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腐臭・天国

『腐臭』


腐り落ちた右腕


終わりかけの午前と


揺れる吊り革


離れた腕は電車の中


啼きながら這いずる


モニターに映る


記憶より老けた芸能人


金貸しのコマーシャルが


「生きていて楽しいか?」と囁く


鞄の中は腐臭


循環しない空気


無機質に温度だけを保つ空調


かろうじて残る左腕は


ただ垂れて揺れるばかり


目から蛆が湧く


羽音がする


揺られる車内一人


沢山の孤独が腐る


きっとこんな場所より


棺桶の中のほうがずっと


僕らの居場所に相応しい



『天国』


空に浮かぶ大陸


光の降り注ぐ山々


白く美しい楽園が広がる


祝福を受けて


私は外界を忘れる


一人 太陽の手を取って踊る


広大で 自由で 何もない


さあ 三拍子を踏んで


音楽などないけれど


ここには私と天国だけ


身に纏う衣もとうに脱ぎ捨てた


言葉すらも置き去りにして


ここではそんなもの


誰にも届かないから


喉も 腕も 捨て去って


ああ キャンバスを歩いて


筆も絵の具もないけれど


ここには私と天国だけ


神様なんて知らないから


友人も家族もどうだっていいから


ここではそんなもの


全部過去のものだから


全部いらない 全部消して


天国 私だけの

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