)け」


 まだ二十四歳の師範代、蓮見(はすみ)翔太郎(しょうたろう)さんがいきなり言った。

 翔太郎さんの胸の前に、ホログラムみたいな画面が浮き出た。


――――――

蓮見翔太郎

体力150

攻撃85

防御85

敏捷90

技巧85

――――――


 ……そんな数字が表示されている。俺にもなぜか理解できた。体力の数値の上限は200で、他の能力の上限は100。

 つまり翔太郎さんは相当強い部類に入る。

 みんな興奮した様子で次々と「開け」と言い始めた。俺もやってみよう。


「開け」


――――――

伊吹(いぶき)恭一(きょういち)

体力200

攻撃50

防御50

敏捷50

技巧50

――――――


 び、微妙……!

 体力がMAXなのは驚くべき事実だが、他が全部平均のど真ん中! 道理で翔太郎さんと稽古しても歯が立たないと思ったぜ。


「恭一、お前しょぼいな」

「はは、全部50じゃん」

「体力なんて攻撃食らいまくってたらないに等しいし」


 周りの兄弟子たちが笑う。俺は黙って耐えた。


「おい、それより街の様子を見に行こう。やばいことが起きているのは確かだ」


 翔太郎さんが言って、走り出した。みんな道着の袴のままあとに続いた。


     †


 長野市。長野県にあるごく普通の地方都市。

 そんな見慣れた街は地獄と化していた。

 倒壊した家、外壁の剥がれたビル、切れた電線。

 そして、逃げ惑う人々を追いかける、赤黒い肌をした化け物。


「なんだあれ……鬼?」


 漫画で見るような鬼……どっちかというとゴブリンにそっくりだった。


『能力の付与を受けた者は、武器を取り異形(いぎょう)への攻撃を開始してください』


 またしても謎の声が頭に響いた。


「能力の付与……さっきの画面を開けない奴はいるか」

「お、俺は出せません」


 兄弟子の一人が申し訳なさそうに言った。翔太郎さんがうなずく。

 俺も気づいた。このデータ画面みたいなものは、能力の付与を受けた人間しか開くことができないのだ。


「おれ開けるけど……え、戦わなきゃいけないのか? あいつらと?」


 別の兄弟子がおびえたようにつぶやいた。


「よくわからないが、やらないといけない気がする」


 翔太郎さんは俺に視線をよこした。まっすぐ歩いてくる。


「な、なんですか?」

「お前じゃない」


 あっさりスルーされる。

 翔太郎さんは俺のうしろの地面に突き刺さっていた刀を引き抜いた。パラメータが出る。


――――――

銀花刀(ぎんかとう)

・武器攻撃力7

・保有属性〈なし〉

・固有剣能(けんのう)〈対面優位〉

 1対1の戦闘時、武器攻撃力が2倍になる。

――――――


 えっ、普通に刺さってたわりには強すぎない?

 武器攻撃力は上限が10。自分の攻撃力と武器攻撃力を合わせた数値で相手にダメージを与える。そんな仕組みを、俺はなぜか理解できていた。

 固有剣能というのは武器ごとに付与されているスキルのことらしい。それにしても、ほぼノーリスクで武器攻撃力が上限を超えるって。壊れてやがる。


「とにかくやってみるか」


 翔太郎さんは刀を抜くと、ビル街へ向かっていった。

 暴れ回っている小型の鬼は餓鬼(ガキ)と呼ばれる異形だ。怪物の中では一番弱いが、一番数が多い。自然と頭の中に敵の情報が入ってきていた。


 翔太郎さんはダッシュで突っ込み、なんのためらいもなく餓鬼の首をはねた。さらに二匹、三匹と倒していく。


「す、すげえ……」

「お、俺もできそうな気がしてきた!」


 選ばれた兄弟子たちが武器を探しに行く。

 俺は震えていた。

 しかし、これは恐怖による震えではない。

 俺は興奮していたのだ。


 なぜかって?

 俺は正義のヒーローに憧れていたからだ。かっこいい剣士になりたくて、こうやって総合武術の道場にまで通っている高校三年生。ついに舞台がやってきた!


「うおーっ、武器はどこだぁーっ!」


 俺は兄弟子たちと違う方向に進み、武器を探し回った。ハンマーや槍を見つけたが、サムライに憧れたのだからやっぱり刀がいい。どこかにないか?


