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第七話 学園生活も楽じゃない

「さて、この『魔法統一国家ブリテン』は約500年前に建国された。この時期を建国期といい、他国との戦争が最も多い時期ということで別名闘争期とも呼ばれている」


 広く静かな講義室にカリカリというノートにペンを走らせる音と教壇の上で歴史について語るギーム先生の年齢を表すような渋い声が響く。眼鏡をかけていて、その頭は寂しいがそれとは関係なく厳格な人だと聞いている。

 同時に『六天』に絶対の忠誠を持っているとも。


「ここで教科書に目を通してほしい。建国期には様々な問題が起きたという記録が残っている。特に『魔王軍』と呼ばれていた謎の集団によるテロ活動が頻発していたようだ」


 生徒全員に配布されている教科書にはその時期を表している絵と共に軽い説明が入っており、それを補足する形で語られている。

 学園生活初めての授業は歴史、常識に疎い俺からしてみれば非常にありがたい授業である。


「この時期に君臨していた六人、それが後に『六天』と呼ばれる家の始祖様達だ。この始祖様を『始まりの六人』と呼ぶ。テストにも出すから全員記憶しておくように」


 『始まりの六人』ねぇ……。やはり強かったのだろうか?この世界は前世と違い死の距離が遥かに近い。だからなのかやはり上の立場には強い人が立つのが自然になっていると前爺さんが言っていた。

 あの爺さんの言うことだからどれだけ本当なのか分からないが。


「この『始まりの六人』、そしてこのブリテンの民である『天遣い』。つまり我々のことだが……。我々に力を与えてくださったのが首都キャメロットに存在する『聖樹様』だとされている」


 『聖樹様』、それは天を衝くほどの大きさを誇る大木である。

 遠目で見たことがあるが、確かに異様な大きさと威厳、そして想像もできない魔力を感じさせた。

 神聖なものとされ、『固有』とは聖樹が与えたものだとされている。


「事実我々『天遣い』と『聖樹様』の間には繋がりが存在している。かの存在の影響がある土地において我々に魔力が切れるということはない」


 逆に言えばこの国から出たら俺達はものっすごく弱体化するということか。

 他国に行ったことないからどういう感覚なのか全くないが……。


「そして我が国において他国との戦争はこの『聖樹様』を狙う強盗達との戦いと言っても過言ではない。彼らは『聖樹様』を邪悪な存在(・・・・・)として扱い何度もこの国に攻め込んできている。教科書に載っている通りの間隔でね」


 教科書に載っている資料に目を通すとおよそ50年間隔でどこかの国が攻め込んで来ているらしい。

 『ヴァリマヤーナ王国』、『シベール共和国』というところが代表的みたいだな。

 前者はモンスターによる被害が多い為住める場所と『聖樹様』を求めて侵攻してきたらしい。

 後者の方は……金こそが全てという価値観なのでそれに則って金になるものを奪いに、か。

 何というか人間の業を感じさせる話だな。


「無論これらに対して我々とてやられるままではない。反撃をし、常に追い返してきた。その戦場において最も活躍してきたのが歴代の『六天』である。つい15年前も『ヴァリマヤーナ王国』による侵攻があった。その時、敵の最大戦力と戦い名誉の戦死を遂げながらその侵攻を阻んだのも『六天』の先代当主達」


 つまり救国の英雄、ってわけか。というかそんな歴史ある『六天』の当主達を倒した最大戦力ってどんな奴だ……。複数形ってことは死んだの一人だけじゃなさそうだし。

 だがそれだけ強い奴と戦えるだけの『固有』とそれを操る素質を継承してきたのだろう。

 きっと婿とか嫁も選べない堅苦しい生活が待っていそうで考えただけで息が詰まりそうになる。


「『王国』や『共和国』からこの国と民、そして『聖樹様』を守る最強にして最後の盾であり矛であるのが『六天』である。ゆえに全国民は彼らを認め、彼らのために働く義務があるのだ」


 いやそりゃ理屈の上じゃそうかもしれないけど、感情面で言ったらそううまくいくとは思えないんだが。

 人はやはり最終的には自分を優先するはずだ。自分以外を優先するとしたらそれが己より大切だから。

 戦争時代を知らない若いのが多く、守られているという認識も少ない今の時代じゃそんな忠誠を求めるのは難しいと思ったんだが……。


「おお……流石は『六天』……」「しかもその後侵攻してきた男はシロネ・キャスルーク様に捕らえられたらしいぞ」「『人堕ち』の癖にブリテンに歯向かうなんて」「だがその強さはキャスルーク家が認めるほどだ」「噂ではクロネ様の父にあたるとか」「なんと、そんな化け物を受け入れるどころか血を混ぜるとは……シロネ様の強さに対する貪欲さは凄いな」「ああ、この国を絶対守るという意志が伝わってくるようだ」「私達もあのシロネ様をはじめとした『六天』の方々に報いれるように頑張らなくちゃ」


 なんか思ったより全員好意的だった。

 というかなんかおかしい話聞こえたんだけど。なんで『六天』というこの国のトップ陣複数名殺した奴の子供産めるの?さらに言うとなんでそれが受け入れられているの?

