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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
87/155

その87(扇動者1)

 

 王城内の第一王子の部屋に戻って来たイライアスは、怒りのあまり傍にあるごみ箱を蹴飛ばした。


 ゴミ箱は放物線を描いて飛び、そのまま壁に当たると傍の床にゴミをまき散らしていた。


 部屋の中に居た護衛はそれを見て見ぬふりを、世話係のメイド達は眉一つ動かさず、機械的な動きでゴミの片づけを始めていた。


 イライアスの怒りは、少し前まで現王の執務室で行われた会談が原因だった。


 そこで父親で現王のオーブリーと宰相のギムソン公爵それに近衛師団第一隊長のベイン伯爵の3人から、クレメンタイン嬢との婚約破棄が原因で、ブレスコット辺境伯と第二王子派が敵側に付いてしまった事をちくちくと叱責されていたのだ。


「元々は父上がメイドに手を出した事が原因だろう。なんで俺が責められなければならないんだ」


 そして現王が二言目には、クレメンタイン嬢と言ってくることにも辟易していた。


 まるで俺があの残虐女に尻に敷かれていたら、万事丸く収まっていたと言いたげなあの態度に腹が立っていたのだ。


「ロナガンは一体何をしているのだ? あいつはスクラップ&ビルドとか言ってこれは計算通りだと言っていたのに、このままではこの国が崩壊してしまうじゃないか。まさかそれも計画通りだなんて言うんじゃないだろうな。俺は平民の男なんぞ兄だとは認めんぞ」


 イライアスが癇癪を爆発されていると、騎士団長令息のジャイルズがやって来た。


「大変です。広場で吟遊詩人が、現王の庶子が挙兵した事を国民に語り聞かせているそうです」

「何だと、今すぐ止めさせろ。いや、待て。直接行って何を言いふらしているのか確かめてみよう。ジャイルズお前も来い」

「はい、あ、それとリリーホワイト嬢も、今回の事が心配だったようで近くまで来ております」

「おお、そうか。フィービーに会うのも久しぶりだな」


 イライアスは上機嫌になり、無意識のうちにリリーホワイト嬢のファーストネームを呼んでいた。


 そしてそれに対してジャイルズが僅かに顔を顰めていたが、イライアスは気が付いていなかった。


 部屋を出て王族の区画を示す絨毯の上を走っていると、近衛師団の兵士が王族エリアを走る俺に微かに顔を顰めるのが見えた。


 だが、今はそんな事に気にかけている暇は何のだ。


 周囲の視線を無視して走り、王族エリアを抜け、行政エリアを走り、キングス・バレイの出口に到着した。


 そして外を見るとそこで見覚えのある桃色の髪が目に飛び込んできた。


「やあ、リリーホワイト嬢。久しぶりだね」

「ああ、イライアス。心配しましたわ」



 イライアスはジャイルズとリリーホワイト嬢を連れて、吟遊詩人が民衆を扇動しているという広場に急いでいた。


 広場に近づくと群衆のどよめきが聞えてきた。


 広場一杯に集まった群衆は、演壇の上で語っている吟遊詩人の言葉を静かに傾聴しているようだったが、話が現王に捨てられた王子が王から放たれた刺客を返り討ちにする下りになると歓声を上げていた。


 その語り口は巧妙で、学の無い群衆は簡単に信じてしまいそうだ。


 そして、大預言者であるキャナダイン師が予言したとおり、第一子を蔑ろにした結果、王国内の村々が魔物に襲撃され無人化している事や、盗賊の増加による物流への悪影響で食料価格が上がっている事等、庶民の暮らしが脅かされている事を語り、これら全てが現王の不誠実な行動の結果であり、この世界の歪みを正すためラングトン様が兵を挙げたのだと語っていた。


 そして民衆に対しても、この動きに呼応して立ち上がろうと言っていた。


 だが、それを聞いた群衆は突然の事にどう反応したらいいのか分からず戸惑っているようだった。


 すると吟遊詩人は更に爆弾発言をしたのだ。


「この件を知った英雄ダグラス・ガイ・ブレスコットはいち早く支持を表明し、挙兵されたラングトン軍に加わっております」


 それを聞いた群衆は、正義は反乱軍側にありと理解したのか、群衆からは大歓声があがり、皆「ラングトン」とシュプレヒコールを上げていた。


 吟遊詩人はその歓声に満足そうに手を振ると演説を終えたようだ。


 演説を途中から聞いていたイライアスは、ブレスコットの影響力がこれほど大きかったのかと今更ながら思い知らされていた。


 吟遊詩人はずっと後ろを向いていたので顔を確かめられなかったが、演説を終え、演壇を降りる時にこちらを振り返ったので、その顔を確かめることが出来た。


 そしてその顔を見た時、イライアスは思わず叫んでいたのだ。


「ロナガン」

「キャロル」


 イライアスが叫んだのと同時にリリーホワイト嬢も叫んでいた。

 そして2人して顔を見つめ合っていた。


「リリーホワイト嬢、あれは俺の懐刀のロナガンで、男だ」

「いいえ、イライアス。彼女は学園の寮で一緒のキャロルよ」


「どっちなんだ?」

「え、どっちなの?」


 そうして混乱した2人が言いあっていると、後ろからジャイルズが声を掛けてきた。


「二人とも、いい加減にしないとあいつが逃げてしまうよ」


 そう言われてロナガンの方を見ると、既に広場から出て路地に入ろうとしていた。


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