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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
75/155

その75(ツォップ洞窟第1層2)

 

「ぎやぁぁぁぁ、Gよ、Gが居るわ」


 再び走り出した私を、今度はエミーリアが両手を広げて受け止めていた。


「ミズキ、落ち着いて。一体どうしたのです?」

「だからGが居るのよ」


 だが、エミーリアには伝わっていないようだった。「Gってなんですか?」と聞き返してきたのだ。


 ここはゲームの世界では無いの? なんで嫌われモノのあれまで再現するのよぉ。 


「ミズキ、落ち着いて、この道を進まないと第2層に行けないのですよ」


 そ、そうだった。


 私は思わず逃げ出したくなったが、ここで逃げては地下2階に辿り着けないのだ。


 だが、現代日本でもあれは絶対に嫌なのだ。


 2人がかりで説得され、何とか落ち着いた私は、あれはただの虫だと自分に言い聞かせて震える足を何とか動かそうとしていると、後ろからはエミーリアが「そんなプルプル震えているお嬢様は庇護欲をそそられます」と言っているようだが、この際無視しましょう。


 そっと一歩踏み出すと、その中の1匹が黒光りする羽を広げてぶぅ~んと羽音を響かせて飛んだのだ。


 そして真っ直ぐ私の方に向かってくるのを見た途端、私の頭が真っ白になった。


 半分意識を失った私は、無意識のうちにマジック・バッグに手を突っ込むと、「瞬間氷結」と封印の帯封に書かれたスクロールを手に取っていた。


 この魔法は王都の冒険者ギルドで教えて貰ったA級冒険者コンスタント・ハーヴィー・リッピンコットが得意とする氷結魔法だと聞いて思わず手に取ってしまったもので、やはりこのスクロールも家が買えるほどの値段がするのだ。


 そして2人の制止の声を無視すると、封印の帯封を切り、丸まった紙を開いて封じ込められていた魔法が発動した。


 スクロールを持った私の指先には大量の魔素が噴き出す振動が伝わり、指先が僅かに冷たくなっていた。


「瞬間氷結」の威力は凄まじく、目の前の洞窟が見事な氷の回廊に変わっていた。


 それは、大きな氷の塊から四角く刳り抜いて通路を作ったような感じになっており、凹凸が無くとても滑らかな表面をしていた。


 そして、不純物や空気が全く含まれない魔法の氷は、ガラスのような透明度を誇っていた。


 その氷の下に閉じ込められたGは、さしずめ画家が描いた油絵をガラスケースに収めたような感じに見えて、安心して通る事が出来そうだった。


 エイベルは高価なスクロールをこんなところで使うなんてと言っているようだが、私は聞こえない振りをした。


 だって、あれが私に向かってきたのよ。これは絶対に必要な事でやむを得なかったのよ。


 そして安心した私は不用意な一歩を踏み出したところで直ぐに後悔したのだ。


 魔法で作られた氷は見事な出来栄えで不純物も無ければ凹凸も無いのだ。


 つまり、それは良く滑るのだ。


 私は第一歩を踏み出したところでズルっと滑ると、こけたのだ。


「きゃっ」


 可愛らしい声を漏らして氷の上に尻餅をつくと、後ろに回した手も滑り、そのまま仰向けに倒れると背中からすーっと氷の上を滑っていった。


 摩擦係数が殆ど無く、掴まれるような突起も全くない氷の上では、自分でも止める事が出来ず、ただなすすべも無く滑っていった。


 私の危機に気が付いたエミーリアが何とか助け船を出そうとするのだが、つるつるの表面にグリップする物は何も無くエミーリアもそのまま転ぶと私の方に向けて見事な滑走を見せていた。


 だが、エミーリアにはこの滑走を止める手段があり、私の体を掴むとターラント子爵館でも使っていたアイスピックを取り出すとそれを氷に突き立ててくれたので、ようやく止まる事が出来た。


 私はスカートが捲れてあられもない姿だったのをようやく元に戻すと、何事も無かったかの如く振舞う事にした。


 そして周囲に私を見る視線は無いかと見回していた。


 そこに居たのはエイベルだけだったが、既に彼は危険を察知していて明後日の方向を向いていた。


「チッ」


 私は心の中で舌打ちをした。エイベルがこちらを見ていたら延々とお小言を言ってやろうと思っていたのだ。


 だが、エミーリアのアイスピックだけでは、これ以上動くことも出来ないのでエイベルを呼ぶことにした。


「ちょっと、エイベル。私達を助けにきて」

「あれ? お嬢、そんな所に寝転がって氷の確認ですかい?」


 エイベルはこちらに振り向くと、初めて気が付きましたといった感じでわざとらしく驚いていた。


 しらじらしさ満点だったが、これでは怒る事も出来なかった。


 エイベル、貴方本当に見てなかったでしょうね?


 エイベルは見事な反射神経で氷の床を滑走すると、私達の目の前で両刃剣を氷の床に突き立ててその場に急停止した。


「お嬢、大丈夫ですかい?」


 その何事も無かったかのような態度にちょっとイラっとしたので、意地悪をしてやることにした。


「エイベルそこを動かないでね」


 そう言うと私はすうっと立ち上がるとエイベルの右腕にがっしりとしがみついてやったのだ。


 だが、予想に反してエイベルは転ぶことも無く、しっかりと私の体を受け止めていた。


 すると今度はエミーリアも立ち上がると私とは反対側にしがみついていた。


 そこでエイベルとエミーリアの間で無言にやり取りがあった後、エミーリアが文句を言っていた。


「エイベル、貴方顔がにやけていますよ。そんなにお嬢様の胸の感触が良いのですか?」


 え、なんですと。


 私はエミーリアの言った言葉を確かめるため、エイベルの顔を覗き込むのだが、エイベルは顔を背けて私に顔を見せないようにしていた。


 私は意地になって何とか顔を覗き込もうとすると、また足が滑って慌てて抱き着いてしまった。


 その時、エイベルの真っ赤になった顔が見えたのだ。


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