5話、白いおにぎりの持つ力
次の日、朝から家でおにぎりを10個出した俺は、のんびりと登校の準備をしていた。
すると朝っぱらからインターホンがなった。
出てみると、真面目な顔をしたふとっちょがいた。
ふとっちょの家は、俺の家からは遠いから、朝迎えに来ることなんてない。俺は、
「どうした? ふとっちょ」
と、ふとっちょにつられた真面目な感じで聞いた。
「りょうすけのおにぎり、やばいかも知れん」
「なんだよ、腹でもこわしたか?」
もしそうなら、りおちゃん大丈夫か、なんて真剣に慌てた。俺以外は食べちゃだめなやつか? いや、父母食べてたよな。腹こわしたなら、ふとっちょの食べ過ぎかな。そうだな。
「違うんだ。俺は火魔法だったんだけど、」とふとっちょ。
「年中暑そうなふとっちょにぴったりだな」
「それはいい。あのさ、りょうすけってちゃんとおにぎりの検証はしたか?」
「あぁしたよ。鷹日神社で、おにぎりを出すのにMPが1。1個食べるとMPが1回復するんだ。」
「それ、たぶん違うぞ。」
「えぇっ?」
「俺、夜にさ着火の魔法でMPを使いきろうとしたんだ。俺の着火は1回でMPを1使うんだけど、まぁ別に数えないじゃん。使えなくなるまで着火って言えばいいだけだからさ。でも明らかに多かったんだ。俺のステータスではMPは10だから、10回で終わるはずなのに、終わんないんだ。だから気になって、今さっき神社でステータスを見てきた。そしたら、MPが19になってた。」
「えっ、おい、それって」
「うん。りょうすけのおにぎりを昨日9個食べたからだと思う。」
「でも俺のMPは10のままだぞ? 俺も食べてるのに、、、。おにぎり! ほら、でない。さっき10個出したから」
「あれ? なんで?」
「いや、俺が知るかよ、、、いや、もしかしたらそうなのか? おにぎりは回復じゃなくて、絶対量としてMPを1増やすのか? それなら合点がいく。」
「あっ、そうかも。俺は昨日学校で魔法を使ってないからMPはまるまるあっただろうし。」
「なぁふとっちょ、そうだったらヤバくない?」
「ヤバい。だから朝からこうして来たんじゃん。」
「確かめなきゃ。でも、どうすれば、、、あっそうか、昨日りおちゃんが食べてるからりおちゃんのステータスを聞けば、、、りおちゃん家に行くぞ。」
俺たちはりおちゃんの家に向かった。
☆
全力で自転車をこいで、りおちゃんの家に行った。
家から出てきたりおちゃんは、朝から本当にかわいかった。これはパジャマだろうか。淡いピンク色の柔らかそうなフリースの上下を着ている。あぁかわいい。
前を見れば天国かと思う一方、俺の横ではふとっちょが息もきれぎれ、なんかヒューヒューと呼吸している。こっちは地獄か。俺は気にせず、りおちゃんに聞いた。
「ねぇ昨日の夜、ステータスってはかった?」
「はかってないよ? どうして?」
「俺のおにぎり、効果が違うかも知れないんだ。急でごめんだけど、一緒に神社に行ってくれない?」
「えっ、でも遅刻しちゃうよ?」
「あっ、そうか。今日学校だ! どうしよう。」
「めずらしいね。ちょっと待ってて。おかーさーん。」
そう言って天使は家に入っていった。
5分くらいすると、りおちゃんが制服に着替えて出てきた。お母さんも一緒だ。りおちゃんが!
「お母さんが手伝ってくれるってさ。自転車はここに置いておいて、車で動こう。」
「えっ、それはありがたいですけど」
と俺が申し訳なさそうに言うと、お母さんが、
「りおがねぇ、りょうすけ君の頼みなんだからって、真面目な顔して頼むもんだから、笑っちゃったわよ。まぁ乗りなさいな。まずは2人の家に寄って、学校の準備してから、神社ね。」
なぜかふとっちょが助手席に座らされ、俺とりおちゃんは後部座席だった。
おかげで俺はとても幸せな気分だった。
☆
神社でりおちゃんがステータスを確認すると、MPが1増えて、11になっていたそうだ。これで決まりだ。
俺の出す白いおにぎりにはMPの絶対量を1あげる効果がある。
「りょうすけ君。すごいね。とんでもないおにぎりだったね。今日からもらえないなぁ。おいしかったのになぁ」
りおちゃんがちょっぴり悲しそうにそんなことを言うものだから、俺は慌てて、
「あげるよ。大丈夫。どうせおにぎりなんてそんなに何個も食べられないんだし、あげるあげる。みんなでおいしく食べようよ。今の時代、MPが増えたからって、そこまで凄いことにならないじゃん。おいしいおにぎりとしての存在価値を見出だすよ。」
☆
俺もMPを増やしたかったので、次の日からは朝に出したおにぎりを2個持っていって、給食の時間にその2つを食べてから、クラスの食べたい人にあげるという流れができ上がった。
1ヶ月後には、俺はもうMPが46まであがり、食べたい人に食べたいだけ渡せるようになっていた。
ふとっちょは嬉しそうに、給食のおかずとあわせて毎日10個食べていた。加えて、帰りには特大タッパーにおにぎりを20個詰めて嬉しそうに持ち帰っていた。
喜んでくれるふとっちょを見て、俺も嬉しかった。
ただ、家でも学校でもそんなにおにぎりが必要なくなってきて、またMPを全消費した時のおにぎりの処理に困ることになり、結局、総MPを上昇させるにはおにぎりを食べればいいんだし、と思い直して、毎日全消費することはやめてしまった。
そんな日々を繰り返していたら、年が明けて1月になり、俺の総MPも100を越えた。
これは少し嬉しかった。
俺が家で箱根駅伝を見ながら、ぐうたらと餅を食べていると、ふとっちょが慌てた様子で、俺の家の窓に張り付き、窓を何度もノックしだした。
どうやら、何かあったらしい。
酔っぱらい中。お酒おいしー。