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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
89/155

その89(ギャレー狭間での会戦)

少し長いです。

 

 ギャレー狭間は、東のタルボ山脈と西のタバチュール山脈に挟まれた隘路で、そこを王国の北西部と王都とを結ぶ重要な道路であるルスィコット街道が通っていた。


 そしてここは王都ルフナを防衛する要衝でもあった。


 ラングトンという男に率いられた反乱軍は、その街道を王都に向けて進軍しており、ここが反乱軍を止める最後の地点なのだ。


 ここで反乱軍を待ち受ける王国軍の配置は、正面に王国騎士団が陣取り、その後ろには現王が率いる本隊と他の貴族の軍が控えていた。


 そして稜線に沿って右翼にギムソン公爵軍、その上にアレンビー侯爵軍が陣を張っている。


 同じように左翼にはロンズデール侯爵軍とベイン伯爵軍、更にその上にはラッカム伯爵軍レドモント子爵軍が控えていた。


 この配置は敵軍が正面突破を試みた場合、両翼が敵の側面を突き包囲攻撃をするためだ。


 イライアスは現王と一緒に本隊で控えていて、反乱軍が到着するまでの何もすることが無い暇な時間にぼんやりと、ロナガンと会った後の事を思い返していた。


 あの後、王城に戻る途中で広場に差し掛かると、突然リリーホワイト嬢が演壇に上がり、ロナガンが行った演説の余韻に浸っていた民衆に向けて、ロナガンとは真逆の演説を始めたのだ。


 それを聞いたイライアスは、民衆から罵声やモノを投げられるのではないかと心配したが、驚いた事に彼女はロナガンによって扇動された民衆を見事説得してしまったのだ。


 このおかげで王都の治安維持のために兵を割かなくても良くなり、現王の機嫌は随分良くなった。


 ギムソン公爵は、キャナダイン師の予言にあった神に愛された女性ではないかと叫んでいた程だ。


 そのおかげで、志願兵も集まり王国軍はそれなりの規模に膨れ上がっていた。


 だが、一部の貴族達は、それでも敵側にブレスコットが居る事に不安を感じているようだ。


 そして王城の離れに令嬢を確保しているとはいえ、アレンビー、ラッカム、レドモントの3家が、素直に兵を出して来た事は意外だった。


 派兵を渋ると思っていたので、最悪令嬢の命を盾に強引に派兵させるつもりだったのだ。


 イライアスがぼんやり見つめる先には、小さな黒い点のようなものが見えていた。


 やがてその点は馬の形になり、その上に人が乗っている姿がみえてきた。


 どうやら偵察に出していた騎馬が戻ってきたようだ。


 偵察兵の報告によると、反乱軍は後1時間程でこちらにやって来るらしい。


 これで待ち時間は終わりのようだ。


 目の前にやって来た軍勢は、反乱軍などではなくアンシャンテ帝国軍だった。


 帝国軍もこちらを視認したようで、こちらの射程距離外で止まると戦闘隊形に変更し始めていた。


 敵は重装歩兵を前面に出して力押ししてくる陣形だ。そしてその両側を第二王子派の各貴族軍が固めていた。


 敵軍の戦闘隊形が整ったところで、敵側から1騎が駆けて来ると丁度両軍の中間地点で止まり、こちらに向かって大声で口上を読み上げていた。


「正義は我にある、大人しく降伏せよ。1時間の猶予をやる。それまでに白旗を掲げるのだ。降伏の意思表示が無い場合は、このまま力押しする」


 そう言うと、少しこちらの反応を見ていたが、何も動きが無い事を確かめると、踵を返してそのまま敵陣の中に消えて行った。


 イライアスが一瞬現王の顔を見たが、その顔には厳しい表情で敵軍を睨みつけていた。


 当然だが降伏する意思は無いらしい。


 やがて1時間の猶予時間が過ぎると、帝国軍が前進を開始した。


 訓練が行き届いた兵士の動きは一糸乱れる事も無く整っており、これが観閲式であれば完璧な行進だっただろう。


 だが、これは実戦であり、当然敵軍が近づき矢と魔法弾の射程距離に入ると各軍の弓兵と魔法師から攻撃が開始された。


 一斉に放たれた矢は澄み渡った大空に向けて打ち出され、最高点に到達すると今度は重力に負けて降下を始めると加速度を付けて敵陣に向けて雨のように降り注いだ。


 だがその矢は敵の魔法師が展開した「戦闘空間」という空間魔法に阻まれていた。


 この「戦闘空間」という魔法はアビー・グウィネス・キャナダインが得意とする空間魔法の一つで、「安眠空間」の半分程しか強度は無いが、その代わり空間内から外側に向けて攻撃を行うことが出来るのだ。


