その32(緊急通報機能)
冒険者プレートに特殊機能があるのも面白いですよね。
ギルドマスターが手招きしている中、私達3人は部屋に入った。
そして、前回の失敗を踏まえて3人掛けのソファに3人一緒に座ると、相対で座るギルドマスターが笑いをかみ殺していた。
「それではDランクに上がる冒険者に、その覚悟を説明するね」
どうやら正式に冒険者と呼ばれるのはDランクからで、Eランクは所謂会社で言う所の試用期間のようなものらしい。
そしてEランクの冒険者プレートに無く、Dランク以上のプレートに有る大きな違いは、緊急通報という機能なのだそうだ。
この機能は冒険者が危機に陥った時救援を呼ぶためで、近くにいる冒険者がその信号を受信すると振動の強弱で方向と距離を装着者に伝えてくるのだとか。
残念ながらディスプレイが無いので、カーナビのように発報点まで画像で案内してくれる事は無い。
そして要救助者が死亡するとその時点で振動が止まるので、救援者が無駄に危険に晒される事が無い仕様になっているとのこと。
そしてこの機能は助けてくれた冒険者に対して、基本料という予め決められた額を自動的に支払う仕組みになっていて、助けてもらったのに報酬を払わずに逃げるという不心得者を排除していた。
報酬額は救助した内容によってABCの3種類あり、Aは討伐と救助で、通報した原因となった脅威を排除してかつ要救助者を助けて帰って来るまで、Bは討伐のみ、Cは救助のみ。という内容らしい。
報酬は基本料の他、魔物の強さと数で上積みされるのだとか。
そして最近は商業ギルドからもこの緊急通報を商人が郊外で襲われた時のために使わせて欲しいと要請があったので、ある程度委託金を払える商人のみ許可しているそうだ。
これにより冒険者は報酬を貰いそびれる危険が無くなったので、喜んで襲われている商人を助けに行くんだとか。
他にはギルドに預けてある資金の出し入れをする機能もある。
冒険者プレートはランクと拠点名を記載してクエスト成否を記録するだけだと思っていたが、意外に高機能で驚いてしまった。
流石はゲームの世界である。便利機能が盛り沢山だ。
この緊急通報は無視しても問題は無いようなのだが、仲間が救いを求めているのにそれを無視できる強心臓の持ち主はそれほど多くは無いそうで、本人が望まなければDランクへの昇格を拒否できるのだとか。
拒否するのは年少者とかでまだ魔物や盗賊と戦う能力が低く、頼まれると断れない性格の人が多いとのこと。
私は一刻も早く実家に帰るのが目的なので、きっと、いや恐らく平気で救援を無視することが出来るだろう。
なので、問題なくDランクへの昇格を希望した。
するとギルドマスターは、私が理解したことに頷くと、ここまで案内してくれた女性職員に手続きをするよう指示を出してくれた。
冒険者プレートの情報変更は別の場所でするそうで、私達は再び女性職員の後を付いて行くことになった。
Dランクへの昇格は、ギルド専用の装置で私の左手首の冒険者プレートの内容を書き換える事で行われる。
私達3人は書き換えを行う装置がある場所に案内されると、そこにあった装置はよく病院等にある腕を入れて血圧を測る装置に似ていた。
それがマジック・アイテムになっていて、そこに冒険者プレートを入れると内容を読み取り不正が無い事が判定された後で、ランクの変更が行われる。
私は早速左手首に巻いてある冒険者プレートをその装置の中に入れると、内容を装置が読み取っているのか淡く光っていた。
それから内容の書き換えが行われているようで、「ジジジ」という機械音のようなものが聞えてきた。
これは先程ギルドマスターから説明があった緊急通報の仕組みが追加されているのだろう。
やがて「ピッ」と完了を知らせる音がした。
するとここまで案内してくれた女性職員が「完了しました」と教えてくれたので、装置から左手を抜くとそこには今まで「E」と記載されていた冒険者プレートが「D」に変更されており、その右隣に一本の目立つ黒色の横線が入っていた。
これは何だろうと眺めていると、先程の女性職員が教えてくれた。
「この黒線が緊急通報の送受信を行う部分になります。緊急通報を発報すると赤色に変わり、受信すると黄色に変わります。音が出ると拙い場合もあるので色で表示しているのです」
確かに、隠れて緊急通報しても音がしたら居場所がバレて、救援前にまずい事態になるわね。
見にくかったので少し行等を修正しました。