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18話、模擬戦と意味のない行動

ふとっちょに模擬戦のことを話すと乗り気で、早速今日の放課後からすることになった。

都会の6年生は塾とかに行ってるんだろうが、こちとら田舎者。そんなものはないから、いつでも集まれる。

もちろんりおちゃんもだ。


学校の運動場もものすごく大きいから、模擬戦は運動場ですることにした。ビバ島根。

大きい怪我が怖いから、使う魔法の威力よりは、アイディアに重きを置いて戦うことにしたから、運動場でもまぁ問題はないだろう。



まずは、ふとっちょとりおちゃんが戦う。

作法とかは分からないので、2人は5メートルの距離をとって、向き合った。

りおちゃんが、

「いくよー。」

とゆるい声を出して、模擬戦はスタートした。


数えきれないくらいの水弾(すいだん)火弾(ひだん)が相殺し合う。弾はテニスボール位だが、それが100発を越えていると、ものすごいという(ほか)ない。

アイディアに重きを置いているんだよね?


りおちゃんが「水棒(みずぼう)」と、弾ではなく、その軌跡まるごとを具現化さした水の棒で突いた。

相殺されて消えていた水が消えずにふとっちょに迫る。


水はほとんど圧縮できないから、1発のエネルギーを高めるには、質量か速度のどちらかをあげなきゃいけないのか。

なんか授業で先生が言っていた気がする。雑談の中で。


ふとっちょが自分のまわりを火で覆った。

水棒が消えるまで、蒸発させ続けて耐えるのか。


MPの量の対決になるとふとっちょの勝ちだから、力押しは難しいよな。

などと考えていると、ふとっちょの上空に、10メートル四方くらいの水の立方体が出てきた。

あれを落として、大丈夫なのか??

しかも水だけど、何か濁ってる。

俺は、

「しゅーりょー!」

と叫んだ。

声が聞こえたりおちゃんが魔法を解いて、ふとっちょも解いて、普通に戻る。


「ふとっちょ、あれ、いけた?」

「うーん、分からんけど、攻める手だてがなかったから、続いても一緒かも。防ぎ続けるだけ」

「私も、あれを防がれたら出来ることなかったかなぁ。火で延々と攻められたら、ふとっちょと同じで自分を包んで耐える以外に方法がイメージできないし、、、。」


俺のおにぎりより明らかにレベルの高いことをしている。でもどちらもおにぎりでも同じことができる、、、できるのか??


そんなことを話していると、校長先生が校舎の方から歩いてきた。

「悩んでいるみたいですね。」

大げさな表現をする校長先生に俺は答えた。

「そうなんですよ。若者らしく、強くなる方法を考えていてですね。」

「君のお父さんは、どちらかというと花を愛でるタイプの子だったんですけどね。」

「えっ、父さんの子どもの頃を知ってるんですか?」

「ええ、島根は狭いですから、お父さんを担任したことがありますよ。」


そんな風に言われて、俺は衝撃を受けた。そうか、父にも小さい頃があったのか、と。

そんな俺を置いておいて、校長先生は続けた。


「強くなりたい、ですか。君たちはもう十分に強いですよ。世界の誰も勝てない。」

ふとっちょが反論する。

「でも、厄災にも勝てないんです。厄災に勝たないと!」


校長先生は、落ち着いた様子を崩さずに言う。

「ふむ、厄災に勝つ、ですか。確かに厳しいでしょうねぇ。あれは神の領域ですから。

自分でやっつけたい、というのでなければ、方法はたくさんありますけどねぇ。」


「えっ? やっつけられるんですか?」


「えぇ、たぶん。

結局は、こちらとあちらの力比べですからね。


1つ目は、神の力を増やすこと。祈りをたくさん捧げられればいけますね。神はやはり別次元ですから。


2つ目は、君たち位の強さの人を増やすこと。


3つ目は、厄災側の戦力を削ぐこと、ですかね。


簡単に思いつくだけで3つの選択肢があります。」



1つ目の方法は、この前考えて出てこなかった。

2つ目は、おにぎりを食べさせまくれば可能だけど、やめておいた方がいいと言われてる。昨今の危険な事件を鑑みるにその通りだろう。

3つ目は、どうだ?