 すると今度は敵陣から火炎弾が味方陣地に向けて放たれた。


 ほぼ真っ直ぐ飛んできた火炎弾が味方の陣地に着弾すると、味方の魔法師が展開した「戦闘空間」の防御結界に沿って横に燃え広がった。


 当然、結界の中にいる兵士に被害は無かった。


 問題は、敵の魔法弾が尽きる前に「戦闘空間」を展開する魔法師の魔力が持つかどうかだ。


 それは敵にも言えることで、先程からこちら側の攻撃も敵の戦闘空間に阻まれているのだ。


 やがて味方の陣地から兵士の悲鳴が聞こえてきた。


 どうやら魔法師の魔力が切れたらしい。


 被害を受けている領軍からは支援要請が来ているが、こちらにも応援を出せるほど余裕は無いのだ。


 自力で何とかしてもらうしかなかった。


 これは攻撃前準備射撃のような物で、ある程度敵に打撃を与えると、今度は歩兵による突撃が行われるのだ。


 双方の陣地に矢と魔法弾による被害が発生しだすと、突撃準備が整った重装歩兵が前進を開始していた。


 敵の陣形がそのまま前進してくると、騎士団の正面に向けて激突してきた。


 その両側でもギムソン公爵軍とロンズデール侯爵、ベイン伯爵軍がそれぞれ第二王子派の軍勢と激突していた。


 戦いは当初相応の力が拮抗していて、一進一退を繰り返していた。


 だが、時間の経過と共に自力に勝る帝国軍が戦いを有利に進めていた。


 ロンズデールは奮戦していたが、如何せん敵正面が重厚過ぎて徐々に押されていた。


 そして信じられない事に敵が正面に居ないアレンビー、ラッカム、レドモントの軍勢が全く動かないのだ。


 その位置から迂回すれば、敵の側面を攻撃できるはずなのにだ。


 イライアスが信じられない思いでその光景を見つめていると、王都からやって来たという連絡兵が報告してきた。


「ほ、報告します。王城の離れが何者かに襲撃され、アレンビー、ラッカム、レドモントの令嬢が連れ去られました」

「なんだと」


 ああ、何という事だ。


 王都の民衆が反乱する危険が減ったので、警備兵を殆ど配置していなかったのだ。


 その隙を突かれたらしい。まんまとしてやられたのだ。


 やがて騎士団が、その圧迫に耐え切れず徐々に後退すると、右翼と左翼の側面ががら空きになった。


 イライアスは敵に押され混乱していく兵士の姿を見ていた。


 兵の実戦経験の無さがこんな形で現れる事に今更ながら驚いていた。


 そして士気が低下した兵達を奮い立たせるのが役割の指揮官が、その責任を果たしていないのだ。


 本来であれば兵達を督戦し、敵に向かわせるべきなのに自分が何をしてよいのか理解していない指揮官が多すぎた。


 そのため一度混乱した部隊は、回復することができず崩壊していく。


 実戦経験が豊富な辺境伯軍には敵わないと誰かが言っていたが、それがこの事なのかと改めで思い知ったのだが、今は時と場所が最悪だった。


 これが辺境伯軍ならば、たとえどれだけ劣勢であったとしても、混乱することも無く最後の一人まで戦うのだろう。


 今は櫛の歯がこぼれるように、混乱した兵達が次々と戦線を離脱していた。


 それを見た他の部隊も浮足立ってきている。

 当然敵もこの隙を見逃してはくれなかった。


 全軍突撃の合図なのだろう鑼を鳴らす音が鳴り響くと、敵兵が一斉に歓声を上げていた。


 イライアスは忌々しそうに稜線の上で全く動こうとしないアレンビー、ラッカムそしてレドモントの陣を見ていた。


 今あれが裏切って、こちらに攻め込んでいたら我が軍は全滅だろう。


 どうしてこうなったのだ?


 何処でボタンが掛け違ったのだろう?


 もはや考えることしかできなくなったイライアスは、今までの行動を反芻していた。


 そして最大の誤算が、あのクレメンタインへの婚約破棄だったのだろうかと考えていた。


 俺はあの女を甘く見すぎていたのか?


 そこに連絡兵が悲壮な表情でやって来た。


「ほ、報告します。敵に増援がやってきました」

「増援だと?」

「はい、軍旗から、ブレスコット辺境伯軍だと思われます」


 それを聞いた周囲の兵は皆絶望の声を漏らしていた。


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