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11話、神在月(10月)

☆主人公の父視点


今年も10月がやってきた。神様をおもてなしする季節だ。

神在月に、日本全国の八百万(やおろず)の神が、出雲大社に集まって会議をする。

神様たちは、私たちのようなお世話係と、普通は飯南町の琴引山(ことびきさん)で待ち合わせる。

が、八百万の神が一同に会すと大変なので、おのおの好きなところで落ち合って出雲大社に向かう。

八百万といっても本当に八百万いるわけでもなく、神様がみんな絶対に出雲大社に集まるかというと、そういうわけでもない。神様は結構自由に生きておられる。

神様のモチベーションとしては、旧友に会えることと、大手を振って人間の暮らしを満喫できるということから、出雲大社に行こうかな、みたいな感じだそうだ。


人間で言うと正月の集まりみたいなものだろう。



私がお世話するのは、歌の神様のミューズ様だ。歌の神様にも実際は色々とあるらしいが、人間の区分ではうまく説明できない。考えてみたら当たり前で、ロックとバラードとラップが同じ括りでは違和感もある。

考えても分からないことは、考えなくていい。



ミューズ様とは琴引山で待ち合わせをしている。ここは出雲風土記ではオオクニヌシ神が神宝の琴を納めた山とされている。音楽に縁のある山なので、先祖代々この場所だ。

ミューズ様は普段は外国にいらっしゃるので、日本の自然や文化をいつも楽しみにされている。


琴引山の山頂で待っていると、ミューズ様が空からふんわりと降りてきた。10月の山頂は昼間といえども結構寒いのだが、そんなことは気にもならない様子で、透けて見えるほどの薄い絹のワンピースを着ている。色は虹色とでも言うのだろうか。光を分光した時の色を限りなく透明にしたような色だ。分かりやすく言えばCDの裏面に光が反射したような、見る向きによって一瞬で色を変えるあの感じだ。優しい風に吹かれているのか、ワンピースはミューズ様の体にくっついたり離れたりしながらも、そこから想像させるスタイルは、胸は大きく腰は細くお尻は大きく足は細く、という完璧なプロポーションだ。

腰まであろうかという長い髪は白に近い金髪で、ワンピースと同じように風をはらんで揺れている。



いつも出会った瞬間は見とれてしまう。

ミューズ様は音もなく地面に降り立たれた。

私は、気持ちを取り直して挨拶をした。

「ご無沙汰しております、ミューズ様。ようこそいらっしゃいました。」


ミューズ様は優しく微笑むと、

「ごきげんよう。今年もよろしくね。出雲まではのんびりと自然の声を聞きながら行きたいわ。」


「是非もなく。」

私はそういうと、今日の夜営場所へ向けて歩いていく。


ゆっくりと自然を味わいながらでも、徒歩で1週間もかからずに出雲につける。


歩いていると、ミューズ様が言った。

「魔法で道をならしながら歩いているの? そういう、もてなしも久しぶりだわ。」

「えぇ、恥ずかしながらこの歳になって魔法が進化したんですよ。」

「あら、めずらしいわね。最近では科学とやらの発達によって、強い魔法もあまり授けられなくなったのに。」

「そうだったんですか?」

「そうよ。必要な分だけの魔法を授ければ十分だもの。でもまぁ快適なのはいいことだわ。ありがとう。」


その後は、会話らしい会話はない。

ミューズ様は、自然の音を楽しむように、先導している私の後ろをのんびりした様子でついてきている。これでも私は道をならしながら、精一杯のスピードで歩いているのだが、やはり神様は異次元だ。


私が先導する理由は、道路ができたりすることによって、自然の道がなくなることもあるので、できるだけミューズ様の意向に沿うように案内するためだ。




1日目の夜営場所についた。川沿いで、こけむした大きな岩がごろごろとあり、とても神秘的な場所だ。

私は自分の分の夜食を準備する、ミューズ様は食べ物を召し上がらない。歩いているときに、時々、木になっている果実を戯れに召し上がる程度で十分だそうだ。

私は息子のおにぎりをいくつか持ち込んでいた。1週間分の食事はさすがにリュックには入らないので、何日か後からは、魚を捕まえたり、猪やリスを捕まえたりして食事に変える。水は川が基本だ。なるべく神様に迷惑をかけないように、自分の食事を道中で確保していく。

狩りの苦手な者は、島根にいくつもある神社に寄ると、当たり前のように食事を分けてもらえるので、最近は道中に神社を組み込む者も多い。

派手な暮らしの好きな神様は、自動車に乗ったり、案内人の家に泊まったり、外食をしたりする。神様によって望まれる形は違うが、島根県民は皆、神様の意向を第一に考えて行動をする。


私が食事をしていると、遠くで川を眺めていたミューズ様が、こちらにやってきて言った。

「それはなにかしら? 随分めずらしいものを食べているわね。ひとついただけるかしら。」


「もちろんです。私の息子が作ったものです。」

と私がひとつ差し出すと、ミューズ様はそれを食べて目を見開いた。でもそれは一瞬ことで、なにか考える様子を見せながらも、また遠くの岩へと戻っていってしまわれた。



その後は、毎年と同じように出雲大社へと向かわれた。自然の道がはっきりと途切れる場所まで案内すると、ミューズ様は、

「ここまででいいわ。それではごきげんよう。」

とふうわりと浮かんで、空に舞って行ってしまわれた。


今年も無事に案内できたことに、私は深く息を吐き、胸を撫で下ろした。




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