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第一話 なんであの人メイド服着てるの???

 爺の転移魔法によって送られた先は見知らぬ森だった。手元には荷物と地図があるのでいつもよりはマシだ。何せいつもは身体一つでモンスターハウスが如き場所に叩き込まれるのだから。


「やっぱあの爺、魔法使いとしては最上級だよなぁ……性格は完全に終わってるけど」


 有名な魔法使いはその能力に反して人格が歪んでるという俗説があるが、あの爺を普段から見てると肯定したくなる衝動に駆られる。

 問題はそれを肯定した場合高確率で俺自身の人格も否定することだろう。俺ってかなり優秀だし。


「っと、こんなところで一人言言ってる余裕はねぇな」


 あの爺が、苦労は買ってでもしろどころか押し売りしてくる我が師が、なんの苦労もなく学園にたどり着ける場所に転移させるなどあり得ないのだから。

 これまでの経験上必ずなにかしらの問題、例えば高難易度のモンスター討伐が必須とかがあるに決まってる。


「地図地図、これに魔力を込めれば現在位置と目的地がわかるんだったよな。……こんなもん作れるあたり本当能力はあるんだけどな……」


 何であんなにも弟子に対して試練を課したがるのか。以前一度聞いたことがあるが、返ってきた言葉は「四苦八苦してる姿が面白いから」だった。


「照れ隠しかとも思ったが、あのマジ顔は間違いなく本気だった。あの爺あれで自分のこと良識派だと思ってるからタチ悪いんだよな……」


 そう言いながら手元にある荷物の中身を確認する。こういうものを普段渡してこないのに、今回に限ってとか怪しいにも程がある。気付かなかったら死にはしなくても死にかけるような罠があるかもしれん。

 しかし俺の予想とは違い中に怪しい物は入ってなかった。流石に餞別として準備した物に罠はなかったか……。


「っと、なんだこれ。手紙……か?」


 大きなリュックの中に入っていたのは非常食やこれからの学園生活で使うであろう教科書ばかり。だがよくよく探してみた結果リュックの底に一枚の手紙があった。

 ざっと確認したがこの文字はあの爺のもので間違いない。嫌というほど見てきたのだから間違えるはずもない。


『拝啓、グレン。

 この手紙を読んでいるということはもう既にお前はワシの元から離れ魔法学校に向かっていることだろう。

 ひどく面倒なことだが、本格的に魔法使いとして活動するには魔法学校での卒業資格が必須になる。今まではワシの保護下ということで仕事をさせてきたが、いずれ去るのは確実。故に時期を見て送り込むつもりだった。

 同年代と接する機会がほぼないお前が苦労することはほぼ確実。だがその程度で根をあげるほど柔な鍛え方はしていない。嘗めてくる奴は徹底的に叩き潰せ。

 お前はワシの弟子なのだからその程度のこと出来んわけがないし、数々の苦難も乗り越えていけるだろう。

 来月から始まる学校を卒業すれば晴れて一人前となり、様々な権利が与えられる。お前が一人前になる姿を楽しみにしているぞ』


「じ、爺さん……」


 手紙にはそんなことが書かれていた。俺は爺さんのことを誤解していたのかもしれない。あの数々の試練は俺に生きる力を与える為のものだったのかもしれない。

 だとしたら親の心子知らずそのものだろう。そんなに深く想っていてくれたのだから……。

 リュックの中を確認してみれば恐らく例の魔法学校の制服と思われる服が入っている。広げてみれば寸法もちょうど良さそうだ。


「そういや服、汚れたままだったな……」


 よくよく思えば俺の格好は前世の記憶を蘇らせる魔法の研究をしてた時のままだ。魂が日本人だったからか汚れが気になりよくよくシャワーを浴びたりしてたが服の方はボロボロに近い。

 誰もいないことを確認してその場で着替えをする。ローブもついているがそれさえなければ随分動きやすい服だった。まぁ魔法使いは実験もするがフィールドワークを行うことも多いのでこちらの方が助かる。


「鏡……はないから水を出してっと」


 水は汎用性が高いのでやはり重宝する。身体全体を写せる大きさにして鏡の代わりにし全体をチェック。

 うんまぁ似合ってるんじゃないだろうか。服なんてほとんど気にしないのでよくわからない。

 と、色々確認していたら爺さんからの手紙を落としてしまう。


「ん?裏にも何か書いてある……?」


 先程は気付かなかったがメッセージの書かれた裏には一言と数字が書いてあった。

 嫌な予感がしつつもそれを読んでみると


『追伸、魔法学校の入学式は明後日なので急がないと入学早々遅刻した馬鹿のレッテルを貼られるぞ』


 そこにはそんな文字と入学式の日にちが書かれていた。

 今日の日付を確認する。入学式は、明後日だった。

 地図を確認する。全力で昼夜走り続けギリギリ間に合うくらいの距離だった。

 深呼吸を繰り返す。思いっきり震える手で持っていた手紙を破り捨て、足の裏を爆破加速して走り出す。


「あんの糞爺がぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 喉を痛めるであろうことも無視して叫び森の中を駆けていく。あの爺は絶対に性悪だ。少しでも見直した俺が馬鹿だった。

 俺がこの手紙の裏側に気付かず入学式に遅れたとしたらあの爺は間違いなく鬼の首をとったかのようないい顔で笑うに違いない。そんなもん絶対許すか。

 俺は絶対に、魔力が尽きようとも必ず辿り着く。入学式を遅刻するとか言う最悪な学校生活とか絶対嫌だわ!!!






