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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
86/155

その86(狼狽する王国)

本話から暫く主人公は出てきません。

 

 その日、現王の落胤という男がビンガム男爵領で挙兵したというニュースが王国中に齎された。


 その男ラングトンは、現王オーブリー・シリル・バーボネラがメイドに産ませた子供だと主張していて、本来であれば長子であったはずが、現王が認知せず市井に放逐したと主張したのだ。


 貴族の間では、お家騒動防止のため貴族位は長子が継ぐことが慣例になっており、それを王自らが破った事が広く貴族社会に衝撃を与えていた。


 この行為に最も反発したのが、国教の守護者であるオールストン大司教だった。


 オールストン大司教は、高名な大預言者キャナダイン師が以前この国を訪れた時に予言した「最初に生まれた御子を王太子にしなければ国乱れ民は塗炭の苦しみを味わう」いうお告げを盾に取り、現王を批判してきたのだ。


 対応を迫られた現王は事情を知る2人の男を呼びつけて、今後の対応を検討することにした。


 そして、キングス・バレイの会議室では、現王が王宮付きメイドを孕ませた事実を知っている宰相のギムソン公爵とベイン伯爵が現王と額を寄せ合っていた。


「あれは本物だと思うか?」

「おい、ベイン。お前が子供を里子に出したんだよな?」


 2人に質問されたベイン伯爵は、当時の事を思い返していた。


 あの子は、我が領内の子供のいない夫婦に養育費と一緒に渡してそのままだったことを思い出していた。


 そして、その後一度だけ息子の顔が見たいと懇願してきた母親に、根負けして居場所を教えていたことも思い出していた。


「あー、ちょっとまずいかもしれない」

「おいベイン。何だ、その返事は?」


 ギムソン公爵に文句を言われたが、ベインも自分に押し付けて後は知らないと言った感じの宰相にちょっとイラっとしていた。


「おい、俺のせいにするんじゃない。そもそもあの子は居なかったことにすると言い出したのはお前だろう。ギムソン」

「2人とも、言い争いはよせ。それよりも事実確認する方法は無いのか?」

「本物なら左胸に王冠のような痣があったはずです。それが確かめられたら分かりますね」

「それをどうやって確かめるのだ?」


 現王の質問にどう答えるべきかとベイン伯爵は考えていた。


 ビンガム男爵領に居るというラングトンという男の胸を見る最も簡単で確実な方法は、女を差し向ける事だった。


 だが、挙兵した後で近寄ってくる人間は確実に警戒されるだろうし、それは女でも同じだろう。


 そもそも西の辺境にある男爵領で挙兵して、集められる兵力等たかが知れているのだ。


 一体どんな勝算があるというのだ?


 駄目だ、さっぱり分からん。


「そもそもビンガム男爵と言えば、政争に負けて爵位降格のうえ、辺境の地に追いやられた負け犬ではないですか。そんな男が後ろ盾をしたとして一体どれだけの兵力を集められると思うのです? 一気に討伐軍を送って平定してやればいいのです」


 すると現王が「ビンガム」という名を繰り返すと、何かに気が付いたようで、直ぐに質問してきた。


「そうだ、ブレスコットは何をしているのだ? こんな時はあいつが速やかに問題を解決してくれるのではないのか?」


 確かに普段ならそうだろう。


 だが、その頼りになる男の娘との婚約を破棄したでしょうと言う言葉が、喉元まで出かかっていた。


 だが、それは直ぐに現王も思い付いたようだ。


「ああ、そうだったな。そう言えば、クレメンタイン嬢の説得を試みているロンズデールからの報告が全く無いな。状況がどうなのか聞いてみるか。いや、事は急を要するな。直接クレメンタイン嬢と話してみよう。誰か、ロンズデールを呼んでくるのだ」


 現王が当番兵にロンズデールを呼ぶように声を上げると、それを聞いた当番兵が現王に一礼して部屋を出て行った。


「陛下、すると直接ブラム地区にある辺境伯館に赴かれるというのですか?」

「そうだ。その方が早いし、こちらの誠意も伝わるだろう」 


 やがて青い顔をしたロンズデールが現れると、現王が直接声を掛けた。


「おお、ロンズデールよく参った。早速だが、其方にはブラム地区にあるブレスコット辺境伯館まで案内を頼む」


 それを聞いたロンズデールはますます顔色を青くして、何やら口籠っていた。


「どうしたのだ、ロンズデール。事態は一刻を争うのだ。早く辺境伯の館まで案内せよ」

「陛下、その、ブレスコット辺境伯館には何用でございますか?」

「うん、其方も俺の子供だという男がビンガム男爵領で挙兵したのは知っているだろう? ブレスコットが娘の婚約破棄に怒って兵を動かさないようなのだ。直接、クレメンタイン嬢から言ってもらうしか方法が無いだろう?」

「そ、その・・・」


 ロンズデールの挙動がおかしい事に気が付いたギムソンが、ロンズデールを叱りつけた。


「おい騎士団長、王命だぞ。一体何を逡巡しているのだ?」


 最早これまでと思ったのか、突然、ロンズデールは頭を下げて詫びを口にしていた。


「も、申し訳ございません。クレメンタイン嬢は行方不明なのです」

「な、なんだと?」

「おい、ロンズデール、聞き捨てならんぞ。それはどういう意味だ?」


 すると真っ青になったロンズデールが、王命で辺境伯館に向かい捕縛に失敗した事、その後、第一王子からの助言で捜索を行っていたことを全て打ち明けていた。


「なんという事だ。お前達は俺の命令を履違えているぞ。これではブレスコットが怒るのも無理はないな」


 大きく肩を落として落胆する現王を、更に打ちのめす知らせがやってきた。


「ほ、報告します。第二王子派が、挙兵したというラングトンの陣営に付いたようです」

「なんだと」


 報告を受けた現王オーブリー・シリル・バーボネラは、驚愕のあまり手に持っていた杯を取り落とした。


 それはまさしく凶報だった。


 ビンガム男爵領はタバチュール山脈の西側なので、本来であればブレスコットが対処する案件なのだ。


 そのブレスコットが動かず、しかもビンガム男爵領から王都までの通り道は、スィングラー公爵領を含む殆どが第二王子派の領地なのだ。


 それが、全て敵側に回ったという事だ。恐らくブレスコットも寝返ったのだろう。


 これによって王都の守りは、目と鼻の先にあるギャレー狭間にある砦まで一気に後退したのだ。


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