「きゃあ!」


 女性の悲鳴が聞こえた。路地の角から顔を出すと、裏通りに制服姿の女の子が転んでいた。すぐ近くに餓鬼が二匹いる。


「うう、こ、こんな……!」


 女の子がおびえた声を出す。……このシチュエーション見逃すとかありえる?


「俺に任せろッ!」


 俺は丸腰で突っ込み、女の子の前に立った。

 ぎゃっ、と叫んで餓鬼が飛びかかってきた。俺は相手の爪を避けながら当て身を食らわせる。二匹目が殴ってきたので、拳で受け流して手首を押さえる。


「おらあ!」


 そのまま放り投げた。が、餓鬼どもはこの程度では消えてくれないらしく、平然と立ち上がってくる。どうも分が悪そうだ。


「立てる!?」

「あ、はい!」

「こっちだ!」


 俺は女の子の右手を掴んで走った。飛ばしすぎて女の子が転ばないようにちゃんと気を配って。

 門の倒れた雑居ビルがあったのでそこに入り、植木の陰に隠れた。


「大丈夫か?」

「は、はい……。あの、あなたは?」

「あ、そうだね。――開け」


 俺はパラメータ画面を出す。


「伊吹恭一だ。柳町(やなぎまち)高校三年生」

「柳町の生徒さん……。すごいですね」

「君は?」

「えっと……それって私も出せるんでしょうか?」

「選ばれていればできると思うけど」

「じゃあ……開け」


 画面が展開された。


――――――

四季園(しきぞの)紅葉(くれは)

体力85

攻撃65

防御40

敏捷85

技巧60

――――――


「四季園紅葉と言います。よろしくお願いいたします」

「ああ……」


 どういう反応すればいいんだ、これ。

 四季園さんのデータが表示された。つまり能力を付与された者ってわけだ。


 ステータスは体力と防御が俺より下。でも攻撃数値で負けている? この子、武術の鍛錬を受けている俺より強いの? しかも翔太郎さんに迫るほど素早いの? 最初の抽選とやらでこうやって振り分けられただけ? すべてが謎だ。


 二人で顔を見合わせていると、餓鬼二匹が敷地の中に入ってきた。すぐ俺たちに気づく。


「まずいな」

「あの、伊吹さん」

「どうした?」

「そこに、刀が」

「なんだって!?」


 四季園さんの指さした先には、青色のオーラを纏った日本刀が地面に突き刺さっていた。

 俺は迷わずそいつを抜いた。


――――――

旋風丸(せんぷうまる)

・武器攻撃力5

・保有属性〈なし〉

・固有剣能〈不明〉

 「勾玉(まがたま)」の入手により解放

――――――


「能力ついてねえ……」


 しかも武器攻撃力が低い。ただでさえ俺自身の攻撃力が低いのに、武器攻撃力まで低いのはあまりにひどい。翔太郎さんってやっぱりいろいろと持ってる人だよな。


 まあ、人をうらやんでいても仕方がない。

 俺は刀を抜き、餓鬼と正対した。

 向こうが仕掛けてきたので、ギリギリまで引きつけてまず一匹目を斬り倒す。遅れて飛びかかってきた二匹目も難なく腹を切り裂いて倒した。


「敵が弱いからなんとかなったな……」

「す、すごいですね伊吹さん! かっこよかったです!」


 四季園さんが目を輝かせて近づいてきた。

 よくよく見るとものすごい美少女だった。つややかなロングストレートの黒髪。前髪にヘアピンが二つついている。目は切れ長でまつげは長い。頬はふっくらして見るからに健康そうだ。完璧すぎる清楚美人である。


「剣術を習っているのですか?」

「まあね。サムライに憧れて始めた」

「サムライ……」

「時代劇で見るサムライってかっこよくてさ、俺もああいう正義のヒーローになりたかったんだ。こんな状況は望んじゃいなかったけどな」

「でも、これは確かに現実です。私は伊吹さんに助けてもらいました」


 信じられないよな。

 大地震が来たと思ったら、街には化け物が溢れていて、俺は戦闘能力に覚醒した?

 起きるにしても段階を踏んでくれよ。一気に来たら頭がパンクする。


「とりあえず、道場の仲間たちと合流しよう。他にも覚醒した兄弟子がいるから、みんなで固まってた方がいいと思うんだ」

「は、はい。スマホも通じませんし、その方がよさそうですね」


 俺たちは表通りを目指して移動した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