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第十二話 不覚にも可愛いと思った

「はいそこまでだ」


 その声が聞こえた瞬間、俺の腕に突如長い生物が絡みつき『魔弾』を撃ちだす方向を突如変えられる。

 同じように俺に拳を振り上げようととびかかってきていたクロネもまた蛇のような生物に絡まれ空中で動きを止めていた。


「――――なぜ邪魔をするのです、ガウル・シェパード。事と次第によっては貴方から潰します」


 俺達二人を拘束しているのはこの戦いの審判をしていたガウル・シェパード先輩だった。

 先輩の腕元から生えてきている二匹の蛇が俺とクロネに巻き付いている。

 俺はその拘束している蛇の動きを『固有』で止め脱出。クロネはそれを力任せに引きちぎり脱出した。


「明らかに熱くなってるからだよ馬鹿が。我が止めなければ貴様ら、殺し合いを始めていただろうが。むしろ今の時点で殺しあっているだろう」


「む」


 確かにこれは授業だった。もう完全に思考が戦闘になっていたから脳みそから消え飛んでた。

 だってそうしないと死にかねなかったし。

 死んでないことを自分で誉めたいくらいの激戦だった。


「……まぁいいでしょう。グレン・ブラッドフィールドの力は十分理解出来ました。今日はこれくらいで済ませておきます」


「貴様がそれでいいのならいいが、罰ゲームのことは忘れてないだろうな?」


「この結末は引き分け以外ないでしょう?私も彼も続けていれば自分が勝ったとしかいいません。ならばその罰ゲーム自体が意味を成さない」


 そういえばそんなものもあったかとも思う。

 存在自体を忘れていたことからもわかるように罰ゲーム自体に興味はない。

 『六天』の継承者候補、その強さを知れたのだからそれ以上を望むのは強欲では?という気持ちもある。

 というかクロネが言うようにこの戦いは引き分け以外ないだろう。

 最後の攻防次第で決着は変わるだろうが、あれは終わるまで分からない類のものだ。

 俺は俺が勝ったと信じて疑わないし、クロネもまたそれは同じだろう。

 勝負の付きようがないのだから賭けもなかったことになるのが自然だ。

 そしてそれはシェパード先輩も理解しているようだった。


「確かに勝負自体の決着はついていないな。我が止めたことで決着がつかなくなったと言われれば反論のしようがない」


「そうでしょう。ならば」


「だが貴様。途中から『神体』をほぼ全開で使っていただろう」


「―――――」


 シェパード先輩のその言葉に、ピシりという擬音が聞こえるほど綺麗に固まるクロネ。

 そういえばそんなことも言っていたような気もするが……駄目だな。戦いに夢中になってて完全に忘れてたわ。

 そしてそれはもう一人の当事者も同じようでダラダラといまさら汗を流し始めた。


「事前に決めたルールでは半分までの出力までしか使ってはいかんと決めていたはずだが?」


「わ、分かっています。ですがそれは……」


 言い繕うとするクロネに対し、シェパード先輩はその口角を獣のように吊り上げる。

 何と言い笑顔だろう。まるで獲物を目の前にした肉食動物のようだ。


「なんだ?キャスルーク家のご令嬢は自身が了承したルールも守れんと?それはそれは……我は随分貴様を過大評価していたようだ。自身の見る目のなさとキャスルークの誇りのなさに失望せざるを得んな」


「ぐ、ぎっ、がぁ……!!」


 煽るシェパード先輩、歯ぎしりし悔しがるクロネ。

 そりゃあんだけ家にふさわしく在ろうとしている彼女に対してあのあおりは効くだろう。

 真面目だからこそ口であそこから巻き返せるとは思えない。要するに勝負はもう決まっているという事だ。


「私の……けです……!!」


「ん?なんだって?勝負のルールを忘れてしまったお嬢さんはその事を素直に認めて口にするのも難しいか?」


「私の!!!負けです!!!!これでいいでしょうガウル・シェパードッ!!!!!!!」


 あまりの悔しさに泣きそうな顔で大声で叫ぶクロネ。

 さすがにあそこまでやるのはかわいそうに思える俺は加虐趣味はないんだなと自分の性癖は普通だと少し安心する。


「おお、おお、自身の過ちを認めるとは。流石は次代のキャスルーク家当主は違うな!!」


「ッ……!!!ッッ…………!!!!!」


 反対に今にも大笑いしそうなシェパード先輩には少し呆れる。

 何に呆れるってその目の前で屈辱で怒り狂ってるクロネの足元の大地が砕かれ始めてるのに笑っていられる豪胆さに。

 しかし、先程俺達を拘束した蛇が先輩の『固有』の一端だとは思うが、体の一部を他の動物に変身させる程度だったりとは思えないし、その本質はまた別だろう。

 既に『六天』に対する侮りは微塵も残っていない。目の前で怒ってその場で踏みしめているだけで大地を破壊する少女でさえ未だ発展途上だというのだから。

 完成されている『六天』と戦うことになれば順当に負けることは容易に予測できた。


「さて……。おい、グレン。貴様が勝ったのだからこの女にする命令は貴様が決めていいぞ」


「はい?いや俺は別にそういうのはどうでもいいんっすけど……俺の知らないところでされてた賭けだし」


「グレンの言う通り。グレンはそういうことはしないから」


 いつの間にか俺の隣に来ていたノアが俺の言葉を引き継いでそう言う。

 ついでにその手が俺の傷ついた身体を捕まえて光る。

 治癒魔法による治療を施してくれているのだろう。幸い大怪我などは負わなかったが擦り傷や血のにじんだ部分それこそいくらでもあるので正直助かる。


「別になんでもいいだろう。この学園は実質キャスルーク家の物だ。そして現在その責任者はクロネ・キャスルークという事になっている。入学間もない貴様らが見れない資料も見れるようにするのも可能だぞ」


