19話、アヤカシ
そろそろ島根県に怒られそう。
たぶん、本当に隠している秘密だから、、、。
厄災ばかり起こるのは、島根県民が減って、祈りが減少したせいじゃないか、と皆思ってるけど口には出さないし、、、。
松江東高校に着いた。
松江北高校は、松江城のすぐ北にある。城、鎮守の森、高校の順に並んでいる。まぁ途中に城山稲荷神社とか、武家屋敷とかもある。由緒正しき場所だ。
俺たち3人は、悩んだ結果、とりあえず行ってみよう、それから考えよう、と考える気があるのかないのか分からない行動に出た。
近頃、生き急いでいる気がする。
どこに行けばいいか分からないので、ホルンを持って歩いていた高校生に、「昔からあるものってありますか?」と聞いてみた。
すると校庭に松の木があるという。
松? と思いながら、校庭まで行くと、いやに重い空気が立ち込めている。2本の松を円で囲むような形で、松の木が守られていた。
いや、他から隔絶されていると言うべきか。
不意にお稲荷さまが、横に並んだ。
正確には、狐の姿をしたお稲荷さまだ。
かなり慣れ親しんだ俺たちには分かる。端から見れば、犬にでも見えているだろう。
お稲荷さまが話し始めた。
「この2本の松じゃが、この木を永世保存することを条件に、ここに学校が建ったのじゃ。言ったのは松江藩士の塩野門之助家って伝承されているんじゃがな。正確には、神じゃ。
この双松は、アヤカシの力を削いでいるんじゃ。封じ込めるのはもう無理そうじゃけどのぅ。木が祈りを集める対象なのじゃ。
ご神木とか言うじゃろ。あのようなもんじゃ。」
俺は聞いた。
「お稲荷さまって、案外ふつうの犬みたいなんですね。」
狐の姿をしたお稲荷さまは、ジト目で見てきた。誰得?
「違うわい。これはすぐそこの城山稲荷神社の稲荷の力を借りておるのじゃ。力を無駄遣いするのは良くないからのぅ。そろそろ何やら起こるやろうて。
お主のおにぎりのお礼に少し位は動いてやろうと思うただけじゃよ。」
そんなものか、と思い、ここからどうするべきかも良く分からないので、素直に聞いてみた。
「何をすれば良いかも分かってないんだけど、どうすればいいの?」
「まぁ信仰を集めるか、アヤカシをやっつけるか、だろうのぅ。
ここが口なのじゃ。入り口にも出口にもなる。それを双松で抑えておるのじゃ。」
「で、結局、どうすれば?」
「お主、せっかちじゃのう。モテんじゃろ?」
「なっ、、、」
「とまぁ、冗談はほどほどに、アヤカシも普段は別に一気に出てくる訳ではないからのぅ。どないしようもないといえば、ない。口の隙間を通って、たまに出てくる。そして、そのうち戻る。」
「えっ?? 戻るの?」
「そりゃあの。アヤカシにも家がある。ただ、思い出の場所にも行きたいじゃろうし、旅もするし人にも会うじゃろう。
そういうもんじゃて。
「なんかやっつけるのに罪悪感があるんですけど、、、。」
「アヤカシかて、もとは人であるからの。
相容れなくなったとて、ただ滅するのはな。
ただ、お主ら人は、そもそも人同士で殺し合うておろうに。
殺してでも救いたいものがあるのなら、戦え。
そうでなけりゃ、このままにしとくがええ。
我は神の意志に従うが、今のところ神は傍観しておるしのぅ。
神がアヤカシを滅しておらんということは、滅すると不利益があるのじゃ。
まぁ、単純に厄災の報復を恐れておるのかもしれんが。」
確かに、家族や同胞を殺されれば、報復合戦になることは目に見えているな。それならば、何もしない方が被害は少ないのか、、、。でも山の神は異変が起きていると言っていたよな。
「なぁお稲荷さま。今は世界に異変が起きているんじゃないのか? 山の神の話だとそうだったろう? お稲荷さまも言ってたじゃないか。」
