8話、お稲荷さま
俺とふとっちょとりおちゃんで、鷹日神社に集まった。どの神社でも良かったんだけど、単に俺がお気に入りだからだ。たくさんお稲荷さまがいて、素敵な表情をしているし、かくれんぼしたくなっても隠れるところがいっぱいにあるからね。
俺たちは何となく特別な仲間みたいになった。前から仲は良かったけど、おにぎりをこっそり食べ続けているからか、妙な連帯感が生まれていた。
今日も、りおちゃんはかわいい。だからどんどん仲良くなれて嬉しい。
俺たちはまず、ステータスを共有しあった。皆がもういっぱしの大魔法使いクラスだからステータスに恥ずかしさはないけど、俺はおにぎりしか出せないので、そこは少し微妙な気分になる。皆で順番に柏手を打ち、ステータスと言った。
野津 良佑
10歳
HP 103
MP 153
おにぎり魔法
谷口 りお
10歳
HP 105
MP 105
水魔法
小林 拓海
10歳
HP 102
MP 1103
火魔法
3人で少しかくれんぼをして、その後、俺のお気に入りのお稲荷さまの像のそばで、おにぎりを食べた。俺は家にストックしてあるのを1つ持ってきていて、それを。ふとっちょと、りおちゃんは俺が食べ終わってから、俺が魔法で出したおにぎりを。りおちゃんは1つ。ふとっちょは5つ。ふとっちょはやっぱり凄い。よく食べる。
この頃はりおちゃんが卵焼きだったり、ウインナーだったりをお弁当箱に入れて持ってきてくれている。俺がおにぎりを食べている間、2人はおかずを食べている。終わればその反対。だから自分だけ食べてないのに悲しい、みたいなことにはならない。りおちゃん様々だ。かわいいのに優しい。もはや神。そしてりおちゃんの手料理。嬉しすぎる。先にふとっちょに食べられているのは悲しいけれど、食べられるだけでとても幸せだ。
今日は細く切ったお揚げを、醤油と砂糖で甘辛く炒めたものだ。とてもおいしい。そんな時だ。
「おい。そこの若いの。お供えせぬか。我の前で見せびらかしながら食べるとは何事ぞ。やっと声の届く所に来おってからに。」
俺たちは辺りを見回した。いや、正確には分かっているけど、認めたくないようなそんな気持ちだった。
「こっちじゃ。おぬしらの言うお稲荷さまじゃ。分かっておろう?」
お稲荷さまが呼びかけるので、仕方なくそっちを向いた。シュッとしたフォルムをしているお稲荷さまの顔は美しい。なでてもいいかな。
「むっ。なんぞおぬし、なんだか不穏な顔をしておるな? まぁよい。おにぎりを供えるのじゃ。ついでにそこのお揚げも
乗っけてのぅ。」
言われた通りに、おにぎりを魔法で出して、お揚げを乗せてやった。俺の分のお揚げが減る。悲しい。
お稲荷さまの足元に供えると、供えたおにぎりとお揚げが消えた。
「うむ。やっぱりのぅ。うまいうまい。そうじゃ、他の稲荷にも供えてやってくれんか? この頃はお供え物も少なくてのぅ。この間、おぬしがおにぎりをくれたのが久々じゃった。食べんでもいいのじゃが、やっぱり食べることは楽しいのぅ。」
「えっ、あれから食べてないの? 、、、それはさみしいね。」
俺は少し哀れに思って、他のお稲荷さまにもおにぎりを供えて行った。お揚げは残り少なかったので、あげなかった。その代わり、おにぎりは特大だ。小さなスイカくらいの大きさのおにぎりを供えてあげた。
でも確かにお稲荷さまが食べるとは思わないもんなぁなんてことを考えつつ、皆のところに戻った。
「おぬしのおにぎりは中々うまいのぅ。これからもおにぎりを供えてくれたら嬉しいのぅ。」
「まぁそれくらいならいいよ。」
