17話、日常へ
ふとっちょは両手におにぎりを持って、交互にかじって幸せそうだ。アホの子みたいだが、さっきのめちゃめちゃかっこ良かったから、何か違和感。
山ロリ神も、おにぎりを食べながら話し始めた。
「少し遠回りになるが、分かりやすぅ話しちゃるけん、聞くがよ。」
りおちゃんは両手でカップを持って紅茶を飲んでいる。かわいい。萌え袖。テンションあがる。
パスーン!
山ロリに頭をはたかれた。
「聞かんかい。」
俺は、顔のパーツを全部真ん中に集め、ネズミみたいな顔をして、うなずいた。せめてもの反抗。
山ロリは、深いため息をついてから、話を続けた。
「そもそもなんで、出雲に神々が集まるかっちゅうとな、祈りのためなんや。祈ることで、厄災を押さえつけて鎮めてるんや。
人間の祈りもパワーとなるし、神々の祈りもパワーとなるからな。神々いうても、元々人間やった奴が多いしな。
地震も気象も、なんならウイルスも、全部ひっくるめて厄災や。さっきのなまずの親玉が引き起こしてる。
あれの怒りが元となっとる。
おんしらも起こった時に出る反応って、様々じゃろ? 物を壊したくなる時、叫びたくなる時、走りたくなる時、やけ食いしたくなる時、まぁその一つ一つの違いやと思ってくれたらええ。
つまり厄災の怒りのコントロールのために、10月に集まるんや。
こうでもせんと、なかなかみんな忘れるしな。
ただ、最近はちょっと様子が変わってきてなぁ。人々が自分の事ばっかり祈って、平和や安寧を祈らんようになってもうた。そうなって神々もやる気をなくす奴も出てきてなぁ。
多神教の国は、なんや忘れられるんも早いねや。
祈りを捧げられた神は、力を増して、それを様々に活用しとる。その一つが、厄災を鎮めることであり、わしは、この山を豊かにすることでもある。山の神やからな。
学問の神なら、学問を進化させるんやろう。俺にはよー分からんけどな。
んで、人が信仰せーへんくなってもうたら、神の力は消えてしもて、朽ちて消えていくんや。実際、日本は神がどんどん入れ替わるから、それに愛想尽かして出ていった奴もおるしな。
そうなると神の恩恵も消えて、ますます悪くなるし、厄災も押さえきれんようになる。
今はな、まだ厄災の本体はおとなしゅうしとるけど、子どもを現世に放てるようになってきとるからな、そろそろ限界や。
こういう歪みが、島根だけじゃのうて、日本全土に広がるんも時間の問題やし、神に国境はあっても厄災にはないからな。
世界も厳しくなってくる。
今回のは、厄災の子どもが怒って、まぁ目に見えるものを食い荒らして片付けようとしてた所に、新しく物を出して散らかしてやったみたいな感じやな。
そりゃ厄災も怒るわな。
だから近いうち、何か起こると思ってた。
それがどんな出方をするかは分からへんけどな。
んで、おんしらに協力してもろて、厄災の子どもを無理やり抑え込んで、鎮めたみたいな感じや。
後は、厄災の子どもが食い荒らした分を、もとに戻すのに、食料を増やしたり環境を整えたりすれば、この山は元に戻るじゃろう。
ありがとな。」
俺はいまいちピンとは来なかった。
それが伝わったのだろう、山ロリは、好好爺の風体で笑って、
「まぁ、食べ物増やして、祈りも増やせばええっちゅうこっちゃ。」
と勝手に話を打ち切った。
☆
翌日からは昨日作った広場に、水とおにぎりを追加するという作業になった。
毎日山道を6キロメートル程歩いたので、体力はついたような気がする。
4日もすると、かなり雰囲気を取り戻し、いい山になったと山ロリは言っていた。
俺には良く分からないけど、そう言うことなんだろう。
☆
一応の試練を終えて、俺たちは下山した。
チート級魔法使いの俺たちで引き継げなかったら、誰がおもてなしの役割を引き継げんねんと思っていたが、実際はかなりヘビーな出来事だった。
下山した翌日、俺は大量のお揚げさんを持って、鷹日神社のお稲荷さまに会いに行った。
お稲荷さまはお揚げと、俺の出せる限りのおにぎりを受け取った。
俺はお稲荷さまに、今回の試練の事や山ロリに聞いたことを話した。するとお稲荷さまは、
「神さまの事情は、我にはよく分からぬな。我らも神さまの使いじゃからのう。ただ確かに祈りも減った気はするのぅ。」
「ホントに祈りって効果あるもんなん?」
「そりゃあのぅ。祈りとは言葉じゃ。言葉には言霊というて、霊魂が乗る。たくさん集まれば、とんでもない力があるぞ。」
「そっか。でも祈りを増やす方法なんて分かんないなぁ。」
「昔の人は、大きな大仏を作って、祈りを集めたりしたらしいからの。そう簡単じゃなかろうて。」
「そういうもんだよね。ま、また来るよ。」
「うむ。お揚げ感謝するぞぃ。」
☆
昼休みにぼんやりと校庭で石ころを集めながら、俺は祈りを増やして、神様に厄災を鎮めてもらおうと考えていた。
最近は石ころに絵を描くのを趣味にしている。
描いた石ころはこっそり校庭に捨てている。
校庭をカラフルな石ころでジャックしてやろうなんてことを卒業までのライフワークにしてる。
ただ、ふとっちょは別の事を考えていたようで、
「りょうすけ、俺、強くなりたい。」
とわざわざ話しかけにきた。仲良しでもいつも一緒にいる訳じゃない。俺が負けたみたいな空気になるのが嫌で逃げてるという訳でも決してない。ないったらない。
「えっ、今でもヤバいくらい強くない?」
「いや、この前のなまずの化け物が厄災の子どもだとしたらさ、今の俺じゃ勝てないよ。」
「厄災と戦うん?」
「うん。前の時、たぶん山の神様だけじゃ負けてたんだと思う。だから巻き込まれたっぽいし。」
「そうかぁ、うーん、、、強くなる方法なぁ。漫画やったら修行とかするんやろうけど、修行ってどうするんやろ、、、。帰ったら父さんに聞いてみるよ。ふとっちょは家では聞いてみたん?」
「聞いたよ。筋トレすればいいって勧められたから、始めた。」
「それでか、最近、ふとっちょって感じじゃなくなったもんなぁ。」
☆
家で父に強くなる方法について聞いてみると、りおちゃんも含めた3人で組手みたいに戦ってみればいいんじゃないかと提案された。
確かにふとっちょとりおちゃんは、いい勝負になるだろう。でも俺は勝てないんじゃない?
そんな風に聞くと、魔法はアイディア次第で劇的に変わると言われた。
そういうアイディアの練習のためにも、ちょっと言ってみようかな。
体重を量って、死にたくなりました。