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12話、試練①

5年生も無事に終わり、通知表をもらった。

俺の成績はまぁそこそこ。

ふとっちょは俺より悪い。

りおちゃんは言うまでもなく、パーフェクトだ。


6年生の始業式まで、明日から2週間くらいの休みがある。

何をしようかなぁ、とうきうきしながら家に帰った。


その日の晩ごはんの時に、父が言った。

「明日から、引き継ぎの試練をするから。」

俺はびっくりした。

「あれ? 早くない? 中学校からじゃないの?」

「本来なら早いが、お前たちならいいだろうと、話し合いの結果、3人にはとっとと引き継いでもらうことにした。島根も人不足だからな。1年くらいどうってことない。」

「ふぅん。まぁ、いいけど。で、試練って何をするの?」

「それは教えられない。まぁ行けば分かるし、説明もしてやれる。別に何の準備もいらないしな。」


その夜はわくわくしながら、眠りについた。





島根県安来市にある天狗山に車で連れていかれた。

なにをするんだろうな、とわくわくしながら車から降りると、父が俺に、ナイフを1本渡してきた。


「では、試練の内容を伝える。2週間、この天狗山で生活をすること。人に会うと失格。もう1度始めからになるので、気をつけてくれ。ちなみに食事も水も支給はないので、自力で調達すること。」


「はぁああー? 無理じゃない?」


「できるさ。俺だって13歳の時にしたんだから。」


「まじかよ。試練ってみんなこうなの?」


「いや、代々おもてなしする神様によって変わるから、家によって違う。終わった者どうしは試練の内容を話してもいいから、終わったら聞いてみればいい。よそはよそ。うちはうちだ。」

キメ台詞かのように父は強調して、話を続けた。


「じゃあ2週間後に迎えに来るから。ちなみにずるは確実にバレるぞ。ずるをすると天罰がある。これは本当だ。じゃあな、風邪ひくなよー。」


そう言って、父は車に乗って帰っていった。




1人残された俺は、とりあえず、近くにあった切り株に座った。

どういうこと???

頭の中がパニックだが、父は帰ってしまったし、しなくちゃならないことを整理しなけりゃな。


食べ物はおにぎりでなんとかなるとして、水、寝るとこ、夜の寒さ対策、こんなもんかな。

準備いらんって言ってたのに。夜寒いやん。


まぁでもなんか何とかなりそうか。


とりあえず川でも探すか。その辺りを拠点として、過ごそう。

川はあっという間に見つかった。


水をこのまま飲むのは良くないってテレビで見たことあるなぁ。煮沸するんだっけ? でも煮沸できるようなアイテムがないなぁ。うーん。ちょっとこのまま飲んでみるか。


手ですくって飲んでみる。ごくごく。うん、普通に飲める。

もう水はこれでいいや。


ナイフで魚ってとれるかな、、、。ちょっと難しいな。うーん。おにぎりだけは飽きるよなぁ。

枝とかで籠みたいなもの編めるかな?

でもまずは火か。でも火をつけるアイテムがない、、、。


無理じゃない?

あぁ、めんどくさい。


水とおにぎりあるし、それで2週間くらい我慢しよう。未来の俺よ、何かいいアイディアを思い付け。現在の俺は、ちょっと寝よ。そう思って、大きめの岩の上でごろんと横になった。岩ってちょっと冷たい。これ夜、やばいな。


うーん、寒さ対策、、、葉っぱに埋もれてみる?? 確かにちょっと暖かそう。柔らかそうやし。いっぱい落ちてるし。とりあえず拾ってきてみたが、2、3回集めたところで、たいした量にもならず、葉っぱもきれいじゃないので、断念して、川の水で手を洗った。


はぁ、どうしたらええんやろう。おにぎり食べよ。

そう思って、おにぎりを魔法でひとつ出した。


もぐもぐもぐ。

あっ、あったかいぞ。おにぎりあったかいやん!


ふっふっふ。もう完璧だ。完璧なアイディアを思い付いた。







お米の神様、すみません。俺は心の中で謝りながら、でき上がりの形をしっかりイメージし、

「おにぎり!」

と言った。さっきまで俺が座っていた大きめの岩の上に、布団のように大きな、平たいおにぎりがでてきた。これをおにぎりと呼んでいいのか? という疑問には目をつむろう。

これで、岩からの冷気は緩和できるはずだ。

触ってみると、べたつきもせず、いい感じだ。


もう1度、おにぎりと言うと、次はその布団をすっぽり覆えるくらいの、大きいかまくらができ上がった。まぁ素材は炊いたお米だが。白くてほんとにかまくらみたい。

島根はしっかり雪が降るので、かまくらのイメージはお手のものだ。

食べ物で遊んじゃいけないのは分かっているが、背に腹はかえられない。


中に入ってみると、とてもあったかい。寒さ対策は、完璧だろう。



夜の問題が解決したら、やっぱり魚が欲しくなってきた。火をつける方法が、途方もない人力でこするしかないとしても、まぁ2週間もあるし、チャレンジしてもいいだろう。


魚を突く銛でも作ってみようか。

適当な枝を尖らせる感じでいけるだろう。うまく削れそうなら、刺さってから逃げられないようにかえしもつけよう。


俺は、枝を探しに、森の中へ入っていった。

ついでに火をつけられた時の為に、乾いていそうな枝や、毛羽立っているような枝を拾った。火口にするのにどれがいいのか良く分からないから、まぁ手当たり次第試すしかない。

することもないし、ちょうどいい。

両手で抱えるようにして持って帰ると、拠点のかまくらが見えてきた。でもなんだかおかしい。


そっと枝を置いて近づいてみると、狐がかまくらを食べていた。食べていた。


なんてこった!


俺はナイフをそっと出して、声をかけた。

これが熊ならそばにもいかないが、狐だからな。

「おい。お稲荷さまの使いか?」

狐は、さも言葉が分かっているかのようにうなずいた。


ま、まじか、、、。

俺はナイフをしまった。


「腹、へってんのか? それは俺の家になる予定のやつだから、ちゃんとしたのを出す。だから、それは食べないでくれ。」


それを聞くと狐は、とてとてと寄ってきた。

狐も可愛いもんだ。

俺は大量のおにぎりをそこに出した後、自分のかまくらに向けて、おにぎり魔法を放った。

修理しとかないとな。





狐のおかげで、なんとなく門番ができた気分になった。

俺は枝をかまくらのそばまで持ってきて、ナイフで削っていった。銛作りだ。


2、3本作っていると、だんだんとコツがつかめてきたが、辺りが暗くなってきた。川の水を飲んでおにぎりを食べ、指で歯を磨いて、かまくらの中で寝ることにした。

思った通り、かまくらの中はあったかい。

それでも下が少し冷たかったので、1度かまくらを出てから、おにぎりの布団の上にもう1枚、おにぎり布団を出した。できたてはあったかいし、2枚になったので冷気も上がってきにくいだろう。


さっきまでおにぎりを食べていた狐は、まだまだ山盛りになっているおにぎりのそばで丸くなっていた。


ぽってりと夜が更けていった。

とりあえず2週間はそれなりに生きていけそうだ。




この時の俺は、朝起きて唖然とすることになるとは知る由もなく。それなりにぐっすりと眠りに落ちていった。




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