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第六話 魔法使いがクズばっかとか誰が言ったんだよ

 居心地が悪いとはこのことだろう。

 少なくても俺は今以上に居心地が悪いと思ったことはない。

 例え街中にぶっ殺したばかりのドラゴンの死体を引き摺って血の臭いを充満させて、街の住人全てに白い目で見られた時でもここまでではなかった。


「ねぇねぇ、あの人が噂の『竜童』?」「シェパード様に評価されてるって噂の?」「いやそれ噂じゃないぜ」「そうそう、昨日男子寮で仲良さそうにしてたからな」「あの実力主義のガウル様がか」「少なくても実力は本物みたいだな」「そんな人と比べられるのはこれから憂鬱だけどなぁ」「ばっかお前、そもそも同じ土俵に上がれるかもわからないぞ」「キャスルークのクロネ様も見たいって言ってたらしいわ」「『六天』出身者の二人が……?おいおいヤバすぎじゃないか」


 そんな声が辺りから聞こえてくる。

 大聖堂と言える大きさの、教会のような場所で行われる入学式に参加する為に来たがこの状況はキツい。

 この広さなのに周囲の噂話がずっと聞こえてくるのが。

 聞こえてくるだけでこれなら、実際はどれくらいの人数に俺の存在は周知されいるのだろうか。


「大丈夫。グレンの事を悪く思ってる人はあんまり居なさそうだから」


 当然の如く俺の隣の席を陣取りしていたノアがそんな事を言い出す。

 『六天』出身者との会話でなにかがあったのか、妙に気合を入れている様子だが、今からそんなんじゃ空回りしそうで心配である。


「分かるのか?というかもしかして『固有』を使ったのか?」


「使わなくても分かる。家にいる間嫌悪の目はいつも向けられてたから、そういう視線とそうじゃないのくらいは判別できて当然。これも経験の力」


 頼むからそんな悲しい事を自信満々に言うのはやめてくれ。聞いてる俺の方が悲しくなる。

 そんな俺の様子に気付いてか気付かずかノアの言葉は続いていく。


「良くも悪くもこの国では『六天』がトップ。他にも各地を治めてる貴族はいるけどそれら全てを合わせても『六天』のは及ばない。つまり『六天』出身者に注目されるということは国から注目されてるのに等しい」


 つまりシェパード先輩と歩いてる姿を見られた時点でほぼアウトってことか。それってもう最初からこうなるの確定だったのでは?


「グレンの場合はまだいい方……。そっちは仲良くなれたらしいけどこっちは元々の関係上悪化する未来しか見えないから」


 どうやらエリート様との話は随分ノアにとって疲れる者だったらしい。

 全身から疲れてますオーラ見たいのが出ていると錯覚しそうなくらいに。

 現在座っている椅子に身体を投げ出し気味なのも気になる。

 やはり『六天』出身者との会話とは相当疲れるらしい。俺がそこまで疲れないのはシェパード先輩がある程度友好的だったからか、それとも俺自身が図太いからなのかの判断は出来ない。


「それはグレンが図太いからで合ってると思う……」


「読心してまで俺の内心にツッコミ入れなくていいからな?」


 無表情ながらどこか楽しそうな気配を出すノアだが、今のどこに楽しいと思える要素があるのか知りたい。

 というかせっかくの学生生活だというのに友人が女の子のノアだけというのは結構寂しいものがあるぞ。


「……私じゃダメ?」


「いや美少女の友達と馬鹿話する男友達を一緒にしちゃいけないだろ。ノアの友達になれて俺は幸運な方だと自認してるぜ」


「なぁ、あんまり隣でイチャつかないでくれる???」


 いやそう言われてもそんな意識は欠片も……というか隣から声がした?

 さっきまでだれも座ってなかったと思うんだが。

 いつの間にか隣に座っていた茶髪の、いかにも普通といった少年は呆れた顔でこちらを見た。


「気付かなかったのかい……。僕はミル、ミル・バサカ。君達と同じ新入生だよ」


「こりゃご丁寧にどうも。俺はグレン・ブラッドフィールドってもんだ」


「ノア・ノイズハート。グレンの初めての友達」


「ノア、後者は言わなくていいから。俺が寂しい奴だと思われるだろ」


「安心して。私が言わなくてもグレンがぼっちだったのは誰でも知ってるはず」


 なんて失礼なこと言うんだコイツ。だんだん遠慮というものがなくなって……いやよく考えたら最初から遠慮なんてしてなかったな。

 普通に最初に会った時も心読んできたし。


「だからそういうのがイチャついてるって言うんだよなぁ。まぁいいけどさ」


 頭を掻きながらため息をつくミルだが、その表情は柔らかく安心したという感情があった。

 まるで獲物が狩人から逃げ切ったと安心したような雰囲気だ。


「だけど安心したよ。例の『血濡れの竜童』がここに来るって噂になってたからさ。いったいどんな奴なのかって戦々恐々してたんだ。でも案外普通の奴でよかったよ。異名の内容もこの分じゃ殆ど出まかせなんだろ?」


