6話、進化
ふとっちょが俺の家の窓に顔をべったりつけ、窓をノックしながら、慌てている。
俺は玄関を指さして、ふとっちょをまわらせた。
「どうしたんだ一体? 正月だぜ? おせちがほしいのか?」
玄関を開けながら聞いた。
「いらない。聞いてくれ。やばい。」
「まぁ落ち着けよ。餅くうか?」
俺はふとっちょをなだめるように、どうどうと両手を上下に動かした。ふとっちょは馬というより牛だが。
「俺、すげぇ魔法が使えるようになったんだ。あっ、餅は食う。」
と、ふとっちょが鼻息あらく言う。
「おぉ。すごいな。」
「いや。取り敢えず外に来てくれ。」
「雪だよ? 餅は?」
「いいから早く」
俺はふとっちょに連れられるまま部屋着で外にでた。寒い。
「見ててくれ。ふぅ、、、火柱!」
ふとっちょが右手を伸ばしてそう言うと、ふとっちょの前に、直径1メートル位の火柱が、高さ20メートル位まであがった。
「はぁぁぁー。なにこれ!」
俺は叫んでしまった。
☆
俺とふとっちょは家の中で、仲良く餅を食べつつ話し始めた。砂糖醤油につけて食べる最高のもちだ。海苔は各自お好みで巻くスタイル。
「なぉふとっちょ、何なんあの魔法。聞いたことないけど、火柱なんて」
「昨日の夜さ、いつも通りMPを使いきろうと、着火の魔法を使ってて。でもさ俺もうMP1000をこえてて。」
「えっ、1000? すごっ。それもう伝説のレベルちゃう?
大体、地道に努力して年齢の倍位の総MPになるはずやんな。 」
ふとっちょははにかんだ。あぁそれにしても、あいまあいまにはむはむする餅がうまい。
「うん。でさ、着火やったら1000回位いるのよ。消費するのに。めんどくさくなってさ、1回1回消える着火じゃなくて、ずーっと火をつけておけないかと。ファイヤーーーーって言ってみたらさ。焚き火くらいの火がずーっと出てさ。いけるいけるこれはいけるぞ、と色々やってみた結果。あれ、火柱。」
「火柱って言葉はどこから?」
「いや、なんでもいける感じやと思う。そこまで検証する前に来たけど。たぶん。イメージしてるのが言葉に乗って外に出れば、いけそう。感触的に。」
これは凄いことを聞いたと俺は思った。俺ののおにぎりにもチャンスがあるな。よし。俺は深呼吸して、
「鮭のおにぎり!」
と言ってみた。悲しいかな出てきたのはいつも通りの白いおにぎりだった。別素材が無理なのか?? 俺はいつもの2倍位の大きさのおにぎりをイメージした。
「大きいおにぎり!」
そう言うと、大きいおにぎりが出てきた。
「「おおっ!」」
そこから、俺とふとっちょは色々と話したり検証したり餅を食べたりを楽しんで、日が暮れた。
☆
俺は父さんに今日の事を話した。
俺が本当に大きいおにぎりが出せのかを確認した後、父さんはふとっちょの家に行ってくる、と言って出ていってしまった。
何か大人の話し合いが行われたらしい。
俺とふとっちょは、誰にも話さないようにと口止めされた。
そこからの父母は忙しそうだった。
何だか学校の先生まで巻き込んで、話し合いが連日行われていた。お正月なのに。
大人って大変だ。
俺は今日も日課のおにぎりを食べた。ふとっちょにちょっとでも追い付きたいなと、いつもより食べたけど、そんなにたくさんはやっぱり食べられなかった。
大きいおにぎりにどんな効果があるのかは分からないけど、外は寒いので検証は未来の自分に託して、俺は家でごろごろすることにする。
なんてったって、今はお正月なのだから。
次回、大人たちの話し合いの短めの閑話をはさみます。