16話、依頼
ロリコンおじさん神は、言った。
ロリおじ神なのに、見た目だけでは計り知れない真剣さが同居しているため、笑えなかった。
「今ぁ、山に異変が起きとるんや。捕食者と被食者の関係って聞いたことあるか? まぁオオカミとウサギで言うと、オオカミが増えれば、ウサギがたくさん食べられてウサギが減る。その後で、ウサギが減るから、オオカミも食べものが減って、オオカミも減る。オオカミが減ったらウサギは増える。これは少しずれた周期で発生する。そらそうやな、物事にはちゃんと順番がある。この山も、その流れに漏れずだった。
もちろん今の話は簡単にしただけで、山にはクマもネズミもバッタも色々とおる。それらがまぁ絡まりあって、何となくの均衡を保ってたんや。
それがな、生き物が軒並み減っとる。
まぁ原因があるわな。
でも原因を取り除くのは容易やない。
だからこその対処療法や。
おまんさんのおにぎり、狐も食うんやってな。ええやないか。ありとあらゆる雑食の生き物に、お腹いっぱい飯を食わしたってくれ。そうすれば軒並み減り続けることはないやろう。
この山から生き物が死滅してしもたら、救われへんくなるさかいな。」
ロリおじ神は、実はいい神様なのかもしれない。
いや、もしかしたらロリコンなのは、俺の勘違いだったかもしれない。少しだけ申し訳なさを感じたが、1度ついてしまったイメージを拭い去るのは難しく、ロリおじ神のままだった。
「なぁ、ロリおじ神、」
「誰がロリおじ神や。山の神や。山の神。この山を司っとる偉いさんや!」
「それは、ごめん、、、。なんか、うん、呼び方分からんくて、、、。なんかそんな気がして。」
「山ロリ神、俺はおにぎりが出せても、それくらいしかできひんから、どこにどう出せばいいの?」
「まざっとるやないか! まぁええわ。それは明日、説明するわ。今日はもうお休みや。夜更かしはロリータの敵やからな。夜更かししたくても、目がしょぼしょぼしてしまうからこそのロリータや。」
「あっ、ロリコンはロリコンなんだ、、、。」
「おまんさん、大事なスローガンを知らんのか? あれは義務教育で習うはずやろ。イエスロリータ、ノータッチや。」
なぜか山ロリ神は、誇ったような顔で言っていた。
イエスロリータ、、、やっぱりそうなのか。
一体俺たちは何を聞かされているのだろうか、、、。りおちゃんはどんな気持ちなんだろうと顔を見ると、鋭く無表情に近い、人を殺せる目をしてた。
そんなりおちゃんもかわいいなと思ってしまう俺は、同い年だから正常なはず。
その後は、おにぎりで壁を作って部屋を分け、おにぎりでそれぞれの部屋にベッドも作って就寝した。
☆
翌朝、山ロリ神の説明を聞きながら、なるほどと思った。
山中に1キロメートル位の距離を隔てて、広場を作る。広場はふとっちょの火魔法で木を燃やし尽くして作る。
広場の形は数字の8だ。端から端までは20メートルはあるだろう。
片方の丸の真ん中にりおちゃんが水のみ場を作る。土を掘るのは山ロリ神がしてくれるそうだ。山ロリ神は多才で、ある程度の自然を操れるらしい。広場にするのも水を出すのも自分ではしないのかとツッこんでみたが、言葉を濁された。もしかするとあまり魔法が得意ではないのかもしれないなどと思ったが、神様だからそれはないかと思い直した。おそらく理由があるが言えないのだろう。
そしてもう片方の丸の真ん中には、俺が魔法でおにぎりを出した。いくつ出せるかを聞かれたので、全部で2000個弱ですと答えたら、300個ずつ6ヶ所作ることにしたらしい。
広場を作るのも、水のみ場を作るのも、おにぎりを出すのも一瞬なのに、移動がすごく大変。山道を1キロメートル歩いては、魔法を行使し、また歩く。6ヶ所回る頃には、もう日が暮れそうで、慌ててキャンプ地まで戻った。
戻る途中で、残りのおにぎりを米粒単位で川に流してみてくれないかとお願いされたので、流した。おかけで、俺のMPはもうすっからかんだ。
MPが空っぽになるのは、お稲荷さまにおにぎりをお供えしているので慣れているから気にはならないけど。