 俺が田舎生まれだからか、それとも前世の記憶がついていくのに足を引っ張っているのか、そのどちらであろうとこの空気に慣れるのは時間がかかると思う。


「キャスルーク家にとって強さが正義だからね。特に強い肉体を持っていたりする者は他国出身であろうとその血を混ぜてきた一族だよ」


「『守護神』の異名を持つ方だから……。きっと偏見とかなにも気にしてないと思う。私が保護されたのも多分そういう所があるからだろうし」


 疑問が顔に出ていたのか。隣に座っていたミルとバサカが補足する。

 偉い人の考えはよくわからねぇなぁ……。

 そう思っているとチャイムが学園全体に鳴り響く。話もちょうど終わったのかギーム先生も授業を終わらせにかかった。


「さて、それでは今回の授業はここまで。全員次の授業に向かうように」


「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


「くれぐれも時間厳守で、次の授業に遅れないように移動しろよ」


 ふー。歴史の授業も結構楽しかったな。

 俺は魔法の研究とか薬の研究ばっかだったから凄く新鮮な気持ちだったぞ。

 ギーム先生が教室を出た後、軽く伸びをしつつまとめていたノートを畳みながら次の授業の準備をしようとする。

 隣に座るノアもまた同じようにカバンに仕舞いこんでいる。


「それじゃあ僕はトイレ行くから、先に言っててくれよ」


「了解了解。でもあんま遅れないように気をつけろよ。多分この学校そういう評価は厳しいと思うぜ」


「あー。ギーム先生見てたらなんかわかる気がする。分かった、じゃあ出来るだけ早く追いかけるから!!」


 まぁ急ぐのはいいが走っているのを見つかったら結果的に時間を無駄にすると思うぞ。

 この学園のルールを決めているのは『六天』のキャスルーク家で、さっきの授業の様子を見ればそれらがどのように扱われいるかはおのずと予想も出来る。

 そんな人達の定めたルールを破ったら説教も長くなりそうだ。

 ……俺も気をつけねば。


「でも意外だった。グレンがちゃんと授業受けるなんて。私のイメージでは授業中に眠って先生に折檻されるタイプだとばかり」


「あのなノア。そういうのは創作だから面白いんであって現実じゃただの痛い奴なんだよ。それに俺は結構授業を楽しんでるんだぜ?」


 次の授業に向かう為に広い廊下を歩きつつ隣を歩いてくる彼女と会話する。

 そりゃ俺だって自分が真面目な人間だと思われるような奴じゃないとは思っているが、知ってる奴から言われると地味に傷つく。


「ごめん、悪口言ったわけじゃない」


「わーってるよ。対人経験ないんじゃ距離感の掴み方だって分からねぇよな」


 むしろ経験を積んだなら俺よりコミュ力はあるんじゃないかとこの数日で思っている。

 今も俺が近くにいるから一緒にいるノアにも人が近寄らないだけで、話し掛けたい人間はそこそこいるんじゃないだろうか。

 ちなみにこのことをノアに言ったら何故か不機嫌になった。


「グレンは人の心が分からないんだね」


 とかなんとか空のような明るい目に可哀そうなものを映したかのように言い放ちやがった。

 そりゃお前と違って俺は読心なんてできないし……と思ったが言っていない。多分気付かれてるけど。


「そういや次の授業ってなんだっけ」


「戦闘訓練らしい。私にとっては鬼門」


 ノアはその小柄な体躯から分かるように非常に非力である。

 その代わり魔法の解析能力やら妨害、防御など攻撃には向かない能力があるので決して無駄ではない。

 ちなみに俺の戦闘方法は極めて単純なので手加減とかあんまり出来ない。

 ある程度手加減しようとしたら出力を下げ過ぎて相手は無傷なんてことがよくあるのだ。

 なので手加減が必須となる次の授業は俺にとっても鬼門である。


「俺に教えることがあるとは思えないんだが。ドラゴン殺せる奴なんてそうそういないだろ」


「慢心はダメ。上を見ればキリがないけど、グレンの場合はちゃんと意識しておいた方がいいと思う。じゃないとそのうち酷い目に合いそう」


 ……確かに今のはフラグっぽかった。

 油断してつまらないミスで足元を掬われて負けるタイプの。創作とかでよくあるタイプの。


「悪い、ありがとうな。この癖さっさと直さないとそのうち死ぬわ」


「別にいい。でもグレン、一気に危険度増しすぎ。極端から極端に行くのもどうかと思う……」


 そこはほら、こういうのはさっさと改心しましたアピールしないとな。

 じゃないとフラグとか立ちそうで怖いし。ジンクスって結構精神に与える影響デカいんだぜ?

 そんな感じの二人にしか分からないような会話を続けながら歩いているとつい最近見たばかりの顔が目の前に立ちふさがった。


「クロネ様……」


「こんにちは、ノア・ノイズハート。そして『血濡れの竜童』グレン・ブラッドフィールド」


 そう言いながら話を聞かない限りどかないと主張するように腕を組みながら仁王立ちしたのは、入学式の時に新入生代表として演説をしていた『六天』の娘、クロネ・キャスルークその人だった。

 こういう展開もあるというのか。

 まったく、学園生活も楽じゃないな。

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