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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
94/155

その94(決意)

 

「お父様、庭にいた負傷された方達はどうなされたのですか?」


 私がそう尋ねると、それまで和やかな雰囲気だった部屋の空気が一瞬で凍り付いた。


 ああ、やっぱり負けてしまったのですね。


 まるでツンドラのような冷ややかな空気の中、最初に口を開いたのは参謀長のビル・ランドールだった。


「クレメンタイン様、実は、バトゥーラ要塞が落ちまして、庭の負傷者はその生き残りです」


 バトゥーラ要塞というと、ルヴァン大森林の縁にある対帝国用に建設した要塞の事ですよね。


 という事は、辺境伯領も帝国軍に攻められているという事で、これは一大事ではないのでしょうか。


 何故領軍の重鎮がここに居るのでしょう?


「お父様、何故一刻も早く侵攻してきた帝国軍を打ち破らないのですか?」

「いや、帝国軍じゃなさそうなんだよ・・・」


 お父様がそう言って口を閉じてしまった。なんだが、言いにくそうだ。


「お館様は、常にお嬢様にはかっこいいところを見せたいんです。それが出来ないので不貞腐れているのですよ」

「おい、ビル、なんてことを言うんだ」


 お父様がそう言って不機嫌そうな顔をしているが、そんなお父様を可愛いと思ってしまった。


 私が可愛らしく微笑むと直ぐにお父様の機嫌は直っていた。


 それにしても帝国以外に要塞を落とせる存在なんているのでしょうか?


「クレメンタイン様、ここから西の空をご覧下さい」


 そう言われて窓の傍まで行くと、そこで窓の外を見るとそこには黒い靄のようなものが浮かんでいた。


「あれは何ですか?」

「あれがバトゥーラ要塞に到達すると、自分の手も見えないほどの闇に包まれたそうです。兵の中には暗視用のマジック・アイテムを持っていた者も居たのですが、全く見えなかったそうです。そして何もできない中、兵士達が次々と倒れたのです。生き残りの話では、急に羽音が聞えてきたと思ったら、チクリと針のような物で刺されたと言っています。治癒術師達が診ると体の中から毒が検出されたそうです。その黒い靄がこちらに向かって来ているのです。それから、帝国軍は我が軍があれに対応している隙に移動したようです」


 うん? 真っ暗で、羽音で、毒?


 何だが、前にどこかで聞いた事があるような、無いような?


 私は、うんうん唸りながら必死に考えていると、ようやく頭の中に天啓が降りてきた。


 そうだ、マルコムがツォップ洞窟の中でそんな事を言っていたのだ。


 すると、その時の光景も同時に脳裏に蘇ってきた。


 そう私達はあの時、偽のガイドブックに誘導されてグラインダーと呼ばれる魔物に遭遇して、魔法も斬撃も打撃も全く効かない相手で危うく殺されそうになったのだ。


 何も出来ない中、逃げ込んだ落とし穴の底には帝国兵の骸があり、そしてキャロルは辺境伯領に何か仕掛けたと仄めかしていた。


 あれ? もしかしたら、グラインダーを手懐けて辺境伯領を襲わせている?


 それならあの黒い靄のような物がこちらに向かってやってくることにも、連携したような帝国軍の動きも頷けた。


 幼体でもあれだけの強さなのだ。


 その成体となればその強さは推して知るべしだ。


 アレがバタールの町にやってきたら、きっとお父様は領軍を率いて立ち向かい、なすすべも無くやられてしまうかもしれない。


 そうしたらお母様や町の皆も危険に晒されるのだ。


 出来ればアレには関わりたくない。


 だけど、私はアレの幼体を直接見ているし、マルコムから弱点も聞いているのだ。


 そして有効と思われる策もそのための道具も持っているのだ。


 これもゲーム補正だというの? 私をどうしても亡き者にするという強い強制力が働いているとしか思えなかった。


 私は両手で顔を覆った。


 やっとの思いでここまで逃げてきたというのに、どうやら見逃してはくれないようだ。


 私はしんと静まり返った居間で皆の顔を見回してから、意を決して口を開いた。


「お父様、私が参りますわ」


 だが、私の決意が伝わらなかったようで、皆が頭の上に疑問符を付けたような顔をしていた。


「あの黒い靄を発生させているのは軍隊殺しという魔物です」

「軍隊殺しとは何だい?」

「強力な魔物です。魔法も打撃も効かない恐ろしい相手ですわ」


 私がそう言うとマルコムから教えて貰った話を皆に伝えた。


 それを聞いたお父様達は皆顔を顰めていた。


 それはそうだろう。討伐不可能だと言ったのだから。


 元々領軍は対人戦闘は得意でも、対魔物戦闘は不得意なのだ。


 領軍が相手をしようとしても、いたずらに被害者が増えるだけなのを皆理解しているのだ。


「お父様、私に任せてくださいませ」

「駄目だ」

「なりません」


 お父様とお母様から、息ぴったりのダメ出しが出てしまいました。


「何故ですか?」

「愛娘を危険に晒すわけにはいかない」

「そうです、やっと手元に戻って来たのです。危険な場所になんか行かせられません」


 まあ、そう言われますよね。


 だけど、軍隊殺しがバタールに来てしまったら虐殺が始まってしまうのだ。


「それなら私の護衛に三頭の龍を雇ってくださいませ」

「他の者にやらせたらいいだろう?」

「そうです。誰か他の者がやれば良いのです」


 私が討伐に行くのはどうしても嫌らしい。


 だが、他に適当な人材は居ないのだ。


 そこで先程からさりげなく出てくる「次期当主」という言葉を利用させてもらうことにした。


「お父様、お母様、何を言っているのですか? これこそノブレス・オブリージュですわ。お父様は私が万が一失敗した時のために、バタールの民衆を避難させる準備をお願いします」

「うっ・・・」

「・・・」


 明らかに自分達の思いを見透かされたようで、口籠る2人に笑いながら話しかけたのは参謀長ビル・ランドールだった。


「お館様、奥方様、お嬢様の言の方が正しいようです。それにお嬢様には何か腹案がおありの様です。ここはお任せしてみては如何でしょうか。それに次期当主にはそれなりの実績を示す必要もあるでしょう」


 そう言って何故かお父様に向けて何やらニヤリを笑うと、それを受けたお父様も一瞬笑ったような気がした。


「分かった。だが、マレット達もクーの護衛に付ける。これだけは譲れないぞ」

「分かりましたわ。お母様もそれでよろしいですわね?」


 私がそう尋ねると、お母様は先程よりもより一層力を込めて抱き締めてきた。


「必ず戻ってくるのですよ。少しでも危険があったら直ぐに逃げるのですよ」

「はい、分かっております。お母様を悲しませることはしませんわ」


 私はお母様に抱き締められながら、キャロルの有能さを呪っていた。


 ゲームの中でのキャロルは本当に頼りになる存在で、ゲームを攻略するうえでちょっとした助言はとても助かったのだ。


 そんな有能な人材が敵に回ると、とんでもなく厄介な存在になるようだ。


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