「いやアレに関しては大体あってるぜ?俺も聞いたときよくもまぁそこまで見たまんま伝えられるなって思ったもん。もう少し脚色してるかなって思ってたのにな」


「……ドラゴンの死体引きずって街のど真ん中で焼いて食ったとかもか?街からしばらく血の臭いが取れなかったとか聞いたけど」


 ああ、あれか。確かにアレは酷かったな。

 何が酷いかって街の連中の態度がだ。こっちに依頼を出してきたくせにやれ子供が何の用だ、凄腕を連れて来いと言っただろうとか。

 挙句の果てに約束の支援さえなくなったので滅茶苦茶苦労した。しばらくサバイバル生活をさせられた上に物資の調達とかも自腹か自作しかなかった。

 さらに討伐成功したらしたでドラゴンの死体を引き渡せだのなんだの、お前ら相手が誰だか分かってて言ってる?ってなったわマジで。


「そんなに欲しけりゃ臭いだけでもくれてやるって感じで街のど真ん中で解体して、炎出して肉焼いて、迎えに来た爺に魔法でドラゴンの死体全部持って帰った。報酬はいらねぇって言って」


「僕はそれに対してどう返せばいいんだ。その依頼を出したという街の連中を馬鹿にすればいいのか、それともその報復にそんなことをした君を噂通りだねと言うべきなのか」


「笑えばいいと思うよ」


 ノアさんノアさん、君俺の記憶のサブカルチャーを覗きすぎてそろそろ表現が汚染されてる事実に気付いてもいい頃だと思うんだ。

 俺の影響だってあのメイド(筋肉)が思ったら俺は下手したらミンチになるぜ?

 あの肉体はやると言ったらやるとそう語っている。


「はぁ……。まぁでもあれだ。思ったよりまともそうだって言うのは間違いないよ。僕や彼女がこんな軽口叩いても普通に接してくれるしね。素行は誉められたものじゃないかもしれないけど、その街の連中にやったことに関しては僕もスカッとしたし」


「そう言ってくれると助かる。基本山奥に住んでるから常識には疎いからな。そういう面で色々と教えてもらえると助かる」


 いや本当何も知らないって言っていいレベルで知らないんだよな、俺。

 あの爺も魔法の腕と戦闘能力を上げる修行ばっかでそういうのは教えてくれなかったし。

 ノアもいると言えばいるが、こいつは俺以上に世間知らずそうだしなぁ……。


「グレンよりかは知ってる自信がある」


「俺もノアより知ってる自信があるんだが」


「君達揃って常識知らずだと僕は予想するよ。というかそれより静かにしなよ。もうすぐクロネ・キャスルーク様の話が始まるから」


 ふと気付けば先ほどまで談笑していた周りも静かになっていた。

 キャスルーク家と言えば先日シェパード先輩に聞いた『六天』の一つ、この国の頂点らしい。

 その上ノアとも対談したらしい人。聞いた話ではノアと同じく小柄らしいが、それは代々そうらしい。

 それでもこの国で最高クラスの戦力だというのだから本当に人とは見た目によらないし、油断していい理由にはならない。


「……グレンはあんまりクロネ様に近寄ったらダメ。色んな意味で狙われるから」


「確かにキャスルーク様と言えば強いとされる人に戦いを挑む悪癖があるとかなんとか。まぁ無難にスルーして関わらないのが一番だと思うよ。悪目立ちしたくなければ」


「もうすでにシェパード先輩と交友した関係で目立ってるんですがそれは」


「安心していい。『血濡れの竜童』なんて異名がついてきてる時点で目立ってるから」


 それは安心感を与える言葉じゃなくて追撃という名のダメージを与える言葉だと認識してくれ。

 目を逸らしていた事実を真っ向から見せつけられると泣きたくなるんだ。



「――――皆さん、入学おめでとうございます。私はクロネ・キャスルーク。この学園の管理を任された者ですが、今から卒業までは皆さんと同じ立場になります」



 雑談を続けていた俺達の言葉をねじ伏せる、強い言葉がその場に響いた。

 その声には自信があり、それを肯定する力を有する存在感を放っている。


「私は未だ最強には程遠い身です。この国の未来を背負うには力が足りません。現『六天』の誰にも勝つことは出来ないでしょう。ですがそれは現時点で、という話で未来は違います」


 そこには意志があった。必ず成し遂げるという意志が。自らの力でそれをなすという想いが、生徒達のいる大聖堂に響き渡り、誰もがその言葉の続きを待った。

 大聖堂に集まった全員の視線が目の前の壇上に立つ少女に向けられる。


「私はこの国の“最強”になります。その為には今まで以上の研鑽が必要になるでしょう。それも私だけでは厳しい。だから皆さんにも協力してほしい」


 自らの立場、その地位に立つための責任を果たす為なら頭を下げることも厭わない。

 必死ではなく、かといってその行為は軽くもなく、ただただそうあるべきだとばかりに言い放つ。

 上に立つ者としての責任を果たすために下の者の力が必要だからと頭を下げることが出来る奴が何人いるか。それを壇上に立つ小柄な少女が言った。


「私にどうか、皆さんを守るための力をつけさせてください。その代わり、私は皆さんの明日を、明後日を、さらにその先の未来を守るために力を振るいます」


 カリスマ、というのだろう。その言葉に誰もが聞き入り、その姿に誰もが見入る。

 頭の中に彼女の言葉が刻み込まれる感覚がする。妙に背中が熱くなってきた。


「これから数年間の付き合いになりますが、皆さんとの日常を力に変え日々精進します。新入生代表クロネ・キャスルーク」


 …………なぁおい、魔法使いがクズばっかとか誰が言ったんだよ。

 滅茶苦茶立派な人と優しい人多いじゃん。

 あの爺俺に何教えてくれたの???

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