「つ、疲れた……」


 走り出してから恐らく半日ほど経った。地図を見ればやはり計算通りギリギリ間に合うくらいだろう。体力が心配だがそこらへんは気合いだ。というかこの程度気力で何とかできないようでは俺は党の昔に死んでいる。あの爺の理不尽の前では俺の命などちっぽけなモノ。でなければドラゴンとかメドゥーサとか化物共の住処に行かされたりしない。


「よし、とりあえずこのまま街道まで出るか。こんな森の中を走るよりよっぽど走りやすいだろうし」


 前世であった日本の舗装された道路とは比較にならないが、それでもこんな道なき道を行くよりは遥かに楽だし速くなるだろう。というかもう地面を走ると躓きそうになるので木の上を飛びまくってるんだが。忍者か俺は。


「上手く行けば入学式に間に合う。間に合った場合のあいさつも今のうちに―――」


 思考を走る道からまだ見ぬ学生生活に向けた瞬間、はるか先から叫び声が聞こえた。現在駆けてる際使っている身体強化による恩恵で張力も強化されている。そのおかげで聞き逃すことなくその声が俺の耳に届いたのだ。


「どうっすかなー……」


 いつもの俺なら間違いなく助けに行かない。理由は面倒だし、だれがどこでどうなろうと俺には関係ないからだ。報酬も手に入るかも分からないのに動くとか馬鹿のやることだ。そしてこの思考は俺が特別なのではなく魔法使いという人種がほとんどそうだ。

 魔法使いは己のやることにしか興味を持たない。その力が強ければ強いほどその傾向が強くなる。要するに個人主義になっていくのだ。本来であれば爺のような最上位の魔法使いが弟子をとるなどありえない。弟子をとれば自分の時間が減るのだ。それは本末転倒、無駄であり無価値であり無意味な行為。笑われてもおかしくはない。俺もまた異名を持つほどの魔法使い、客観的に見て天才と言われる存在だ。


「だけどなぁ、なーんか気分悪くなりそうなんだよなぁ……」


 そう、だから本来の俺なら助けになぞ行かずそのまま無視して目的地に向かって走り抜ける。だが、今の俺にはつい前日に得た前世の知識と倫理観がある。魔法使い全体人でなしじゃねと思わず思ってしまうくらいにはまともに、あるいは狂っている。

 別に前世の人格が蘇ったというわけじゃない。俺は俺であり、前世は前世、もはや別人だと認識してるし割り切っている。

 だが影響が皆無、というわけでもない。そして俺は自分が不快な気分になるのが死ぬほど嫌いだ。後でどうのこうのああした方が良かったとか絶対思いたくない。


「絶対なんらかの報酬は貰ってやる……!!」


 そう呟き行き先を変え木の上を飛び続ける。枝が折れないように触れた瞬間魔力で瞬間的に強化しながら次々と木と木の間を飛びあう。

 そうして声のあった方に向かって5分もしないうちに街道が見えてきた。森は丘の上にあったらしく、街道が下にあり全体を見渡すことが出来る。


「ぎゃあああああああああ!!!」


「た、助けてくれぇ!!!!」


「化け物がいるぅ!!!かあちゃあん!!!」


 聞こえてきたのは間違いなくあの男達の声だろう。手元に武器を持っているが既に戦意喪失しているようだ。武器を捨て逃げ出す者もいる。

 そう、ここまでは予想通りだ。前世で読んだ小説でもよくある展開だ。それを期待しなかったと言えば噓になる。だってああいう展開ってロマンあるじゃん?俺だって男の端くれ、日本人の魂を継ぐ者。元からロマンに強いこだわりがあるのは当然だろう。


「逃げるな貴様ら。襲ってきた代償を与えてやる。静かに並べ、順番にへし折ってやろう」


 だがそのロマンは木っ端みじんに弾け飛んだ。いや、どちらかというと弾け飛びそうなのは眼下に存在する認めたくない物体Xの服の方だが。

 その服は素晴らしいものだった。脚を全て覆い隠すロングスカート、頭には髪が乱れないようホワイトブリムが存在する。そして髪は漆黒でありながら艶のある腰まで伸びた長髪。

 完璧だ、完璧なメイドだろう。服装的にはパーフェクトと言わざるを得ない。特にロングスカートなのはよくわかっている。ミニスカも悪くはないがメイドと言えばロングスカートだ。


「どうした。最初は誰がいい?誰でも割れは構わんぞ。そちらで選ばせてやろう。さぁ最初にへし折られるのは誰だ」


 問題はそれを着ている中身の方だ。盛り上がった筋肉によりメイド服はぱっつんぱっつんになっている。本来は嬉しいはずの表現なのに全然嬉しくない。

 顔も厳つい。というか獣人の血を濃く継いでいるのだろう。サーベルタイガーのように口から牙が出ている。子供が見ればそれだけで泣くであろう光景なのは間違いない。


 俺はもう一つの事しか思わなかった。襲ってきて返り討ちにされた山賊に対する同情でも、ここまで走ってきた無意味さを嘆くわけでもない。ただ一つ、シンプルなことを。


「なんであの人メイド服着てるの???」


 誰も俺の疑問に答えてくれる人はいなかった。

魔法使いは基本性格がクソです。師匠の爺さんはまだマシな方です

主人公のグレン君は前世の影響で倫理観が大分上昇したのでマシです

他の魔法使いはその力が強ければ強いほど性格が悪くなっていきます(ちゃんと理由はあります)


明日も同じ時間に投稿したいと思います

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