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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
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番外44(お嬢様の秘密の買物6)

 

 パン工房の件はマレットから報告書を提出してもらい、私はお嬢様のお世話をするという本来業務に戻っていた。


 午後のお嬢様は自室に籠りベッドに寝転びながら、ちょっと物悲しい表情で本を読んでいた。


 私はそんなお嬢様がそろそろ喉が渇くころだとみて、お茶の用意を始めていた。


 カップからお茶の良い香りが漂うと、本を読んでいたお嬢様が顔を上げた。


「エミーリア、喉が渇いたわ」

「はい、もう準備が出来ておりますよ。お茶菓子は料理長の自慢の一品です」


 それを聞いて目を輝かせてベッドから降りてくると、私が引いた椅子に腰かけた。


 そしてお茶とお菓子を楽しむと、私に問いかけてきた。


「ねえエミーリア、このブレスコット辺境伯領にも領抜けした人は居ると思う?」


 私はその質問にドキリとした。


 実際私はその領抜けした人と関わり合いがあるので、誰かが私の行動を目撃してお嬢様にそれを告げ口したのかと勘繰ったのだ。


 どう答えたら良いのか分からなかったが、目の前で私の答えを待っているお嬢様を何時までも待たせる訳にはいかなかった。


「えっと、南西側にある3つの男爵領は生活が厳しいと聞きますし、生活に困って辺境伯領に逃げて来る人が居てもおかしくないと思います」

「・・・そう」


 私が一般論に逃げると、お嬢様は何だか考え込んでしまったようだ。


 後で私は、お嬢様に理由を聞いておけば良かったと思う事になるのだが、この時はそんな事思いもよらなかった。


 夕食の時間になりお嬢様が食堂に下りて行くと、私はその間は休憩時間となる。


 急いで別館に戻り夕食にしようとしたのだが、そこでリンメル様に手招きされてしまった。


「エミーリア・モス、ちょっといいかい」

「あ、はい、大丈夫です」


 そして連れて来られたのは本館1階にある警備兵詰め所だった。


 そこでは当番兵が私とリンメル様のために夕食を運んできてくれた。


 どうやら食べながら話をするようだ。


 今日の夕ご飯は、具沢山の野菜スープにステーキ肉それに副菜とパンが置かれていた。


 相変わらず辺境伯館の料理は美味しいですね。


 私は夕食を頂きながら、何故、呼ばれたのかを考えていた。


 パン工房が劣化小麦を使って私腹を肥やしていた件は、マレットが報告書を上げているはずなので、私が呼ばれる事は無いと思っていたのだ。


 するとリンメル様が質問してきた。


「パン工房が不正をしていると何処で気付いたんだ?」


 ああ、またですか。


「偶然です。アランさんのお店に納品されたパンが不味かったので、その理由を知りたかったのです」

「アランの店は巡回コースに含まれていないはずだな?」


 おお、鋭いですね。ですが、お嬢様が内緒にしている商品の事は言う訳にはいかないのです。


「収穫祭の時にお菓子をご馳走になっていたので、そのお礼を言いたかったのです」

「ほう、なんと都合がいい話だな?」


 そう言うとリンメル様の目が細くなった。


 これがマレットがカエルになった冷たい視線ですね。


 でも私には効きませんよ。私には何も後ろめたい事は無いのですから。


 私が何も言わないのに諦めたのか、リンメル様はテーブルの上に金貨を1枚置いた。


「これは前に言っていた必要経費だ」

「え?」


 あれ? 確か前の話では確か、経費は認められなかったのではないでしょうか?


「何だ、要らないのか?」

「要ります」

「それから」


 そう言うとまた金貨を1枚取り出してテーブルの上に置いた。


 私の視線もその金貨に吸い寄せられていた。


「これは?」

「今回のパン工房での成果報酬だ」

「ありがとうございます」


 食事を終えると、「引き続き任務を続けるように」と言って出て行ってしまった。


 私はリンメル様に見えないように机の下でガッツポーズを取っていた。


 +++++


 リビーは体中から湧き上がる痛みで気が付いた。


 そして自分が今、冷たい地面に横たわっている事を理解すると、自分が何処にいるのか確かめようと上体を起こそうとしたが、手と足の自由が利かないのに気付いた。


 どうやら手首と足首を縛られているようだ。


 何とか逃げ出そうとしたのが見つかって、二度と逃げ出さないようにと殴る蹴るの暴行を受けたのだ。


 そして気を失ったが、その時に手足を縛られたらしい。


 少しでも痛みが和らぐ姿勢を見つけると、自分が居る場所がどこなのか調べてみた。


 そこは3方を土の壁に囲まれ、正面には鉄格子が嵌められた地下牢だった。


 鉄格子の向う側には見張りらしい男が、椅子に座ってこっくりと船を漕いでいた。


 牢の中には自分の他に、顔を殴られて痣になっている男の子と膝を抱えて肩を震わせた女の子が居た。


 きっとこの子達も私と同じように裏路地で捕まってここに連れられてきたのだろう。


 朧げに覚えているのは、あの男達に捕まった後、そのままこの奴隷商人に売り渡されてきたことだ。


 元の村に居た時は、やせた土地で作物を作るのは本当に厳しくて、お腹いっぱい食べるなんて夢のまた夢だった。


 そんな厳しい生活でお父さんが死んでしまって、これからどうしたらいいのかもわからず途方に暮れていると、たまたま村を訪れた行商人が隣のブレスコット辺境伯領は裕福だと言った言葉を人伝手に聞いたのだ。


 でも、この国では領抜けは禁止されているので、見つかったらどんな目に遭わされるか分からなかった。


 それでもこのまま飢え死にするよりはと、夜中にこっそり抜け出したのだ。


 バタールに何とか辿り着いた時には、3人とも行き倒れ状態だった。


 そして何の伝手も無い私達は底辺の生活が待っていた。


 私は何とか生き延びるため売られている商品を盗んだり、残飯をあさる毎日だった。


 私達を助けてくれる人は誰もいなかった。それは領を抜けた人間を庇えば同罪になるのだから仕方が無いと納得していた。


 リビーは乱れた髪の毛を手櫛で整えると、ヘアクリップが無くなっている事に気が付いた。


 あれはエミーお姉ちゃんに友達になった証として貰った小さな花が3つ付いたヘアクリップだった。


 エミーお姉ちゃんは私を見かける度に何かと世話を焼いて来るので、最初は警戒していたのだが「私も妹が欲しかったのよ」という理由を聞いてちょっと気を許してしまったのだ。


 だが、その後、領主館の使用人だと知って慌てたのだ。


 その日から何時扉を蹴破って警備兵が押し入って来るかと怯えていたが、待てど暮らせどそのような兆候はなかった。


 そしてようやく私達を領主様に言い付けるつもりがないのだと理解したのだ。


 それからは顔を合わせる度に食べ物をくれる優しいお姉ちゃんになった。


 生活もほんのちょっとだけ楽になったような気がしていたのだ。


 そんな時にこんなくだらない男共に捕まってしまい、もう二度と弟にもお母さんにも会えなくなるなんて。


 リビーは悔しくて涙が止まらなかった。


「リオ、私はもう家に帰れそうも無いわ。お母さんをお願いね」


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