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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
81/155

その81(ツォップ洞窟第4層5)

 

「お前ら、妹に一体何をした?」


 見上げるとそこには人の輪郭のようなものがあり、誰かがこちらを覗き込んでいるのが分かった。


 そしてその声が、先程自分達を騙した相手だということも直ぐに分かった。


 そしてその詐欺師は、こちらを見て激高しているようなのだ。


 今日初めて会った相手のしかも妹など、私が知りようも無いというのに。


「一体何を言っているの?」

「いいから答えろ。妹に何をしたんだ?」


 こいつは困っている相手から、平気で有り金を巻き上げるような男なのだ。


 きっと、また何かの言い掛かりをつけているに違いなのだ。


 だが、既に私から有り金を巻き上げているのに、これ以上何を欲しているのだろう? 


 そこで一つの答えに行きついたが、首を横に振ってその考えを払いのけた。


「あんたの妹なんか知らないわよ」

「大人しく答えろ。さもないとここで爆死することになるぞ」


 そう言って突き出してきた右手には「楽々掘削」が握られていた。


 まずい、あれを起動させて落とされたら3人もろとも爆死してしまう。


 何とか男を落ち着かせなければ。


 そして横にいるエミーリアは、直ぐにでも男に向けてナイフを投げられるような態勢を取っているので、交渉が決裂したら直ぐに動くのだろうと思われた。


 私はざわと咳払いをすると、男に向けて話しかけた。


「少し落ち着いてください。私には貴方が誰で、貴方の妹さんが誰なのかも分からないんですよ。一体何を答えたらいいというのです?」


 何とか相手を落ち着かせようと少しゆっくりそう発言してみると、男は「楽々掘削」を左手に持ち替え、右手で何かを探るような仕草をした後右手を突き出してきた。


「お前達が妹を殺したのは分かっているんだ。これが証拠だ」


 男の突き出した右手にはクリーム色のリボンがあった。


 あのリボンは確かスクリヴン伯爵館で捕まっていたマーリーンという女冒険者から貰ったものだ。


 そう言えばマーリーンには、ツォップ洞窟を拠点としている兄がいると言っていたわね。


 名前は、ええっと、確か・・・。


「それは・・・」

「やはり身に覚えがあるのだな。妹に何をしたか言え。同じ事をしてやる」


 へえ、妹さんと同じ事をしてくれるのか。私はその言葉に内心ニヤリとしていた。


「そう、私が貴方の妹さんにした事と同じ事を私にしてくれるのね?」

「ああ、そうだ。素直に吐きやがれ」

「その言葉、男に二言は無いわね?」

「くどいぞ、早く言え」


 これ以上引き延ばすのは拙そうだ。


 まあ、言質を取ったとはいっても相手は詐欺師なのだ。


 約束を守るとは限らないけどね。


「それじゃ言うけど、マーリーンさんからの緊急通報を受けて、スクリヴン伯爵の館に助けに行ったのです。自分が言った事ちゃんと守りなさいよね」

「デタラメを言うな」

「デタラメじゃないわ。そのリボンだって、マーリーンさんからツォップ洞窟にマルコム兄さんが居るから、そのリボンを見せれば助けてくれると言って渡してくれた物よ。あなたは妹が受けた恩をあだで返そうというの?」


 そう言って私は右手を突き出してやった。


 すると男は、驚いたように目を見開いていた。


「・・・お前、名前は?」

「Dランク冒険者のミズキよ」


 私は言いたい事が言えて満足していた。さて、この男はどう出るだろうか?


 最悪の場合は、エミーリアが動くことになるが、その場合でも相打ちになる可能性が高そうだけど。


 だが、男の顔からは怒りが消えているようだった。


「・・・信じられん」


 やっと聞こえるような小さな声だったが、私の耳には聞こえてきた。


「ちょっと、疑っているの? 冒険者プレートを調べれば分かる話よ」


 そう言ってみたが、マルコムの「信じられない」という言葉は、どうやら妹の命の恩人が目の前に居る事だったようだ。



 そしてマルコムに穴から助け出して貰ったのだ。


 まあ、助け出される時に憤慨していたエミーリアとエイベルとの間でひと悶着あったようだが、今は何とか休戦といった状態になっていた。


 そして今私達は、マルコムが安全だという第4層の狭い通路を歩いているのだ。


 あのガイドブックをマルコムに見せるとやはり偽物だったようで、タバチュール山脈の西側に出る通路は第3層にあるとのことだった。


 それにしてもゲーム補正のせいか、この世界の詐欺師達はみな巧妙で嫌になる。


 一応警戒しているというのに簡単に騙されてしまうのだ。


 マルコムは、私がマーリーンを助けた時の事を知りたがり、それがひと段落すると今度は如何に妹が可愛いかを延々と話し掛けてきた。


 あまりのしつこさにうんざりした私は、何とか話題を変えようと第4層に居た魔物について聞いてみる事にした。


 マルコムは、あのダンゴムシのような魔物にも詳しいようで色々教えてくれた。


 それによるとあれにはグラインダーという名前があり、目立つあの外殻は魔素を吸収するので魔法攻撃を無効化するらしい。


 道理で火炎放射の魔法が通用しないわけだ。


 そして甲冑のように固いから物理攻撃も殆ど効かないのだとか。


 倒すには柔らかい腹を攻撃するしかないのだが、丸まったらその弱点も無くなり、しかも回転して攻撃してくるので一方的に蹂躙されるだけなのだとか。


 冒険者もそれを知っているので功名狙いの馬鹿しか手を出さないそうだ。


 ええ、ええ、どうせ偽物のガイドブックを掴まされてそれと戦わされた馬鹿ですよ。


 だが、そんなグラインダーもあれは幼体で、成体になると土の中から地上に這い出てくるそうだ。


 成体は軍隊殺しと呼ばれており、自身の周囲に魔素を含んだ黒い霧を発生させてその中に隠れてしまうそうだ。


 そして霧の中では、外殻の中に飼っている霧蜂という蜂を使って獲物を捕らえるそうだ。


 霧蜂は黒霧の中では姿が見えず、気づいたら毒針を打ち込んでくるのでとても厄介なのだとか。


 この霧の中では人数は関係ないそうで昔軍隊が討伐しようとして返り討ちにあった事例があり、そう呼ばれているそうだ。


 第3層に上がってきた私達は、タバチュール山脈の反対側に抜ける1本道に差し掛かったところでマルコムとはお別れすることになった。


 私は妹さんが悲しむので真っ当な仕事をするように言い聞かせ、マルコムの所業をマーリーンには言わない事を約束していた。


誤字報告ありがとうございます。文章を加筆修正している内に消し忘れがあったようで、お手数をおかけしました。

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[気になる点] え? あっさり許して放置するの? 意味わかんない
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