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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
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番外42(お嬢様の秘密の買物4)

 

 コーディが荷物を配達した先は4ヶ所あった。


 釘を入れた樽を納品した木工所、小麦粉を入れた樽を納品したパン工房、酒樽を納品した酒場、それとこれは考慮しなくてもいいのだろうが空樽を納品した炭屋があった。


 ここから一番近いのは木工所だったので、私達は早速その店に向かう事にした。



 木工所は大きな平屋でかなり奥行きがある建物だった。


 左右にスライドする大きな扉が半分開いていて、中からは職人たちが作業をする音が響いていた。


 入口から中を覗き、声を掛けたが誰も聞こえないのか返事は無かった。


 仕方が無いので、「お邪魔します」と一言断ってから中に入ると、店の人を探した。


 入口付近には直ぐ配達できるように完成したベッドやワードローブ等が置いてあり、作業場は奥にあるようだ。


「馬鹿野郎、何してやがる」


 突然怒声が聞えて来たので首を竦めると、どうやら言われたのは私ではなく若い職人のようだった。


 私はその怒っている初老の男性に声を掛けた。


「すみません。ちょっと伺いたい事があるのですが?」


 すると目の前の2人が一斉にこちらを見てくると、初老の男性の方が返事を返してきた。


「誰だい、あんたたち?」


 すると後ろにいたアシュリーさんが私の前に出てきた。


「ホイストン商会の者です。誤配した荷物を探しています」

「ホイストン商会? 注文してないぞ」

「いえ、間違えたのはリドル商会です」

「リドル? 注文通りの品だったぞ」


 そう言って初老の男性は首を傾げた。


 私は考え込んでいる男性に声を掛けた。 


「念のためお聞きしますが、配達された樽に見覚えのない物が入っていませんでしたか?」

「身に覚えのない物って何だ?」


 えっと、私も知らないんです。ナニって言っても分かりませんよね?


 仕方がない、ここはちょっと奥の手を使ってみましょう。


「それを確かめるため、樽を見せて貰えませんか?」


 そう言ってにっこり微笑むと、両手を胸の前で組んで少し上目遣いに相手を見た。


 これでもれっきとした男爵令嬢なのですから、少しは効果があると思うのです。うん。


 するとちょっと顔を赤くした相手が、店の奥を指差してきた。


「あれだ。勝手に見ればいい」


 よし、どうやら効果があったようです。


 そして樽を調べてみたが、注文どおりというか、中には釘しか入ってなかった。


 この店は外れのようですね。


 男性に礼を言って木工所を出ると、既に昼近い時刻になっていた。


 そろそろ時間切れのようです。


「アシュリーさん、私は館に戻らなければなりません。パン工房と酒場は任せてもよろしいですか?」

「分かりました、調べておきます。明日も協力して貰えるのですよね?」

「はい、当面はお嬢様から午前中に限り外出許可を頂いておりますので」


 そして私は明日ホイストン商会で落ち合う事を約束して、館に戻る事にした。


 私のポケットから消えた金貨は、必要経費としてリンメル様に請求してもいいですよね?



 領主館に戻るとそのまま別館で昼食を頂き、簡単な報告書を書くとそれをリンメル様に提出した。


 そしてまた、私はリンメル様と小さなテーブルを挟んで対座していた。


「それで、この必要経費とは何だ?」

「えっと、情報料というやつです」

「ほう、それで金貨1枚の価値ある情報とは何だ?」

「商人の積荷と配達先の情報です」


 私がそう言うとリンメル様の目が一層冷たくなったような気がした。


「この件は保留だ。引き続き情報を集めるように」

「え? あ、はい」


 どうやら私のポケットマネーが戻って来る可能性は、極めて低くなってしまったようです。くすん。



 翌日お嬢様が訓練場で武術訓練を始めるのを見届けると、私はホイストン商会に向かった。


 そしてホイストン商会に入るとそこにはデールさんが待っていた。


「アシュリーさんは、どうしたのですか?」

「副社長は、酒場の方に行ってます。私達はパン工房の方をお願いと言ってました」

「そう、それではパン工房はまだ調べてないのですね?」

「いえ、昨日行きました。最初は話を聞いてくれていたのですが、リドル商会の名前を出した途端、何も話してくれなくなりまして調査が進んでいないのです」

「アシュリーさんがまた、頭ごなしに相手を非難したんじゃないでしょうね?」

「そんな事は無いのですが、ただ」

「ただ、何ですか?」

「お尻を触られたとか言って、パン工房の人を蹴飛ばしてしまって」


 うん、それならしょうがないわね。


 だけど、またですか。アシュリーさん。


 それでもリドル商会から納品した小麦粉の話で態度が急変したという事は、何か隠しているという事ですね。


 確信犯だとしたら、正面から攻めてもはぐらかされますね。


「デールさん、パン工房で作られたパンは配達されているのよね? その配達先はどこですか?」

「たしか南地区のパン屋とか料理店だと思います」


 それを聞いて、収穫祭で知り合いになったアランさんの事を思い出していた。


 そちらから手繰ってみますか。



「アランさん、居ますか?」


 アランさんの料理店は収穫祭の時に来たことがあった。そして何も変わってない店内を見ていると、あの時の事を思い出していた。


 すると奥の厨房からアランさんが顔を出した。


「おっ、20番の嬢ちゃんじゃないか。久しぶりだね」


 それを聞いて私は、アランさんに名前を教えていない事に気が付いた。


「そう言えば自己紹介していませんでしたね。私はエミーリアです、アランさん。ここで使っているパンはパン工房から買っているんですか?」

「そうだよ。今年は小麦が不作で価格が高騰しているだろう。領主様がパンに補助金を出しているからね。私達は指定されたパン工房からパンを買う決まりになっているんだよ」


 そう言うと何だがちょっと困ったような顔をしていた。


 何ですかその顔、まさかとは思いますが、ここにも厄介事があるというのですか?


「アランさん、何かあるのでしたら教えてください」

「う~ん、エミーリアちゃんには言いにくいんだけど。最近、パンの質が落ちていてね。領主様が補助金を減らされたせいなのかなあって、思っていたんだよ」


 そう言えば実家からの手紙にも、今年は小麦が高くて大変だとかなんとか書いてありましたね。


 まあ、モス男爵家では根菜類が主食のようなものだし、大した影響は無いとも言っていたようだけど。


 それでも御館様からの補助金が減らされてパンの質が落ちてるとか、そんな噂をされるのはなんか違うような気がします。


 まあそれを領主館の使用人である私に言う事が、文句を言っているようで嫌だというのは分かりますね。


 補助金が削られて町の人達に不満が出ているなんて、リンメル様に報告してもいいのでしょうか? 


 私がどうしようか悩んでいると、パン工房からパンが届いたと知らせがあった。


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