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紗幕・窓際、浮かぶ文字列
『紗幕』
隙間に映る君の肌色
見せて煌めく光影
雲の隙間から光が覗いて
ただ私を誘惑する
手をのばす、見えないそれに
光が網膜に届くだけで
そこにあるかのように錯覚して
魅入られて、微笑むそれに
私はひたすら恋をしている
私はひたすら愛している
たとえ曇天の隙間から
薄い光しか見えなくとも
その夜風になびく美しさの
一端しか知らなくとも
それが私のすべてだから
『窓際、浮かぶ文字列』
眺めて時間が過ぎた
無意味を咀嚼する生活だ
流れる人生を身に受けて
その冷たい風を感じている
つらい過去を反芻して
液晶が映す明朝体の
間抜けた形が抜けてゆく
眼球の裏側を滑ってゆく
街の匂いがする窓際に座って
ぼうっと空を眺めている
眺めて
時間が過ぎ去るのを待っている
その強い流れの中に
身が溶けるのを待っている
窓際で文字列を眺めている
世界を眺めている
その意味だって知らぬまま
ただ浮かぶ世界を見ている