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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
141/155

番外34(お嬢様のルーツ探訪6)

 

 何事があったのかとそちらを見ると裏返しになった舟の中から男達が飛び出してきて、護衛を不意打ちにしていた。


 いかな精鋭の護衛と言えど、不意打ちでしかも相手は3人だ。


 戦いは劣勢だった。


 すると一瞬の隙を男に突かれた。


 私は鋭い痛みを脇腹に感じると肺の中の空気が一気に抜け出したようだった。


 片膝をついて、周囲の空気を何とか肺の中に入れようとしていると後ろからお嬢様とエイベルの悲鳴が聞こえてきた。


 しまった。罠にかけるつもりが逆に罠に嵌められたようだ。


 ようやく動けるようになった私は、海賊3人を相手に戦いを続けている護衛にお嬢様を助けに行くと告げると、お嬢様を抱えて走り去った男の後を追った。


 海賊達にまんまとやられたが、ここが障害物が無い海岸線だったおかげで男の姿は遠くからでも確認できていた。


 私はその男を追いかけていた。


「待ちなさい」


 男とはまだ距離があるが、声を掛ける事で少しでも注意がそれて距離が縮むかもしれないと声を掛けてみたが、男は全く意に介さなかった。


 男の肩に担がれているお嬢様が抵抗する素振りが無いことから気絶しているのだろうと思われた。


 それにしても海賊が海に逃げず、海岸線を岬の方に走っているのは何故だろうと考えていると、男が走って行く方向に小舟のような物が見えた。


 拙いわね。


 仮にあれが小舟で沖に出られたら最早お嬢様の奪還は不可能になってしまう。


 そこで一か八かの賭けに出る事にした。


「海賊の癖に、メイドの女の子がそんなに怖いの?」


 すると私の声が届いたのか、男は体を捻ってこちらに振り返った。


 そして追いかけてくるのが私一人だと分かると途端にその顔にいやらしい笑みが浮かんだ。


 男は走るのを止め、お嬢様を砂浜に下ろすとこちらに向き直った。


「海賊を挑発するとは、お前馬鹿だろ?」

「いいえ、少なくとも貴方よりは教養があると思っているわよ」

「くくく、これが罠だと分からないとは本当におめでたいな。標的はブレスコットの娘だけだったんだが、お頭からはチャンスがあったら俺達のお楽しみのためメイドも攫っていいと言われてたんだ。態々お前の方から捕まりに来るとは馬鹿以外の何だと言うんだ?」


