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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
138/155

番外31(お嬢様のルーツ探訪3)

 

 海賊船ルベル号の船長バイロンは、自分達をシーグルス海賊団と呼んで、バーボネラ王国の沖合で通りかかる交易船を襲っていた。


 そして獲物が見つからない時は沿岸の町を襲っては酒や女の補給を行っていた。


 ミッシュの町も酒や女を目当てに襲撃をかけたのだが、この町は見捨てられたかのように寂れていて、町の住民も何の希望も持っていないようだった。


 最近の北の海は、交易船も昔に比べ大分数が減っており、それにどこかの領軍の軍船が警戒に出てくるようになったので、暫くここで身を潜める事にしたのだ。


 町の連中も、部下達を使ってちょいと脅すと皆大人しくなった。


 そして今日も町にある唯一の酒場で、木製ジョッキに入れた酒を飲んでいた。


 周りでは手下達が酒を飲んで騒いでいるがそれは何時もの事だ。


 すると、周辺の警戒に出していた手下の1人が酒場に入って来ると、大急ぎで俺の所にやって来た。


 その男は大急ぎでやって来たので、息を整えさせると酒を一杯飲ませてやった。


 手下は酒の礼を言って、一気に飲み干すと早速報告を行った。


「お頭、大変でさあ」

「なんだ?」

「ブレスコットの兵隊が、こちらに向かって来ているそうです」


 俺は思わず飲んでいた酒が気管に入りむせ込んだ。


「ゲホゲホ、なんだと? 討伐隊か?」


 俺のその声に、騒いでいた手下達も押し黙り、右腕のマイルズが俺に尋ねてきた。


「お頭、ブレスコットの連中と陸でやり合うのは分が悪すぎですぜ。ほとぼりが冷めるまで海に逃げやすかい?」


 最悪はそうなるだろうが、今まで上手く言っていたのにどうして感づかれたんだ?


「まあ待て、それでブレスコットは本当に俺達を討伐に来るのか?」

「いえ、どうやらこの町に調査に来るようで。その中にブレスコットの一人娘もいるそうです」


 それを聞いた手下達がいやらしい歓声を上げていた。


「お頭、これは大金になりやすぜ」


 どいつもこいつも、ブレスコットの一人娘を簡単に攫えると思っているのか?


 あのブレスコットが一人娘をそんな無防備な状態で外出させる訳がないだろう。


「馬鹿野郎。ブレスコットの兵隊の強さは半端ねえんだ。良いか、住民には余計な事を喋らせねえように人質を取っておけ」

「へい」

「しかし、勿体ないですな。ブレスコットの一人娘がこんな所に来るなんて、こんなチャンスもう二度とないかもしれやせんぜ」


 そりゃあ、俺だってチャンスがあれば掻っ攫うさ。


 海賊稼業を止めて一生遊んで暮らせる金が手に入るんだからな。


 俺は目の前の大金に手が出せない悔しさで、手に持った木製ジョッキの酒を一気に飲んだ。


「ふん、その一人娘が船遊びでもしてくれたら掻っ攫えるが、そうじゃなかったら大人しくしておくんだな。俺は暫くの間ルベル号に避難しているから、何かあったら手下を走らせろ」

「「「へい」」」




 お嬢様を乗せた馬車がミッシュの町に到着したのは、昼を大分過ぎた頃だった。


 お嬢様は、馬車から降りて町の様子を見た途端、その期待に胸が膨らんだ表情がみるみるうちに曇っていった。


 ミッシュの町は、ゴーストタウンといった有様で、通りには人気は無く、道の両側に並ぶ建物も住んでいる人が居ないのか壊れた場所がそのままになっているのだ。


「ここは何処?」


 お嬢様はやはりここがミッシュの町だとは信じたくないようだ。


「お嬢様、ここがミッシュの町です」


 私がそう言うとお嬢様は顔を顰め不満そうに口をすぼめていたが、何も言わず馬車の中に戻ってしまった。


 まあ、事実を認めたくないというその気持ちは良く分かります。


「ねえ、マレット、ここにお嬢様が泊まれる宿はあるのですか?」

「ここに宿はない。一応町長の家に泊めて貰う事になっているんだが、俺達は適当に空いている家に分散って感じだな」

「ちょっと待って、海賊が襲ってきたら私1人でお嬢様を守るのは厳しいものがあるわよ」

「こんな何もない町に海賊が来るとは思えないが、一応交代で2人付けるよ」



 そして町長の家に行くと、部屋は広いのだが家具が何もないのでがらんとした感じだった。


 私はそんな中でも少しでもお嬢様に寛いでもらおうと随伴していた荷馬車から布を敷いて絨毯にしたり、紐で吊り下げて目隠しを作っていった。


 お嬢様は出来上がった部屋を見回して少し頬を緩めてくれたようだが、出てくる言葉は相変わらず素っ気なかった。


「ふん、少しはマシになったわね」

「ありがとうございます。それではせっかくですから町長さんに海の悪魔の事を聞いてみましょうか?」

「任せるわ」



 ミッシュの町の町長は白髪の老人で白くて太い眉毛に隠れて目が見えなかった。


「お茶をどうぞ」

「頂きます」


 ズズッ


 出されたお茶はちょっと薄かったが、このような町ではこれでもぜいたく品なのかもしれない。


 だが、お嬢様の表情は冴えない。


 不機嫌になって暴言を吐く前に話を聞いてしまう方がよさそうね。


「町長さん、海の悪魔について何か知りませんか?」

「海の悪魔・・・さあ、なんですかのう」

「ほら、ジェマ・ブレスコット様が没落していた一族を復活させた品ですよ」

「ほえ、あ、いや、そうでしたかの。何分昔の事で良く分かりませんですじゃ」

「そうですか」


 町長がこんな感じなら、他の人に聞いても分からない可能性が高いわね。これは大変な作業になりそうです。


「お嬢様、ちょっと町の人達に聞き込みをしてみようと思います。お嬢様はどうなされますか?」


 するとお嬢様はこの町の印象がかなり悪かったようで、既に興味を失っていた。


「任せるわ」

「畏まりました。警備の者が2名おりますので、私が居ない間はその者達に御用を申しつけて下さい」


 私はエイベルを連れて町長の家を出ると、人気のない町の通りを歩いていた。


 道の両側にある家は、人が居る気配が全くしないので、隣町で聞いた通り人が皆引っ越して限界集落になってしまったのだろうと思われた。


 そして暫く歩いていると1軒の食糧雑貨店があり、奥の方に人が居るのが見えた。


「エイベル、あの店の人に聞いてみましょう」

「おお、ようやく人が居たか」


 私達が店に入って行くと、奥に居た人が出て来てくれた。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは。この店で海の悪魔は売ってますか?」

「はえ? お客さん、冗談は止してくださいよう」

「あら、だって、この町はジェマ・ブレスコット様の伝説が残っているのでしょう?」

「ええ、勿論そうなのですが、今では当時に事を知っている者は誰もおりません」


 そんな事があるの?


 ここはブレスコット辺境伯領内で、しかもブレスコット家のご先祖様の発祥の地でもあるのに、誰も知らないなんて。


 これではますますお嬢様が不機嫌になってしまうじゃないの。


「他に知って居そうな人は居ないのですか?」

「さあ? 昔の話は誰もしませんからねえ」


 これは困ったわね。


 探し物は海の悪魔なのだから、海と言えばやっぱり港よね。それとも目の前にある酒樽の看板が出ているあの酒場か。


 日も大分傾いてきたからここは手分けしましょう。


「エイベルはあの酒場に行って、私は港に行ってみるわ」


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