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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
逃げる令嬢追うフラグ
57/155

その57(伯爵達の会談1)

ラッカム伯爵のパートになります。

 

 ラッカム伯爵は約束の時間よりも少し早く食堂に入ってくると、歓談スペースのいつもの椅子に座り、持って来た煙管の先に煙草の葉を詰めて種火の元というマジック・アイテムで火をつけた。


 そして煙を吸い込むと、ゆっくりと白い煙を吐きだしていた。


 これはハッカルラッカム伯爵の何時もの悪癖である。


 交渉事とかで少し考えたい時、相手に気取られずに考え事をしたい時にこうやって火をつけるのだ。


 そして稼いだ僅かな時間でこちらのメリット、デメリットを検討するのだ。


 それがいつの間にか習慣化してしまい、こうやって一人で考えたい時も同じ事をしていた。


 そしてメイドが淹れてくれた黒茶を一口含んだ。


 この黒茶は南方からやって来る交易船で運ばれてくるお茶で、苦いこともあり女子供には不人気のお茶だが、私には好ましい味だった。


 このお茶を飲むと頭がすっきりするので、考え事をする時は最適なのだ。


 そして今ラッカム家を悩ます問題は、当家を騙る詐欺師の存在だった。

 騙された客達からの苦情により当家の信用がガタ落ちなのだ。


 取り締まろうにも犯罪は他の貴族領で発生するので、手出しが出来ず、歯痒い思いをしていたのだ。


 このままでは埒が明かないので、次の社交シーズンには王都に出向き社交の場で他の貴族達に事情を説明して、協力を仰ごうかとも考えていた。


 だが、貴族間で弱みを見せるのは悪手とも言えた。相手からとんでもない要求をされる危険もあるし、ここぞとばかりに弱点を攻められることもあるからだ。


 そんな時、王都から戻って来た隊商の責任者アクランドと護衛責任者アップルガースが、面会を求めてきたのだ。


 アクランドの報告は、ついに王都でもラッカム家を騙る詐欺師が現れたという事と、イブリンが王家に拘束されたというものだった。


 そして一緒に持って来たイブリンからの手紙やメモには、卒業パーティーでブレスコット、アレンビー、レドモントの3家と共に婚約破棄された事、現王に婚約破棄の件は貸しで埋め合わせはするから騒ぐなと釘を刺された事、婚約破棄された4家が第一王子派から離反しないように人質に取られた事が書いてあった。


 ちなみにブレスコット家の令嬢は旨く逃げおおせたそうだ。

 それからアップルガースの報告は、ラッカム伯爵家を騙る詐欺師を捕まえてアインバックまで連行してきたという喜ばしいものだった。


 詐欺師が捕まったのは嬉しいが、イブリンの身柄が拘束されたのでは心労がより深まりそうだった。


 それに先に王家から釘をさされてしまっていては、こちらから騒ぎ立てる事も出来ないのだ。


 この報告を聞いた後で、直ぐにアレンビー侯爵家から使者がやって来たと連絡があったので、直ぐにこの事だろうと察しがついた。


 あそこはたしかクリスタル嬢が宰相の子息グラントリー・エリス・ギムソンと婚約していたはずである。


 そこで結論も出そうもない重たい話をする前に、詐欺師の断罪という簡単な案件を処理することにしたのだ。


 そして、そこに居た女詐欺師というのが、ブレスコット辺境伯の一人娘だったのだ。


 クレメンタイン嬢とは直接面識が無く、貴族達の噂でしか知らなかった。


 その噂で想像していた人物像は、他の者を見下す傲慢な性格で、彼女の機嫌を損ねた相手は父親に言いつけられて酷い目に遭うというものだった。


 そして、そんな娘を溺愛する辺境伯は、アンシャンテ帝国から王国を守った英雄という評判を落としていたのだ。


 だが、実際目の前に現れたあの娘は、長い間の拘束で薄汚れた姿だったが、その凛とした立ち居振る舞いは流石辺境伯家令嬢といったところだった。


 そして悪意に満ちたあの白洲の場で、堂々とした受け答えをして見せたのだ。

 そんな事イブリンでも出来ないだろう。


 成程ブレスコット辺境伯が娘を溺愛する訳だと納得したものだ。

 そして枷を嵌めたままの腕を突き出され父親に言いつけると言われた時は、胃がきゅっと縮み上がったのだ。


 あの時、あの娘の後ろには死神が見えた気がして、本当に恐ろしかったのだ。


 あの娘はとても怒っていた。

 それは当然だろう。


 あの時の姿を見れば、ここまで連れて来られる時にどんな扱いを受けたかは一目瞭然だったし、あれをそのままブレスコット辺境伯に言いつけられたら、激怒したブレスコット辺境伯が自ら刺客となって目の前に現れても不思議はなかった。


 そうなったら我がラッカム伯爵家は地上から抹殺される未来しか見えなかった。


 クレメンタイン嬢に目の前で父親に言いつけると言われた者達は、皆同じ気持ちだったに違いない。


「恐ろしい娘だ」


 そう独り言ちたところで客が現れた。


 客というのはサイラスという、アレンビー侯爵家の外交担当という裏の顔を持つ商人だった。


 彼の童顔に中年太りといった外見は、相手に優越感や安心感を与えるので、外交交渉を行う上では相手から本音を引き出すことが容易なのだそうだ。


 それに頭の回転も速く口も達者なのでアレンビー侯爵が彼を重用するのも頷けた。


 彼は迷わず私の相対の席に座ると、控えていたメイドが用意した黒茶に手を伸ばした。


 二人を隔てるテーブルの上には甘くない菓子と灰皿が置かれていて、2人は長い煙管に火をつけて煙草を楽しんでいた。


 最初に口を開いたのはサイラスの方だった。


「伯爵様、クレメンタイン嬢はこの町の見物に出かけたのですか?」

「ああ、一応護衛を付けたが、あのお嬢さんの事だから監視役だと思っているだろうな」


 それを聞いたサイラスはニヤリと笑っているようだ。

 恐らくは昨晩の事を思い返しているのだろう。


「私もブレスコット辺境伯のご令嬢の事は噂では聞いていましたが、噂と本物がここまで違うとは思いませんでした」

「ああ、サイラス殿の正体も一発で見抜いていたな」

「ええ、そうですね。伯爵が一言言っただけで、私がアレンビー侯爵家の外交担当だと見抜くとは思いませんでした。私を見て婚約破棄されたクリスタル様への気遣いを口にされた時は、本当に驚きましたよ」


全体の流れは同じですが、言い回しとかを少し修正しました。

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