 そう言うとベルトに挟んでいた幅広の短剣を引き抜いて刃先をぺろりと舐めていた。


 まあ相手は海賊なんだし、ロクデナシなのは当たり前よね。


「お喋りはそれで終わりかしら?」


 私がそう言うと海賊は目をひん剥いて顔を真っ赤にしていた。


「たかがメイドの分際で随分吠えるじゃないか。その済まし顔が恐怖に歪むのももうすぐだぜ」


 そう言うと手に持った幅広の短剣を見せびらかしながら、じりじりとこちらに近づいて来た。


 私はそっとメイド服のスリットに手を入れると投げナイフを掴んだ。


 そして海賊がこれ見よがしに振り上げたタイミングで顔面に向けてナイフを投げた。


 私の事をただのメイドと侮っていた海賊は、その全く予期していなかった攻撃を避ける事が出来ず、顔を守るため手に持ったナイフを顔の前に向けて防御しようとした。


 そのナイフに弾かれて数本のナイフが地面に落ちたが、残りは男の腕に突き刺さった。


「ぐあっ」


 海賊は腕に刺さったナイフを引き抜こうとしていた所に、今度は短剣を脇腹に突き刺した。


「ぐおっ、や、止めろぉ、し、死ぬだろうがぁ」


 男は脇腹を抑えながら空いた方の手の平を掲げて降参を示してきた。


「あら? さっきまで私にそうしようとしていたのではないの?」

「武器を隠し持っていて不意打ちするたあ、卑怯じゃねえか」

「ひょっとして、私が丸腰だと思ったから逃げるのを止めたの? とんだチキン野郎ね」


 私がそう言うと男は図星だったのかガックリと項垂れていた。


 すると後ろの方から海賊を片付けた護衛とエイベルが駆け寄って来た。


「おおい、エミーリア、お嬢様は無事なのか?」

「あ、大変、エイベルこの男を見張っていてくださいね」


 そう言うと私は砂浜に寝転がっているお嬢様に駆け寄った。


「お嬢様大丈夫ですか?」


 するとゆっくりと意識を取り戻したお嬢様が目の前に居るのが私だと気が付くと、いきなり抱き着いてきた。


 その体が微かに震えていた事から、優しく背中をさすりながら「もう大丈夫ですよ」と言葉を掛けた。


 すると、今度はいきなり体を離すと、口を窄めてそっぽを向いてしまった。


「遅いわよ」

「お嬢様に怖い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」

「それじゃあ、海の悪魔は嘘だったのね?」


 そう言ったお嬢様はとても悲しそうな顔になり、目頭には光る物が見えていた。


 お嬢様を嬉しさの絶頂から悲嘆のどん底まで落とした海賊、許すまじ。


 そして降参した海賊の所に戻ると、質問をした。


「それで、海の悪魔の事を教えてくれるのでしょうね?」

「唯の方便だ」

「そう」


 私は男の怪我をしている腹を踏みつけた。


「ぎゃあぁ、何をする」

「本当の事を話した方が身の為ですよ」


 そう言って更に脇腹を踏みつけた。


「ま、待て、言う、言うからやめろ、いや、止めて下さい。俺は知らないが、お頭が知っているはずだ」

「それでお頭は何処にいるの?」

「岬の先に停泊している船の中だ」

「それともう一つ、沖には本当に帝国の軍船が遊弋しているの?」

「いや、沖は俺達の縄張りだ」

「そう、なら貴方達が居なくなれば平和になるのね?」


 私がそう言うと海賊はその意味を理解したようで、目を大きく見開いていた。



 捕まえた海賊を連れて町長の家に戻って来ると、マレット達に出迎えて貰った。


 既にミッシュの町に潜んでいた海賊は全員捕らえていて、人質も解放されていた。 


 残りは海賊船に残っている海賊だけだった。


 マイルズと名乗った海賊に聞いてみると、海賊船は岬の先に停泊していて、そこに攫ったお嬢様を連れて行く事になっていたようだ。


 そこで私がお嬢様に、マレットと領軍兵3人が海賊に化けて海賊船に行くことになった。


 残りの領兵は私達が暴れ始めたら加勢する手はずになった。


 そしてマレット達は海賊達からはぎ取った服を着て海賊に化け、私は自分の男爵令嬢のドレスを着てお嬢様に見えるように化粧をした。


 マレット達が薄汚れた海賊の服にバンダナを頭から被り口元を隠している姿は、何も知らない人が見たら立派な海賊に見えた。


「ふふ、マレット、貴方領軍をクビになったら海賊に再就職できそうね」

「おい、俺は心根はとても優しい男なんだぞ。他の連中も皆気は優しくて力持ちってな連中だ」


 マレットがそう言うと後ろで海賊に扮している領兵達も片手を挙げて「おお」と言っていた。


「それにお前もドレスを着ると立派な貴族令嬢に化けるじゃないか」

「ちょっと、私は元から男爵令嬢よ」

「おっと、すまなかったな」

「それじゃ、ちゃっちゃと済ませて、海の悪魔の情報を入手しましょうか」

「え、そっちが主目的なの? 海賊をせん滅するんじゃなくて?」

「あら、私はお嬢様の専属メイドよ。最優先事項はお嬢様の事なんだから、当然でしょう?」


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