「……それは、確かに魅力的」


 ノアの言葉に思わず頷いてしまう。

 この国で一番の教育機関の名は伊達ではなく、その蔵書には目を見張るものがあった。

 だがその大半が学園の成績で見れるものが決まっており、当然入学したばかりの俺達では読むことが出来ないものがある。

 ノアは俺の前世の記憶から漫画やらライトノベルやらばかりを呼んでいることから分かるように読書好きである。純粋に読書欲から読みたいものが読めるかもしれないという欲が湧いているのだろう。

 俺はというと、趣味の一つが実験なので様々な実験記録が書かれている本を読みたくて仕方ない。新しい発見を得るためには過去のデータを見ることもまた重要だ。

 そんな俺達なのでシェパード先輩の言葉はとても甘い蜜のように聞こえてしまう。

 ただ、それはいわばズルだろう。


「あー……とても、とても!!魅力的だが、そういうのはやめておこうと思うっす。あんまそういうのが前例として残ってもいいことはないだろうし」


「同じく。というか私はその賭けに何の関係もないので最初から決定権なし」


「いやノアがいたからこの勝負受けたようなもんだからな?そもそもノアがいなけりゃ俺はここでクロネ様とやる機会にも恵まれなかったし」


「……迷惑かけてばかりと思っているところに、それは卑怯」


 俺の言葉に俯くノア。本音を言ったつもりだが遠慮していると思われたのだろうか。

 悪いが俺は人間関係にこだわって言葉を遠慮する程人間出来てないから全部本音なのだが。

 あと傷だらけの身体治療してくれてるのに迷惑ばかりとは意味が分からん。俺よりよほど人の役に立てるだろうに。


「だとさ。よかったなぁクロネ・キャスルーク。お前と違ってコイツラには情けってもんがあるらしい」


「ええ、その通りですねガウル・シェパード。貴方と違い彼らは自らの欲を律することが出来る。激昂しすぐに鍍金がはがれるどこかの誰かさんとは大違いです」


「……俺に喧嘩売ってんなら今すぐ買ってやろうか?あ゛?」


「余裕がなくなって一人称が我から俺に変わっていますよ?」


 この二人は本当に犬猿の仲だな。どっちが犬でどっちが猿かはわからんけど。

 またいつの間にか巻き込まれるのも嫌なので今のうちに介入して二人の会話を途切れさせるのが得策だろう。

 隣で治療してくれているノアもまた同じ考えなのかうんうんと必死にうなずいている。

 今回は俺だけだったが次はノアも一緒かもしれないとその必死さもわかるので仕方ないし同意しかない。


「二人ともー。とりあえずおちついてくださーい。こっちも命令というかお願いというのが決まったのでー」


「ん……。そういうわけなら仕方ない。我の役目は終わりだし、この目でグレンの力を見れただけで十分だ。もう帰るとする」


「ええ、そのまま二度と私の目の前に現れないでくださいね。目障りなので」


 何度も言うがこの二人本当に仲悪いな。

 昔、何かあったのだろうがそれを聞くには勇気がないので仕方ない。

 とにかくこれでシェパード先輩は去った。そのまま俺達のクラスメイトの所に向かっていたのであっちには心配と同情を向けつつ目を背ける。

 俺は目の前の黒いお嬢さんの相手をしなければならないのだ。


「それで、私に対する命令は何でしょうか。絶対に無理な願いは叶えられませんが、それ以外なら可能な限り許しましょう。婿入りしたいというのなら諸手を挙げて歓迎」


「それはないので安心して下さい」


 俺の言葉にクロネはがくっと肩を落とした。

 まるで頭にヘタレた猫耳でも見えるような落としようで少し可愛いと思ったが、その瞬間右腕をつねられた痛みで我に返る。

 横を見ればノアがジト目でこちらを見ている。居心地の悪くなる視線だ。

 その視線から逃げる為にも話をさっさと進めてしまおう。


「とりあえずノアに対してキツイ当たり方しないでくれればいいっす」


「む、それだけですか。いえ、私としてはその命令がなくともそのつもりでしたが……」


「いいんっすよ。別に今クロネ様に頼むことなんてないんで。ここの蔵書は成績上げて自力で読みますんで」


 ルールの例外を作ると後々面倒になるというのはよくある話だ。

 別に成績が悪いわけでもないし、普通に勉強してればそれで俺もノアもそのうち読めるようになる。

 それに今は勉強も楽しいと思えるし、研究漬けになるのはもう少し後で構わない。


「分かりました。言われるまでの事でしたが、肝に銘じるようにしましょう。ノア・ノイズハート、貴方も私に対して無理して敬語を使わなくともかまいません。公的な場所でない限り、昔のように話すことを許します」


「分かった。感謝はグレンにしておく」


「……貴女も大概肝が太いですね」


 呆れるようにノアを見るクロネだが、その姿だけを見れば年相応の少女にも見える。

 名家、それも国を背負うような生まれだとやはり背負うものが多くて大変なのだろう。


「あと……、グレン・ブラッドフィールド。これは個人的なお願いなのですが」


「ん?なんっすか」


「えっと、私に対して、その……敬語を使うのはやめてください。ええ、今はそれだけでいいです」


 俯きながら、耳まで真っ赤にしながらそういう姿に思わず頷いてしまう俺。

 色々あった上にさっきまで戦った相手だったが、不覚にも可愛いと思った。

 そんな俺の様子を見てさらにジト目でノアが抓ってきた。

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