りおちゃんが聞く。

「厄災側の戦力を削ぐって、どういうことなんですか?」


「厄災の子どもが現れた話は、聞きました。厄災に勝つって言うのは難しいでしょう。

我々の戦力は、神々の力、人の力、から成り立っています。時に動物も手を貸してくれるでしょうが。


厄災側の戦力は、厄災、その子ども達、そしてアヤカシ。」


「アヤカシ?」


「妖怪とか怪異などの総称ですよ。厄災とその家族だけが相手の民族ではありませんからね。

厄災の子どもを退けられる君たちなら、おそらくアヤカシには勝てるでしょう。」


「アヤカシって見つけようとして見つかるものなんですか?」


「えぇ、勿論。

基本的にはアヤカシも神と人によって鎮めていますから。それが漏れだして、様々な事件が起こるだけなんですよ。」


「それはどこにいるんですか?」


「松江を囲む4つの高校です。松江北、松江東、松江西、松江南。それらでアヤカシほ発生点を抑えているのですよ。」


「知らなかった、、、。」


「知らないことの方が多いですよ。私はもう、ずいぶん長く、神さまのおもてなし係を続けていますからね。生憎と子どもがいませんでねぇ。引き継げてない。だからその分、神さまとも仲良くなれました。

ただやっつけるのが善かというと、それも難しい噺なんですよ。

世界から戦争がなくならないのと、同じです。

神と人には神と人の(ことわり)が、厄災とアヤカシにはその理が。どちらにも、それぞれの言い分があります。」


「でも、、、。」

でも、の後は誰も言葉にできなかった。

なんとなく、もにょる気持ちを抱えながら家に帰った。





「父さん、俺、頑張ってると思うんだよね。」

「おう、そうだな。良佑(りょうすけ)、急にそんなことを言い出すなんて、何か欲しいものでもできたのか?」


「ううん。そういうんじゃないんだ。何て言うかな、頭の中で、戦う意味とか、生きる意味とかがなんか渦巻いている感じで、、、。なんていうのか、その、、、。あー、分からん。」


「気にせんでいいと思うぞ。意味なんてないことの方が多い。ないって言うのはちょっと違うか。

無意味だと思える事にも、何かしらの意味はあるんだ。それが集まって、でっかい意味になるみたいな感じだ。

効率とか大きな意味とか考えずに、思いつく限り、遠回りすればいい。色んな事をすることも、人生の大きな意味だよ。」


「うーん。納得できるようなできないような。」


「無意味だと思えることをたくさんしてみろよ。たぶん、分かるからさ。最短距離で生き抜くには、世界は勿体ないくらい面白いぞ。」


「わかったよ。」


「おっ、いいね。じゃ、まず何をする?」


「料理する。」


「料理?」


「俺の出すおにぎりで、いろんな料理を作ってみるよ。まずはおにぎりでハッピーターンを作りたい。父さん、ハッピーターンの粉がネットで売ってるらしいから、買ってー。お小遣いで買うには高いねん。」


「わかったよ。できたら食べさせろよ?」



ハッピーターンの粉を買ってもらえた俺は、おにぎりを潰してお煎餅みたいにして焼いて、粉をかけて食べてみた。

これはハッピーターンじゃないな。

ハッピーターン味のお煎餅だ。

柔らかい食感にはならなかった。


味はうまいと思って、粉をそのままおにぎりにかけて食べてみたが、いまいちだった。


父さんも微妙な顔をしてた。

これを続けていれば、何か分かるって本当かな、父さん。



あっ、りおちゃんの濁った水の魔法のこと聞きそびれてた。


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