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その21(幻影魔樹)

南西の森での作業風景です。

 

 今日はまる1日使って、南西の森を探索して麻痺茸を探す予定になっていた。


 昨晩の余り物のスープを温めそれで固いパンを柔らかくして食べると、早速出発である。


 昨晩は早速マントを使ってハンモックにして吊るしてみたのだが、エミーリアやエイベルからは、不意打ちがあった場合、そんなところに寝ていたのでは危険ですと言って眠らせてはくれなかったのだ。


 結局比較的平らな地面にマントを敷いて眠ったのだが、眠りも浅く、体中が強張っていてとても気持ちの良い朝とはいかなかった。


 エイベルが言っていたが、マジック・アイテムの中には襲撃から守ってくれる障壁魔法を発動する物もあるそうなので、機会があれば是非とも購入しておきたい。


 南西の森は木々が鬱蒼と生えており、大きく伸ばした枝葉のせいで視界が阻まれていた。


 麻痺茸はそんな大樹の根本に生えているので、場所の特定には良いのだが、視界が狭いという事は魔物の不意打ちの危険が増すのだ。


 この森にはかまいたちという風魔法を使う風オオカミという名の魔狼がいるらしく、木の陰から襲われたら防ぎようがないのだ。


 後は市場で買ったこの火炎蜥蜴のマントが、どれだけ丈夫かに掛かっていた。


 それからこの森には色々な種類の魔樹があり、その中でも一番危険なのは魔物を食べるという食獣魔樹で、当然人も食べるので注意が必要だった。


「エミーリアどう、見つかった?」

「いいえ、こちらにはありません。それよりもお疲れではありませんか? 少し休憩しましょうか?」

「そうね。そうしましょう」


 エミーリアは大きな木の根元にテーブルクロスのような布を広げると、私に腰掛けるように促してきた。


 私はエミーリアに礼を言って、木の根元に腰掛けると後ろの木に背中を預けていた。


 こうしていれば背後から攻撃されることも無いだろう。


 エミーリアは荷物の中から密閉ポットを取り出すと、手早くお茶を注いて私に渡してくれた。


 エミーリアは実に有能なメイドだが、こんな場所まで重い荷物を背負ってくるのは大変だろうと頭が下がる思いであった。


「エミーリア、重たい荷物を背負って大変ね、私は少しくらいならお茶を我慢できるわよ?」


 私が気遣いでそう言うと、やはりというかエミーリアは一瞬驚いたような顔をしてから、直ぐに真顔になった。


「私はお嬢様のお世話を焼くことが好きなのです。私から生きがいを奪わないで下さいませ」


 そう言われてしまうと、それ以上何も言えなくなるのだ。


 私はお茶を飲みながらぼんやりしていると、目の前の土からボコっと音がして何か小動物が顔を出した。


 それは鼻をひくひくさせて周囲の匂いを嗅ぎながら、キョロキョロと周りを見回すような動きをしていた。


 これがギルドの受付の女性が言っていた魔眼ネズミだろうか?


「ねえエミーリア、もしかしてあれが魔眼ネズミなの?」


 私が指さす方向に目を向けたエミーリアは、直ぐに顔を左右に振っていた。


「違いますお嬢様。あれは地脈モグラで、お嬢様の食卓にも上る高級品です」


 え、という事は、私はあれを食べているという事なの?


 食材として加工された物は平気だが、加工される前の姿を見るのはちょっと嫌なものがあるわね。


 地脈モグラは直ぐに顔を引っ込めて逃げてしまったが、エミーリアはそれをとても悔しがっていた。


「ああ、やはりまだ本調子ではないのでございますね。普段のお嬢様でしたら一瞬で仕留めておいででしたのに」


 え、普段のクレメンタインはそんな事をしていたの?


 貴族令嬢というと深窓の令嬢というイメージだったけど、やはりゲームの悪役令嬢は一味違うらしい。


 休憩を終えると、更に先に進むことにした。


 それから少し土の色が黒っぽい場所に来ると、木の根元にクリーム色をしていて傘の部分が平たい茸があった。


 これが麻痺茸のようだ。


 直接触ると手が麻痺してしまうので、籠手を装備してから収穫した。


「お嬢様、そろそろ昼食に致しましょう」


 エミーリアが声を掛けてくれたのでもうそんな時間なのかと、空を見上げると太陽が真上に来ていた。


 袋の中には結構な数の麻痺茸が入っているので、これで依頼完了だった。


「そうね、食事をしたらこれで帰りましょう」

「畏まりました」


 今日の昼食は流石に日持ちがしない物は無理なので、干し肉と乾燥野菜でスープを作るが、シュトーレンを持ってきているので野営でも甘いものを頂けるのだ。


 私達が食事をしていると、匂いに誘われたのかネズミのような生き物がひょいと顔を出してきた。


 そのネズミの目は赤かった。


「エミーリア、あれを見て」


 エミーリアがまたですかとでも言っている顔で私が指し示す方向に目を向けると、小さな声で「あ」と言った。


 するとそのネズミはひょいと近づいてくると、私の傍においてあったシュトーレンに齧りつくとそのまま逃げて行ってしまった。


 私が呆気に取られているとエミーリアがすぐさま声を掛けてきた。


「お嬢様、後を追いますわよ」

「え、あ、え?」


 私が声にならない声を上げていると、腕をがっしりと捕まえられそのまま引っ張られるように走り出すことになった。


 エミーリアは意外と力強く、ただのメイドではない動きをしていた。


 やはり武の辺境伯家に使える使用人も、何等かの武道の心得があるのかもしれなかった。


 そこで初めて冒険者ギルドに登録した時にエミーリアが書いた戦闘メイドと言う職業が、実は本当なのではないかと思い始めていた。


 暫く進むと、何か薄い膜のようなものが顔に触ったような気がした。


 すると今まで見てきた木々が鬱蒼と生えた景色ががらりと変わり、赤茶けた地面の上に茶色っぽい巨木が一定の間隔を開けて自生していた。


 先程のネズミは、そのうちの1本の木によじ登っていった。


 私達はネズミが登った木を見上げていると、ネズミは器用に樹皮に爪を立てて垂直に登り樹洞のようなところに入って行った。


 そしてその樹の枝には、赤色の実が付いていた。


 もしかしてあれが魔素の実なのだろうか?


 でもどうやってあの実を取ったらいいのだろう?


 どう見ても手が届く場所ではなく、梯子も飛び道具も持っていないのだ。


 私がどうしようかとキョロキョロしていると、エミーリアがメイド服の中から何かを取り出し、それを赤色の実に向けて投げつけた。


 すると実が枝から離れ落下してきた。


「あ」


 私は思わず声を出してしまったが、幸いな事に魔素の実は地面に激突することなくエミーリアが見事キャッチしていた。


 エミーリアは嬉しそうな顔で、私に魔素の実を差し出してきた。


「あまりにもお嬢様が、物欲しそうな顔をしていたものですから・・・」

「・・・ありがとう」


 物欲しそうだなんて、それでは私がまるで欲求不満だと言っているようじゃないの。


 全く言うに事欠いて、何て事をいうのかしら。


 でも、これがあれば、麻痺茸と魔素の実とで依頼を2つ達成したことになる。


 早いとこランクアップの条件を達成しないとね。


 そして王都ともおさらばするのよ。


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