そう言えば、お稲荷さまにキャンプに行くと話したら、おにぎりがもらえない日が続くじゃないかと不満そうな顔をしていた。まぁお稲荷さまの表情は石だから変わらないとは思うけど、そんな気がした。帰ったらお揚げも一緒に持っていってあげよう。
その後はMPに余裕のある、りおちゃんとふとっちょが風呂の準備をしてくれた。
りおちゃんが風呂にはいっている時に、山ロリ神が、
「ノータッチやけど、ルックはセーフ!」
などと訳の分からないことを言いながら風呂場に向かおうとするので、MPがほとんどない俺は、抱きついて止めた。
すると、ほぼ俺の体と同じサイズの落とし穴を作られて落とされた。身動きがとれない。これはヤバいと思って、
「ふとっちょー!」
と叫ぶと、
「ほうおう連撃!」
と叫んでいるふとっちょの声が聞こえた。
顔を上に向けて必死で見ていると、穴の上を、2メートル位の火の鳥が何羽も、山ロリ神が走った方向へと猛スピードで飛んで行った。その後すぐに、ふとっちょが俺を引き上げてくれた。
体をはたきながら風呂場の方を見ると、火の鳥に前後左右あげくに上空まで囲まれた山ロリ神がうずくまっているのがチラリと見えた。いい気味だ。
そして今夜も何事もなく1日が終わる、、、。
☆
寝入った夜更け過ぎ、雨が屋根を叩く音で目が覚めた。
おにぎりの屋根ふやけへんかな、などとむにゃむにゃ考えていると、ザバン、ザバン、ととても雨音には聞こえない音が部屋に響いてきた。降っているのはなんだ?
外に出てみると、大型バス位のなまずが、おにぎり小屋の上空を、水を滴しながら飛んでいた。
唖然としていると、そいつと目があったーー。
ヤバい。
急いで小屋に飛び込み、魔法でおにぎり製のドアを後ろ手で出した。するとドッシャーンと水を打ち付けるような音とともに、出したドアが一瞬でひしゃげて、中に水が入ってきた。
俺はそのまま走ってリビングとして使っているテーブルの影に隠れた。
りおちゃんの部屋から声が聞こえた。
「なに、これ。」
「わからん。なんかバスくらいのなまずが空飛んで、攻撃してくる。」
俺は早口で答えた。
するとふとっちょの部屋から、深く息を吸う音が聞こえる。
「はぁああ、バハムート! みんないったん外に出るよ。」
ふとっちょの声に促されるまま、外に出た。
なまずと同じくらい大きな炎の竜が、体当たりでなまずを吹っ飛ばしていた。
ナニコレ? 怪獣大戦争? てかふとっちょスゴっ。
吹っ飛んでいったなまずに向けて、俺の脇をすごい早さで山ロリ神が駆け抜けていった。
木をなぎ倒しながら地面に落ちたなまずを、上から光の輪みたいなものが押さえつけていく。魔方陣?
そんなことを思いながら見ていると、なまずが地面に沈んでいった。
俺たちも駆け寄って確認すると、なまずのまわりの地面が黒く深い穴のようにえぐれ、そこになまずが光の輪に押し付けられるようにどんどん沈んでいった。なまずの体が全部沈んでしまうと、何事もなかったかのように、もとの地面に戻った。
そこかしこに、へしゃげた木がなかったら、なにも起きなかったように思えるほど、普通の地面だった。
「ふぃー疲れたわい。いやぁ助かったぞ。」
山ロリ神が地面にへたりこんで言った。
りおちゃんが目を細めて、いぶかしげな視線を山ロリ神に向けた。
「というかアレなんですか?」
「あれはな、厄災じゃ。といっても子どもじゃがのう。厄災の子どもじゃ。」
俺たちには訳が分からなかったが、山ロリ神が、今日はもう安心じゃというので、それを信じておにぎり小屋にもどった。
幸い小屋自体はつぶれていなかったので、皆でテーブルを起こし、椅子に座った。
りおちゃんとふとっちょの魔法でお茶をいれ、俺はある程度回復していたMPを使って、おにぎりをお皿に山盛り出した。ついでに自分のリュックから、のりたまや塩、おかか梅などのふりかけセットを持ってきてテーブルに置いた。
この山ロリ神は、今夜の出来事が起こると分かっていたようだ。
それで昼間、魔法を節約していたんだろう。
なんて神さまだ。
もう山ロリとだけ呼んでやろうか!!!