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供花・静咲
『供花』
花をもらった
名前も知らない
明るくて花弁の多い
絵に描いたような花
茎は持ちやすい長さ
切られた足は不自由
都会の街を
花を持って歩く
明るくて街灯の多い
絵に描いたような街
道は歩きやすい横幅
切られた心は不可視
道の端に花束
タイヤ痕はとうに消えた
石の柱の足下
知らぬ誰かが知らぬまま
その命を散らす
この花もいつか
誰にも知られず
散るのだろう
私は花束のかさを増やして
今日も花のない街へ消える
『静咲』
花を見ていた
名前も知らない
白くてなんの特徴もない
想像するのに容易い花
周りにあった花々は
先程誰かが摘んで行った
ぽつんと一つ咲いている
「寂しいかい」
聞いてみる
もちろん何も答えない
公園の土は硬そうだ
切られた足の真ん中
一人だけ五体満足なのに
きっと彼はどこにも行けない
この花もいつか
誰にも知られず
散るのだろうか
でも私は知ってる
ここに花があることを
摘まれなかったのが
ただ忘れられていた
だけなのだとしても
静かに力強く咲いて
今日もこの街の真ん中で
花であり続けるのだろう