その28(ヒロイン2)
私が目覚めると、そこは学園の女子寮にある自室だった。
これが夢で目覚めたら正しいエンディングを迎えている事を期待したのだが、部屋に一人で寝ていたのでは一体どうなっているのかさっぱり分からなかった。
情報が必要だ。
部屋の外に情報を集めに行く事を決意してベッドから起き上がると、顔を洗い制服に着替えていると扉をノックする音が聞えてきた。
「はあい。どなた?」
私がそう尋ねると扉の向こう側から声が聞えてきた。
「良かった、フィービーちゃん起きたのね。キャロルよ、中に入ってもいい?」
私は、知り合いの殆ど居ないこの学園で、どうやって情報を集めようかと考えあぐねていた所に、情報が向こうからやって来てくれた。
これもゲーム補正というやつだろうか?
「いいわよ。入って」
私がそう言うと扉が開き、その隙間からキャロルの心配そうな顔が覗いていた。
「大丈夫? お腹空いてない? 焼き菓子持って来たわよ」
そう言うと手に持った袋を掲げて見せた。
私は学園に来てからゲームどおり、お助けキャラであるこの友人のアドバイスに従って第一王子ルートを攻略していた。
その中で他の攻略キャラには手を出していなかったのだが、キャロルが王子を攻略するには必要だからとの理由で、ある程度親しく接していたのは事実だった。
それが仇となり、あのおかしなエンディングになったのではないかとも疑っていた。
この友人は信頼しているが、その点はどうしても確かめなくてはならなかった。
「キャロル、一体どうなっているの? 私は貴女が必要だからと言うから他の攻略キャラにも接してきたのに、あのエンディングは笑えないわよ」
私がそう言って抗議すると、キャロルは頭に手を当ててぺろりと舌をだした。
これはあれだ。テヘペロってやつだ。
「ちょっと、真面目に話しているのよ」
「ごめん、ごめん、ちょっと落ち着こうよ。せっかくお菓子も持って来たんだから、お茶でも飲んでさ」
そう言われて私は自分が空腹なのに気が付いた。
他にも聞きたい事はあったが、確かに一度落ち着いた方がよさそうだと思い、友人を部屋に招き入れるとお茶の用意を始めた。
私はからっぽの胃袋にお菓子とお茶を流し込むことにより、少し落ち着きを取り戻していた。
そして私が話を聞く態度が出来た事を感じたキャロルは、雑談を交えながら私が気を失った後の事を話してくれた。
それによると第一王子は確かに婚約破棄で派閥に打撃を受けたが、それは元々計算していた事であり、至って冷静だったらしい。
そして、派閥からの離反を防ぐためアレンビー侯爵家らの弱みを掴んでいる事や、最も厄介なブレスコット辺境伯を押さえるため、クレメンタインの身柄を拘束するため王都内を捜索しているそうだ。
私は知らなかったが、ブレスコット辺境伯は娘を溺愛しているらしく、その身柄を押さえてしまえば短慮は起こさないという事らしい。
それから王子達が私の見舞に来ると言う情報も得た。
今度は前回の事を反省して第一王子にだけ気を許したいと言うと、キャロルは王子の計画には他の攻略対象者の協力が絶対に必要だから、今まで通り接した方が良いと言われてしまった。
複数の男性に粉をかける友人は知っているが、私はそう言ったキャラではないので本当は嫌なのだ。
でも、それが正しいエンディングを迎えるため必要だと言われてしまうと、断ることが出来ずしぶしぶ同意するのだった。
それからしばらくして第一王子達が私のお見舞に来てくれた。
私の見舞に来たのは第一王子だけで、他の攻略者は居なかった。
そこで私は、キャロルが言っていた事が本当なのか確かめてみる事にした。
「イライアス、教えて。貴方は本当に王太子になれるの? 私と結婚できるの?」
イライアスは当初私が切迫した表情をしていたのに慌てていたが、その質問内容を聞いて急に安心した顔になっていた。
そして私をあやすように背中を摩りながら、問題ない事を話してくれたのだ。
なんでもこれは男爵令嬢と結婚するために必要な計略の一つであり、計画は順調に進んでいるらしい。
この点はキャロルが言っていたのと同じだったので私は安心できた。
それにしても第一王子の計略を知っているキャロルの情報収集能力って一体なんなのと思い後ろを振り返ったが、そこにはキャロルの姿は無かった。