その48(本当の黒幕2)
あの話って何ですか?
私はお爺ちゃんがこの後何をする気か分からなかったが、それが禄でもない事であることは分かっていた。
まずはアレが何なのか情報が必要だった。
今は冒険者ミズキなのでぶっきらぼうな口調に変える事にした。
「ちょっと、伯爵。あれが何なのか説明して」
「そんな暇は無い、直ぐに逃げるんだ」
そんな事言われても唯一の出口にあのマッスルお爺ちゃんが陣取っているのよ。無理に決まっているでしょう。
「貴方の目は節穴なの?」
私が非難すると、伯爵は出口を見て毒づいていた。
「ああ、畜生、ならあれが元に戻るまで時間稼ぎをするんだ。さもないと皆殺しにされるぞ」
時間が無い事は十分分かっていたので、皆を集めるとマジック・アイテムを起動させた。
すると私達が集まった個所に目に見えない空間障壁が出来上がっていた。
これは野営で使っている「安眠空間」の魔法だ。
これのおかげで私はハンモックで快眠を送ることが出来ているのだ。
するとマッスルお爺ちゃんが出来上がった空間障壁に向けて殴る蹴るの攻撃を仕掛けてきた。
その度にドン、ドシン、ガタンという音がして空間が揺さぶられていた。
気のせいかその度に「ピキッ」とか「ピシッ」という音が聞えてくるようだ。
その音に不安を感じたのは伯爵も同じだったようだ。
「おい、この結界はどの位持つのだ? あれはそんなに長い時間持たないはずだ。それまで持ちこたえられるか?」
さて、どうなんでしょう?
これはあのAランク冒険者アビーさんが生み出した結界魔法だと店員さんは言っていましたね。
それに冒険者ギルドで解説してくれた冒険者の話が本当なら、ドラゴンのブレスにも耐えられるはずですけど?
マッスルお爺ちゃんの攻撃は更に激しさを増してきているが、その度に嫌な音が聞えて来て神経を逆なでしていた。
私の目の前に置かれているマジック・アイテムは、高級料理店のテーブルに置いてあるような銀製の調味料入れに似ていて、中には燃料となる魔石が入っているのだ。
この魔石から供給された魔力で結界を維持しているのだが、先程からマジック・アイテムを包んでいる淡い光が、結界に攻撃を加えられるたびに揺れて、徐々に弱まっているような気がしていた。
気のせいであって欲しいのだが、これは結界維持に大量の魔力を消費して急速に残量が減っている事を意味しているようだ。
これが持たなかったら過大広告をした店員と冒険者をJ〇ROに告げ口しなければなりませんね。
この世界にあるのかどうかは知りませんが。
「それは神のみぞ知るという事ね」
「なんだそれは」
それにしても、何もできずに攻撃を受け続けているとだんだんと気が滅入ってくるようで、結界が壊れて皆が殴り殺されてしまう光景とか不吉な事をついつい考えてしまっていた。
いけない。これは別の事を考えなくては。
そもそもあのお爺ちゃんは何者なの?
「伯爵、あの爺さんは何者なの?」
伯爵は一瞬私の顔を見てから、何やら記憶を探るように顔を顰めていたが、ぽつぽつと話し始めた。
「確か、錬金術師だとか言っていたな」
それは物質を金に変えるとか言う人達のことでしょうか。
そう言えば研究室には錬金釜のような物がありましたね。
「確か、あいつは、最初私に良い特産品があると言ってきたのだ。領地を潤すには丁度良い品だといってな」
「それは?」
「ああ、香料だよ。おかげで我が領は潤った。すると次に不老不死の薬を作りたいと言ってきたのだ」
ああ、その部分は確か町の商人さんから聞きましたね。
「それでそれにかかる費用を考えたら我が領ではとても負担出来ないので断ったのだ。それからの記憶が全く無いのだ」
成程ね。解呪のロザリオが反応したという事は、その時に呪いを掛けられたのだろう。
そんな事を話していると、結界の前方で警戒していた冒険者が声を掛けてきた。
「あんたら、敵に動きがあるようだぜ」
そう言われてマッスルお爺ちゃんを見ると、体中からオーラのようなものが抜け出しているように見えた。
だが、それはオーラではなく先程伯爵が言っていた命玉の効果が切れてきたようだった。
マッスルお爺ちゃんは体が縮み、背中が丸まってきてシワシワお爺ちゃんに戻ったようだ。
なんとか結界が持ったようだと思った瞬間、バチンという音と共に結界が消滅した。
結界を作っていたマジック・アイテムを見ると既に光が消えていた。
どうやら燃料切れになったようだ。
階段の傍に倒れているお爺ちゃんは、元のシワシワになって転がっていた。
「馬鹿な奴らじゃ。不老不死は人間の永遠の夢だというのに・・・」
確かにそうかもしれないけど。そのために犠牲となる平民の命はどうでもいいというの?
その後、お爺ちゃんを拘束して地下室から脱出すると、冒険者から救援のお礼を言われた。
そして冒険者達から自己紹介と、緊急通報の内容について確認したいと言われたので、どこかで話をすることにした。
するとスクリヴン伯爵から礼がしたいので食事に招待させて欲しいと言ってきたので、これを受ける事にした。