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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
逃げる令嬢追うフラグ
72/155

その72(エイベル)

エイベルサイドの話になります。

 

 カフェに置いてきぼりにされたエイベルは、先程の給仕係の男を探していた。


 それというのもこんなところにいきなり領軍がお嬢を捕縛に来るのがおかしかったからだ。


 誰かが通報でもしない限りこんな事態にはなりえないのだ。


 そして見つけた給仕係の男は掌に乗せた銀貨の数を数えていることころだった。


 背後から忍び寄るとそのまま短剣を首筋に当てた。


「動くな。お前に聞きたい事がある。正直に答えないと頭と胴が分かれることになるぞ」


 先程まで満面の笑みで銀貨の数を数えていた男は、「ひえっ」と小さく悲鳴を上げると、真っ青な顔になってブルブルと震えだしていた。


 そして命と引き換えに白状した話では、ターラント子爵は見目の良い女性に関する情報提供には金を払うのだとか。


 そしてその情報を元に捕縛隊がやって来るそうだ。道理でこんな女性向けの店なのに女性客が居ない訳だ。


 そして町に女性の姿を見かけない理由もそれなのかと聞いてみると、若く見目が良い女性はあっという間に攫われてしまうので、皆家から出ないそうだ。


 子爵に捕まった女性は敷地内ある塔に閉じ込められるそうなので、お嬢は間違いなくそこに居るのだろう。


 エイベルはお嬢の身が心配になり、今にも子爵の館に突撃したいという衝動にかられたが、たった1人では何もできないと思い留まっていた。


 そして自分にできる事を先にやる事にした。


 そして向かった先は武器屋だ。事を起こしたら町を逃げ出すことなるので、後でのんびり買い物など出来ないと判断したからだ。


 ガイドブックに載っていた魔物を倒すのに都合が良い武器を選びながら、エイベルはバタールに居た頃の事を思い出していた。


 エイベルがお嬢付きになったのは、エミーリアと同じ10年前だった。


 お嬢様が7歳になって、領内を見て回りたいと我儘を言ったそうで、お館様はお嬢専用の馬車を造らせ、その馭者として俺が指名されたのだ。


 お嬢に初めて会ったのは、お館様に連れられて庭を散歩していた時だった。


 その姿は見る物全てが珍しいといった感じで、父親であるお館様に「あれは何?」「これは何?」と質問攻めにしていた。


 お館様だって庭木にまで詳しいわけではなく、流石に降参したようで俺の姿を見つけると、これ幸いとばかりに呼びつけられたのだ。


 俺の口調は、使用人としては落第なのだが、最初こそ驚いたような顔をしていたが、直ぐに慣れたようで、興味を引かれるたびに「あれは何?」と話しかけてきた。


 それから庭に出るたびに呼びつけられるようになったが、どうやら年が近い俺は、話し易かったという事らしい。


 そしてお嬢が館の外に興味を持った時、お館様が特別製の馬車を造らせ、その馭者をやれと命じられたのだ。


 庭師見習いとお嬢様付き馭者では給金の桁が違うのだが、辺境伯家ではお嬢様付きになると護衛任務も付随して付いてくるのだ。


 それからは、馭者としての訓練と共に戦闘訓練も命じられ、毎日の厳しい訓練に死ぬような思いをしていたのだ。


 そんなある日、徹底的にしごかれて、地面に転がっていると、俺の顔を覗き込む人影が「お仕事大変ね」と気遣いの言葉を掛けてくれたのだ。


 その人物は可愛らしい顔をちょっと傾けて心配そうに俺の顔を見つめていた。


 他人から気遣ってもらうことが無かった俺にとって、その一言はとても新鮮で、嬉しくて涙が出そうだった。


 それ以降の訓練は苦しいというよりも、楽しいといった感情が強かったように思えた。


 そして、お嬢様付きというこの役目は誰にも渡さないと思うようになったのだ。


 無事お館様に合格を貰い、晴れてお嬢様付きの馭者になってからは、馬車に乗る度にやれ揺れが酷いとか、お尻が痛いとかいつも文句を言われたが、それでも馭者を交代するような事はしなかったし、馬車に乗るのを楽しみにしているようだった。


 それがあの卒業パーティーがあった日以来、馬車に乗ってもなんだか以前程嬉しそうな感じがしないのだ。


 最初はあの王子から婚約破棄されて気落ちしていたからかと思っていたのだが、どうもそうでもないらしい。


 それから色々な馬車を用意してはお嬢を乗せてみたが、反応を見る限り馬車が原因ではなさそうだ。


 買い物を済ませて馬車に乗ると今度は子爵館の方に向かった、出来るだけ中の様子が分かる場所で待機して、中で動きがあったら直ぐに動けるようにするためだ。


 そして長い待機の時間にふっとお嬢の事をまた考えていた。


 王都を脱出してからというもの最近のお嬢は、以前程単純でも暴力的でも無く、思慮深く周り者に優しいのだ。


 その姿はお嬢と一緒に居ない時のお館様によく似ていて、流石親子といった感じなのだ。


 そしてその仕草の一つ一つが妙に女っぽく、何度ドキリとしたか分からなかった。


 その度にお嬢を怒らせるような行動をして誤魔化しているのだが、このままではバタールに戻った時に、ことお嬢の事となると勘が鋭くなるお館様にバレてしまいそうだった。


 まあ、お嬢は俺に好意を持っている訳ではなさそうなので、お館様の不興を買うことは無いだろうが万が一という事もある。そうならないためにも俺は自分の感情を押し殺して、さも興味はないという素ぶりを続けなければならないのだ。


 お嬢と一緒に居るお館様の姿を見てしまうと間抜けな男といった印象を受けてしまうが、普段のお館様は恐ろしく有能な男なのだ。


 辺境伯領に逃れて行った俺達母子が暗殺者に襲われていたところを助けてくれたのもお館様だった。


 そしてそのままバタールの辺境伯館に住込みの使用人として雇ってもらったのだって、もしかしたら俺達母子の正体に気付いたからではないだろうか?


 そんなエイベルの思考を邪魔するように子爵館の方から爆発音が響き渡ってきた。

 どうやら待機の時間は終わったようだ。

 エイベルは馬に合図を送るとお嬢を救出するため動き出した。


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