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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
98/155

その98(軍隊殺し3)

 

 私は消し飛んだ後部扉から馬車の外に出ると、馬車がどうなったのか振り返っていた。


 戦闘馬車は装甲が施されているので頑丈で重く、しかも戦闘時は「戦闘空間」という結界魔法を展開しているのだが、それでも軍隊殺しに激突された衝撃は凄まじく、横倒しになった車体はひしゃげ、扉は弾け飛び、車輪も壊れていた。


「お嬢様ご無事のようで安心しました」


 私は声がした方を見るとそこには汚れた顔をしていたが、元気そうなエミーリアが居た。


「エミーリアは無事みたいね」

「はい、幸運でした。折り重なった兵士達をどかしていたのですが、お嬢様のお姿が見えず焦っておりました」


 すると急に体が軽くなったのは、エミーリアがどかしてくれていたのだろうか?


「他の皆は?」


 私がそう尋ねると、エミーリアは少し馬車から離れたところで地面に座り込んで居る男達を指し示した。


「あそこに居ります」


 エミーリアが指さした先には馬車から助け出された兵士達が茫然とした表情で座り込んでいたが、怪我をしている者は居ないようだ。


 どうやら戦闘馬車の頑丈な車体が彼らの命を守ってくれたようだ。


 これが普通の馬車だったら、かなりの死傷者を出していただろう。


 私はお父様が戦闘馬車を用意してくれたことに心の中で感謝していた。


 だが、「楽々掘削」の爆発が効かなかった事や馬車が駄目になってしまった事で、討伐が困難になった事に気が付いた。


「もう、アレを倒す手立てが無いわね」


 私がガックリと項垂れると、後ろからアビーの声が聞えてきた。


「まだ手はありますよ。クレメンタイン様」


 振り返ると、そこには先程まで姿が見えなかった三頭の龍の3人が揃っていた。


「手とは何ですか?」


 私が尋ねると、アビーが指の間に挟んだ3本の「楽々掘削」を振っていた。


 どうやら、地雷原から未使用の物を掘り出してきてくれたようだ。


 そうだ、1本で効果が無かったのなら3本纏めればよいのだ。


 そうすれば威力は3倍だ。


 だが、問題はどうやって軍隊殺しの腹で確実に爆発させるかだ。


 地雷原を作ったのは、確実に踏まれるとは限らなかったからだ。


 纏めてしまうと1ヶ所にしか埋められず、アレが確実に踏むとは限らないのだ。


 すると私の考えを読んだのか、いつの間にか傍までやって来ていたエイベルが私に提案してきた。


「お嬢、私がそれを持って奴の腹に投げてきますよ」


 一瞬、エイベルが何を言っているのか分からず、ぽかんとその顔をじっと見つめていた。


 そしてようやく理解が追いつくと、「楽々掘削」を手榴弾として使うと言っているのだとようやく気が付いた。


 だが、投げるとなるとかなり接近する必要があるが、そうなるとあの沢山ある足が危険なのだ。


 弾かれただけで大怪我をするだろう。


「アレに近づく前に沢山ある足で弾き飛ばされるわよ」

「ですが、他に良い方法がありますか?」


 確かに他に方法は無さそうだが、危険も高いのだ。


「駄目よ、かなり危険だわ。それに貴方にはお母様が居るでしょう。万一があった場合、悲しませてしまうわ」

「ですが、都合よくあいつに「楽々掘削」を踏ませる事が出来るなんて考えていないですよね?」


 確かにそうなのだが、他に方法はないの? 例えば無線で起爆させるとか、起爆用の導線を付けて離れた場所から起爆させるとか。


 そう考えて首を横に振った。そんな事をやっている時間も道具も無いのだ。


 それでも片道切符のような作戦に、ゴーサインを出したくは無かった。


「それでもそんな作戦は許可できません」


 私がきっぱりとダメ出しをすると、今度はマレットが口を開いた。


「お嬢様、バタールには妻も娘もいます。あいつ等の事だから最後まで町を離れないでしょう。私は妻や娘を失い1人だけ生き残りたくは無いのです。エイベルに命じられないというのなら、私がやりましょう」

「え、ちょっと、何を言っているの? 貴方には待っている人達が居るのよ」

「だからです。妻や娘には、平和に暮らして欲しいのです。そのためなら、私は何でもしますよ。それが軍人というものです」


 私はマレットの屍に縋り泣きじゃくる妻と娘の姿を思い浮かべて、首を横に振っていた。


「駄目よ。貴方がお父様から受けている命令は私の護衛のはずです。それは命令外です」

「それでは、悲しむ家族が居ない私がやるべきですね」


 そう言ったのはエミーリアだった。


 確かにエミーリアは、モス家の騒動で一族がみな粛正されていて血縁は居なかった。


 だが、私が7歳の時専属メイドとなり、それからは常に傍に控えていて、王都を脱出してからは苦楽を共にしてきた冒険者仲間でもあるのだ。


 そんな彼女が私の目の前から居なくなると思うと、とても平気ではいられなかった。


「駄目よ。私が悲しむわ」


 私は大まじめでそう言ったのだが、エミーリアはとても嬉しそうな顔で微笑んでいた。


「お嬢様、私はその言葉だけで十分でございます。それに他に良い方法が無いのなら誰かがやらなければならないのです」


 私は自分の無力さが歯がゆかった。


 既にここに居る皆には、誰かが決死隊になってアレに突撃するという案は確定になっているようだ。


 私から代案の提示が無ければ、駄目だと言っても誰かが実行してしまうだろう。


 そして私は、家族が骸に縋りついて泣いている姿を見たくは無いのだ。


 他に方法が無い以上、エミーリアに頼むしかなかった。


 私はエミーリアを抱きしめると涙を流していた。


 だが、アレにどうやって追いつくかだ。


 既に軍隊殺しはバタールの町に向けて進んでいて、私達は置いてきぼりにされていたのだ。


 私とエミーリアが見つめ合っていると、後ろからリッピンコットの声が聞えてきた。


「ブレスコットのお姫様。それじゃ、馬車を直してとっとと奴を追いかけましょう」


 私はどうするのだろうと思っていると、壊れた馬車の車輪を氷で作り直したのだ。


 横倒しだった馬車は、マレット達が力を合わせて元に戻すと馬車の壊れた部分もリッピンコットが氷で修復してくれた。


 修復が済んだ馬車はどう見ても氷の馬車になっていた。


 そして私は、ツォップ洞窟で使った「瞬間氷結」の魔法で滑った時の事を思いだしていたのだ。


「これって、滑ったりしないでしょうか?」


 私がそう言うと、目の前のエミーリアはツォップ洞窟での事を思い出したのだろうニヤリと微笑んだので、私は恥ずかしくて頬を赤らめてしまった。


 リッピンコットはそんな私達の行動の意味が分からないはずだが、にっこり微笑むと、とても嬉しそうな顔でそれを否定していた。


「大丈夫ですよ。滑り止めをちゃんと作ってありますからね」


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