「ぜひお揚げもつけてくれてよいぞ。」
「いや、欲張られても困るよ。ねぇ、りおちゃん。」
「たまに少しなら大丈夫ですけど、毎回は確かに難しいですねぇ。ごめんなさい。」
「むぅ。どうしてじゃ。なんぞ理由でもあるのか?」
「お揚げを買うのにもお金がかかるんです。家にある時にある分で作るくらいなら大丈夫ですけど、毎回となると難しいです。私はお小遣いをもらっていないのです。」
りおちゃんは丁寧に説明していた。お稲荷さまは諦めきれないのか、むぅむぅうなっている。
「まぁおにぎりは大きい奴を供えにくるからさ。俺もMPを使いきれてちょうど良いし。それで我慢してよ。」
お稲荷さまはまだむぅむぅ言っていたけど、遊び終わって食べ終わったので、柏手を打ってステータスを確認してから家に帰った。
さよならの前に恒例となったそれぞれの特大タッパーにおにぎりを魔法で出した。冷凍してもMPの上昇する効果に違いがなかったので、こうして1度にたくさん渡すようにしているのだ。
☆
今日もいつものように鷹日神社でステータスを確認して遊んで、おにぎりを食べていた。学校のある日はおにぎりだけお供えし、休日は俺、ふとっちょ、りおちゃん、お稲荷さまの4人でわいわいと食べている。その時には、りおちゃんのおかげでおかずがある。
今日はお稲荷さまの好きなお揚げさんが入っている日だったので、少しだけお稲荷さまが微笑んでいる気もする。お稲荷さまは、
「やっぱりお揚げはいいのぅ。うまいのじゃ。そうじゃ。お金があればよいのじゃよな。ふむふむふむふむふむ。むむぅ。よし、これでよいのじゃ。」
「えっ何したの?」と俺は聞いた。すると、ものすごく周章てた様子で、神社の本殿の方からおじさんが走ってきた。あっ、こけた。痛そう。あっ、また走ってきた。ものすごい形相だ。怒られるのかな。
「はぁはぁ。ほんとにいた、、、。」
俺たちは顔を見合わせて、代表して俺が聞いた。
「どうしたんですか?」
するとおじさんは、
「今、僕の頭の中に声が聞こえてね。お稲荷さまの前でお揚げを食べている女の子にお金を渡すようにって。」
りおちゃんはびでくりして、
「もらえません。もらえませんよそんなの。もう、お稲荷さん!」
とお稲荷さんの方を向いて、眉をしかめた。でもすぐにおじさんに向き直った。そりゃそうだ。お稲荷さんと話すなんて、変な人にしか見えない。
するとおじさんも、
「そうだよねぇ。なんだか犯罪の匂いもしそうだもんねぇ。どうしたもんか、、、。」
おじさんが困っていたので、俺が、
「気にしなくていいんじゃないですか? なんか大切な話ならまた聞こえてくるでしょう。そら耳ですよ、きっと。」
と伝えた。たぶんお稲荷さんは今は喋らないだろうし。
するとおじさんは、安心した顔で、本殿の方に戻っていった。ひょこひょこ歩いているから、ちょっと怪我してるみたいだ。
おじさんが見えなくなると、りおちゃんはお稲荷さんに怒り始めた。
「なにもしてないのにお金なんてもらえるわけないでしょ。」
「い、いやぁ、でもお揚げがだな、、、。」
「でもも、桃もさつまいもなぁい!」
「「さつまいも?」」と俺とふとっちょ。
顔を真っ赤にしたりおちゃんが、うつむいた。
あぁ頬が染まる姿もかわいい。レアだ!
なぜかそれを見た俺も照れてしまった。
「と、とにかく、お金をもらうなんてなしですよ。怪しすぎるじゃないですか。」
「そうなのか、、、。じゃあお揚げをもらうのはどうじゃ? おぉいいアイディアじゃ、」
「だめにきまってるでしょ!」
そんなやりとりを経て、お稲荷さまはしぶしぶ引き下がっていた。