12話、試練①
5年生も無事に終わり、通知表をもらった。
俺の成績はまぁそこそこ。
ふとっちょは俺より悪い。
りおちゃんは言うまでもなく、パーフェクトだ。
6年生の始業式まで、明日から2週間くらいの休みがある。
何をしようかなぁ、とうきうきしながら家に帰った。
その日の晩ごはんの時に、父が言った。
「明日から、引き継ぎの試練をするから。」
俺はびっくりした。
「あれ? 早くない? 中学校からじゃないの?」
「本来なら早いが、お前たちならいいだろうと、話し合いの結果、3人にはとっとと引き継いでもらうことにした。島根も人不足だからな。1年くらいどうってことない。」
「ふぅん。まぁ、いいけど。で、試練って何をするの?」
「それは教えられない。まぁ行けば分かるし、説明もしてやれる。別に何の準備もいらないしな。」
その夜はわくわくしながら、眠りについた。
☆
島根県安来市にある天狗山に車で連れていかれた。
なにをするんだろうな、とわくわくしながら車から降りると、父が俺に、ナイフを1本渡してきた。
「では、試練の内容を伝える。2週間、この天狗山で生活をすること。人に会うと失格。もう1度始めからになるので、気をつけてくれ。ちなみに食事も水も支給はないので、自力で調達すること。」
「はぁああー? 無理じゃない?」
「できるさ。俺だって13歳の時にしたんだから。」
「まじかよ。試練ってみんなこうなの?」
「いや、代々おもてなしする神様によって変わるから、家によって違う。終わった者どうしは試練の内容を話してもいいから、終わったら聞いてみればいい。よそはよそ。うちはうちだ。」
キメ台詞かのように父は強調して、話を続けた。
「じゃあ2週間後に迎えに来るから。ちなみにずるは確実にバレるぞ。ずるをすると天罰がある。これは本当だ。じゃあな、風邪ひくなよー。」
そう言って、父は車に乗って帰っていった。
☆
1人残された俺は、とりあえず、近くにあった切り株に座った。
どういうこと???
頭の中がパニックだが、父は帰ってしまったし、しなくちゃならないことを整理しなけりゃな。
食べ物はおにぎりでなんとかなるとして、水、寝るとこ、夜の寒さ対策、こんなもんかな。
準備いらんって言ってたのに。夜寒いやん。
まぁでもなんか何とかなりそうか。
とりあえず川でも探すか。その辺りを拠点として、過ごそう。
川はあっという間に見つかった。
水をこのまま飲むのは良くないってテレビで見たことあるなぁ。煮沸するんだっけ? でも煮沸できるようなアイテムがないなぁ。うーん。ちょっとこのまま飲んでみるか。
手ですくって飲んでみる。ごくごく。うん、普通に飲める。
もう水はこれでいいや。
ナイフで魚ってとれるかな、、、。ちょっと難しいな。うーん。おにぎりだけは飽きるよなぁ。
枝とかで籠みたいなもの編めるかな?
でもまずは火か。でも火をつけるアイテムがない、、、。
無理じゃない?
あぁ、めんどくさい。
水とおにぎりあるし、それで2週間くらい我慢しよう。未来の俺よ、何かいいアイディアを思い付け。現在の俺は、ちょっと寝よ。そう思って、大きめの岩の上でごろんと横になった。岩ってちょっと冷たい。これ夜、やばいな。
うーん、寒さ対策、、、葉っぱに埋もれてみる?? 確かにちょっと暖かそう。柔らかそうやし。いっぱい落ちてるし。とりあえず拾ってきてみたが、2、3回集めたところで、たいした量にもならず、葉っぱもきれいじゃないので、断念して、川の水で手を洗った。
はぁ、どうしたらええんやろう。おにぎり食べよ。
そう思って、おにぎりを魔法でひとつ出した。
もぐもぐもぐ。
あっ、あったかいぞ。おにぎりあったかいやん!
ふっふっふ。もう完璧だ。完璧なアイディアを思い付いた。
☆
お米の神様、すみません。俺は心の中で謝りながら、でき上がりの形をしっかりイメージし、
「おにぎり!」
と言った。さっきまで俺が座っていた大きめの岩の上に、布団のように大きな、平たいおにぎりがでてきた。これをおにぎりと呼んでいいのか? という疑問には目をつむろう。
これで、岩からの冷気は緩和できるはずだ。
触ってみると、べたつきもせず、いい感じだ。
もう1度、おにぎりと言うと、次はその布団をすっぽり覆えるくらいの、大きいかまくらができ上がった。まぁ素材は炊いたお米だが。白くてほんとにかまくらみたい。
島根はしっかり雪が降るので、かまくらのイメージはお手のものだ。
食べ物で遊んじゃいけないのは分かっているが、背に腹はかえられない。
中に入ってみると、とてもあったかい。寒さ対策は、完璧だろう。
夜の問題が解決したら、やっぱり魚が欲しくなってきた。火をつける方法が、途方もない人力でこするしかないとしても、まぁ2週間もあるし、チャレンジしてもいいだろう。
魚を突く銛でも作ってみようか。
適当な枝を尖らせる感じでいけるだろう。うまく削れそうなら、刺さってから逃げられないようにかえしもつけよう。
俺は、枝を探しに、森の中へ入っていった。
ついでに火をつけられた時の為に、乾いていそうな枝や、毛羽立っているような枝を拾った。火口にするのにどれがいいのか良く分からないから、まぁ手当たり次第試すしかない。
することもないし、ちょうどいい。
両手で抱えるようにして持って帰ると、拠点のかまくらが見えてきた。でもなんだかおかしい。
そっと枝を置いて近づいてみると、狐がかまくらを食べていた。食べていた。
なんてこった!
俺はナイフをそっと出して、声をかけた。
これが熊ならそばにもいかないが、狐だからな。
「おい。お稲荷さまの使いか?」
狐は、さも言葉が分かっているかのようにうなずいた。
ま、まじか、、、。
俺はナイフをしまった。
「腹、へってんのか? それは俺の家になる予定のやつだから、ちゃんとしたのを出す。だから、それは食べないでくれ。」
それを聞くと狐は、とてとてと寄ってきた。
狐も可愛いもんだ。
俺は大量のおにぎりをそこに出した後、自分のかまくらに向けて、おにぎり魔法を放った。
修理しとかないとな。
☆
狐のおかげで、なんとなく門番ができた気分になった。
俺は枝をかまくらのそばまで持ってきて、ナイフで削っていった。銛作りだ。
2、3本作っていると、だんだんとコツがつかめてきたが、辺りが暗くなってきた。川の水を飲んでおにぎりを食べ、指で歯を磨いて、かまくらの中で寝ることにした。
思った通り、かまくらの中はあったかい。
それでも下が少し冷たかったので、1度かまくらを出てから、おにぎりの布団の上にもう1枚、おにぎり布団を出した。できたてはあったかいし、2枚になったので冷気も上がってきにくいだろう。
さっきまでおにぎりを食べていた狐は、まだまだ山盛りになっているおにぎりのそばで丸くなっていた。
ぽってりと夜が更けていった。
とりあえず2週間はそれなりに生きていけそうだ。
この時の俺は、朝起きて唖然とすることになるとは知る由もなく。それなりにぐっすりと眠りに落ちていった。