「うむ。神々と厄災のパワーバランスは崩れかけておる。神々が信仰の力を無くし、厄災はそのままじゃ。もともとバランスのとれていたものが、そうなっておるということは、そういうことじゃの。
厄災の天下がやってくる。」
「厄災側に世界が傾くと、大変なのか?」
「そりゃあの。怒りに任せて破壊し続ける厄災を、野放しにすれば色々と大変じゃろうて。まぁそうなった時は諦めるしかないのぅ。」
「それは困る。やっぱりやっつけるしかないのかぁ。でも一気にしないと、反撃が始まるよねぇ。どうしたもんかな」
そんな悩みを抱えながら、とりあえずは何もせずに帰った。
☆
アヤカシは夜に双松の隙間から、あの世とこの世を行き来するらしい。アヤカシの力は、夜の方が増幅されて、通りやすくなるからだそうだ。
夏休みも終わって、良いアイディアもでないままだった。
9月も少し過ぎた頃、俺は、夜の双松を見たことがなかったから、金曜日の夜に見に行ってみることにした。
金曜日にした理由は、父も母も飲み会らしく、夜に1人で抜け出しても怒られないからだ。我が家から自転車で1時間程度。
自転車は門の前に置いて、高校に忍び込む。時刻は7時42分。
俺は持参したおにぎりを食べながら、歩いて双松まで向かった。おにぎりを食べるのは、夜の、まぁ日課ってやつだ。
双松は、夜近くで見ると異様な雰囲気だ。
うっすらともやがかかったかと思うと、一気に周囲にアヤカシが現れた。
めっちゃいる!!!!
しまった。今日は百鬼夜行日か!?
ぼろい布をまとったじいさんの様なアヤカシが、そばに来て口を開いた。
「ええもん食うとるの。」
喉を締め付けられ、冷気で頭を包まれた様な衝撃だった。
「1つくれるか?」
死ぬ。返答を間違えるな。俺よ。
魔法で1つ右手に出して、渡した。
「ど、どうぞ。」
「おぉ、魔法使いか。久しく会っとらんかったなぁ。」
そう言いながら、アヤカシはおにぎりを受けとり、ひょいと食べた。
「うまい。久しぶりのにぎり飯はうまいのぅ。まだ出せるのか? 他の奴も欲しそうじゃ。」
「え、えぇ。大丈夫です。今、出しますね。」
俺は怯えが悟られないように、3メートルの山を作るようにおにぎりの山程を出した。
アヤカシが強化されない事を願って。
たぶん、難しいんだろうが、、、。
おにぎりの山に、何人かずつアヤカシが取りに行っては、おにぎりを食べ始めた。
「なぁ、ちっこい魔法使い。なんでお前はここにいるんじゃ?」
「アヤカ、いや、あなた達をひと目見たくて。」
「おぉ、それはそれは。見れてどうじゃ。」
「いや、凄いな、と。」
正直、この数に勝てる気はしないし、たぶん、このおじいさんの様なアヤカシ1人にも殺されるだろう。それ程の実力の差を感じた。
「わしは、ぬらりひょん。聞いたことあるか? まぁこんな風に皆で来る時の、先頭じゃな。」
「にぎり飯をどうもな。うまかった。まだ食べ足りんがなぁ。そろそろ出かける。」
「ど、どこに行くんです?」
「町を歩くだけじゃよ。まぁ、それぞれに目的もあろうが、単なる物見遊山じゃ。」
町に出れば少なからずの被害が出そうな気がした俺は、ぬらりひょんに提案した。
「もっと、おにぎり食べませんか? まだまだあるんです。」
大量のおにぎりを出して、アヤカシ達に食べさせまくった。
校庭に5つのおにぎりの山を出して、食べるのを見ていた。
山が消える頃、ぬらりひょんが、そばに来た。
「酒はないのか?」
「お酒は、ちょっと、、、ないです。」
「これだけの米じゃ。酒を作ると旨いだろうに。ではまたな。」
そう言って、ぬらりひょんは外に向かって歩き始めた。
ぬらりひょんを先頭に、百鬼夜行が始まった。
俺はそれをただ見送るしか出来なかった。
無力感を抱えて、俺は家に帰った。
評価してくれた方、ありがとうございます。
テンションあがりました。
お祝いにコンソメパンチとビールで晩酌しました。