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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
146/155

番外39(お嬢様の秘密の買物1)

 

 バタールの裏路地でリビーは必死に逃げていた。


 裕福なブレスコット領の領都バタールも、路地を一本中に入ると入り組んだ細い道になるので、追っ手を撒くには都合が良いのだ。


 私を追いかけている連中は、この町で私のような子供を攫って奴隷商人に売りつけては、その日の酒代を稼いでいる屑なのだ。


 今も死んだ目をした男達が私に狙いを定め、徐々に近づいて来る中、裏路地のゴミや放置物を避けながら必死逃に逃げていた。


 追っ手を撒いたかどうか様子を見るため後ろを振り返ると、嫌らしい笑みを浮かべた2人の男達が私を捕まえようと手を伸ばしていた。


「うっそー」


 どうして今日はこんなにしつこいの?


 それにいつもなら、これだけ走っていれば必ず見かける衛兵も、全く見かけなかった。


 そこで通行人が言っていた言葉を思い出してはっとなった。


 そう言えば領主様達がどこかの町に出かけていると話していたのだ。


 助けが来ない事を知ったところで諦めるわけにはいかなかった。


 そして目の前には直角に曲がっている路地が見えてきた。


 このままの勢いではとても曲がり切れないので、少し速度を緩めたところで体に衝撃を受けた。


 私は周りにあったゴミに突っ込むと、何度も回転していた。


 体中が痛かった。


 そして背中に何か重いものが圧し掛かると上から男の声が聞えてきた。


「全く手間かけさせやがって」


 リビーはそれでも必死に逃げようと藻掻いていると後頭部に衝撃を受け意識が薄れていった。


「助けて、エミーお姉ちゃん・・・」


 リビーは消えかけた意識の中で助けを求めていた。


 +++++


 バタールに戻って来た私は、門番部屋にある通行人を尋問する小部屋のような部屋で、諜報担当のリンメル様と小さなテーブルを挟んで向き合っていた。


 テーブルの上には、ミッシュで海賊を捕縛した時の一部始終を記載した私の報告書が置いてあった。


 ブリタニーの話では、突然武術訓練を始めたお嬢様の姿を訝った奥方様が、その理由を尋ねたところ、海賊に呆気なく捕まった事を恥じて身を守れるように訓練をしたいと言ったんだそうな。


 それを聞いた御館様やリンメル様が、ミッシュでの海賊退治の裏で一人娘が危険に晒されていた事を初めて知って慌てたらしい。


 どうやらマレットの報告書にはその部分が記載されていなかったらしく、御館様に厳しく叱責され、今は謹慎中だと言っていた。


 私は御館様からの命令でミッシュでの顛末をまとめた報告書を書いて提出することになったのだ。


 そして今、私はリンメル様と小さなテーブルを挟んで対座していた。


 リンメル様は私の目の奥を探るように厳しい視線を向けてくるので、私はその圧力に耐えかねて思わず俯いてしまったのだ。


 私は目を逸らした事で、後ろめたい事がありますと自分で認めてしまった事に思い至り、背中に冷たい汗が流れていた。


 このままだと私もマレット達と同じく謹慎処分にさせられてしまいそうだわ。


「それで? お前は何故ミッシュに海賊が居ると気付いたんだ?」


 うっ、目の前の報告書ではツバメの事を内緒にするため、その部分はぼかして書いてあるのだ。


 非常に拙いです。


 ツバメの事を書いてしまうと、領内に他領の間者が入り込んでいた事や、私がツバメと裏で協力関係にあった事がバレてしまうのだ。


 だが、目ざといリンメル様はそこに何かがあると感づいているようで、目の前の報告書はその部分が態と開いて置いてあるのだ。


 お願いですから、報告書の行間は読むのは止めてくださいませ。


 そこは馬鹿なメイドが書いた作文だと思って、笑って読み飛ばして欲しいところです。


「えっと、女の感?」

「誤魔化すな」

「うっ・・・」


 意を決して顔を上げると、そこにはこちらを見つめるリンメル様の冷たい瞳が待ち構えていた。


 思わず目を逸らしたくなるところを必死に堪えると、声が震えないように注意しながら発言した。


「浜辺で会った海賊の言動がおかしかったので気が付きました」

「ほう、どんな風におかしかったのだ?」

「えっと、漁師に扮していたのに海の悪魔の事を全く知らなかった事、とか?」


 リンメル様は黙ったままこちらをじっと見つめていた。


 うっ、この沈黙が痛い。お願いだから何か言ってください。


「えっと、それに町長の偽物も海の悪魔の事を全く知りませんでしたし」

「ほう、するとお前は相手の言った言葉からそう推理したんだな?」


 えっと、これは何とか誤魔化せたという事で、いいんですよね?


「ええ、勿論です」

「分かった」


 そう言うとリンメル様は目の前にこれ見よがしに開いていた報告書を閉じると、席を立ち出口に向かって歩き出した。


 私はようやく解放された事で安心して「ほう」と息を吐くと体の緊張を解いて、椅子の背もたれにもたれ掛かった。


 その緊張が解けて緩んでいた私に、歩みを止めたリンメル様が振り返った。


「そうだ。お前には後で特別任務を与える事にしよう」


 そう言われた私は弛緩していた体に緊張が走り、ピクリと背筋を伸ばすと固まっていた。


 その姿を見たリンメル様はニヤリと口角を上げると、部屋を出て行った。


「えっと、それはどういう意味ですか?」


 私は既に部屋を出て行って誰も居なくなった空間に向けてそう質問したが、当然返答は無かった。



 領主館の庭にある訓練場では、お嬢様が木剣を持って素振りをしていた。


 その姿を私は姉になったような気持ちで傍らからそっと見守っていた。


 そして私は、私の事を何かと世話を焼いてくれた姉達もこんな気持ちだったのだろうかと考えていた。


 御館様は、お嬢様の剣の指南役としてバトゥーラ要塞の守備隊長であるビル・ランドール様を指名していた。


 そのビル・ランドール様は、お嬢様の剣を振る姿を見て、流石は武のブレスコット家の血を引く御方だと言って褒めちぎっていた。


 そんなお嬢様を誇らしい眼で見つめていると、メイドの1人が私に近寄って来て来客だと告げてきた。


 私は急いで玄関まで出てみると、そこにはあのアシュリー・ホイストンが立っていた。


「えっと、アシュリーさん?」

「良かった、実はエミーリアさんに相談がありまして」


 そう言うと私の腕を取り建物の裏手に引っ張っていった。


 そこで周りに誰もいない事を確かめるためキョロキョロと周りの様子を窺ってから、そっと耳打ちしてきた。


「実はお嬢様からご注文を受けた商品が、行方不明になってしまったんです」

「はあ?」


 私は、意味が分からず変な声をだしていた。


評価ありがとうございます。


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