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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
131/155

番外24(夜に鳴く声5)

 

「貴女はどちら様ですか?」


 私のその質問にアデラインは足を止めて振り返ると、不思議そうな顔をしていた。


「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はアデラインよ」

「あ、私はエミーリアと言います。よろしくお願いします。ところで、貴女はお館様の御手付きなのですか?」

「はぁ、貴女、勝手にここに来たのでしょう? そんな人に重要な事を話せると思ってるの?」


 う~ん、確かに、アデラインさんの立場で考えたら、私は申し送り事項を破ってここに居るのだ。怪しまれても仕方がないか。


「ところで、ランドン・ベイリーとはお知り合いですか?」

「あの男はそう言う名前なの?」

「はい、主家様・・・ブレスコット辺境伯家のお客様です」

「そう」


 そう言うとアデラインは何か考え込むように黙り込んでしまった。


 2人とも押し黙ってしまうと静まり返った空間に足音だけが響くようになった。


 足音が響く?


 私達は立ち止っているので、足音がするはずが無いのだ。


 するとツバメが追いかけて来ているという事か。


 どうやら投げナイフの罠は見破られてしまったようだ。


「どうやら追っ手が迫ってきているようです。先を急ぎましょう」


 そう言ってランプを掲げて先に進むとアデラインは大人しくついて来ているようだ。


 トンネルを進んでいくと、再び通路が分かれている場所に到達した。


 今度は分かれ道が4つもあった。


 どれにしたらいいのか分からない私は、振り返ってアデラインの顔を見た。


 アデラインは右側のトンネルを指さしたので、私は了解したことを示すため一つ頷いた。


 そして右側の道を進んで直ぐに行き止まりになった。


 どういう事なのだろうと振り返ろうとするとアデラインが体を押し付けて来たので、私は壁との間に挟まれていた。


 すると一瞬壁が動いたような気がして、直ぐに自分の体がふわりと浮くのを感じた。

 時間にすると僅か数秒だが、それが永遠に思えた。


 そして強い衝撃が体を襲ってきた。


「うっ」


 全身に走った痛みで暫く動けなかった。


 するとアデラインの声が頭上から聞えて来た。


「朝までそこで大人しくしていなさい」


 そして去って行く足音と何か重たいものが動く音を、痺れた体で聞いていた。


 痛みが引いて動けるようになると、落としたランプを拾って周りを照らしてみた。


 そこは広い空間で、私が倒れ込んだ壁は元通りになっていた。


 どうやらこの空間に閉じ込められたようだ。


 アデラインが何故私を罠にかけたのか分からなかったが、今はここから出る方法を考えなくては。


 そして改めて閉じ込められた空間をランプで照らしてみると、ここは物が乱雑に置かれた部屋だった。


 壁には書架があり、分厚い装丁をした本が並んでおり、中央にテーブル、壁際には何だか良く分からない器具が壊れて転がっていた。


 私が倒れ込んだ壁にはドアノブも指を引っかける隙間も無いことから、何処かに動かす仕組みがあるはずだと思うのだが、ここは物が雑然と転がっていて探し物をするには最悪の環境だった。


 では、アデラインの言葉通り、朝まで待ってここから出してもらうか?


 万が一にでもアデラインがツバメに掴まったら、誰も助けに来ないんじゃないか?


 そしたら私はここで誰に見つけられる事も無く死んでいくの?


 きっと、申し送り事項にまたメイドが行方不明になったと言われてしまうわね。


 でも、第3見張塔の地下に隠し部屋を作ったのはお館様だ。


 きっと、このトンネルも知っているはず。


 そこでアデラインが最悪ツバメに殺され、翌朝私がここで見つかったとしよう。


 すると私は、あのツバメをアデラインの所まで誘導し、自分だけ安全な所に隠れていたと思われないか?


 ブレスコット領の人達は、収穫祭の時に分かったが、何かあったら主家様を守って犠牲になるという人達だ。


 そんな忠誠心の厚い人達に私はどのように映る? 臆病者? それとも卑怯者?

 良くて領外追放、悪くすれば処刑だろう。


 そこまで考えてぶるりと寒気を感じると、座り込んでいた床から立ち上がった。


 一刻も早くここを抜け出さないと。


 暫くの間、壁を動かすスイッチの類を探してみたが、どれも外れだった。


 探し疲れて休憩していると目の前には沢山の本を収めた書架が目についた。


 これを探すのは大変だと考えて、後回しにしていたのだ。


 書籍の背表紙は重厚な装飾が施された厚紙で出来ているようだが、そこにタイトルは書いてなかった。


 そう言えば木を隠すなら森の中というわね。


 私は「はぁ」とため息をつくと、最後の大仕事に取り掛かった。


 こういったケースでは書架の中の本を押すと、それがスイッチになって扉が開くなんて事も、きっとあるはずだ。


 ぎっちり詰まった本を取り出すのが面倒だという事ではないのだ。


 そして1冊ずつ押し込んでいった。


 人間同じ動作を繰り返していると、次第に注意力が散漫になるもので、私も押している内に押す場所が本の中央付近から次第に上下にずれていった。


 すると書架に収まっていた本が崩れ、数冊の本が私の頭目掛けて零れ落ちてきた。


「きゃっ」


 ドサドサと落ちて来る本の角が頭にぶつかり、白い星が頭の上に浮かんだ。


 頭を抱えながら床に落ちた本を見ると、1冊は装丁が崩れ中身がバラバラになっていた。


 散らかった中身を集めていると、そこに書いてある記述が目に留まった。


 そこには作り物の馬のスケッチと、それに関する内容だった。


「ゴーレム馬の作り方?」


 どうやらここは錬金術師の工房らしい。


 そして四つん這いになって資料を集めていると、その先に気になる突起物が目についた。


 大急ぎでばら撒いた書類を集めて本に閉じると、先程見つけた突起物を踏み込んでみた。


 すると重たい物が動くような音が聞えてくると、私が閉じ込められた壁がぽっかりと開いていた。


 壁の向う側に誰かがいて、私に襲い掛かって来ないかと耳を澄ませてみたが、何も聞こえなかった。


 そこでランプを手にそっと暗い空間を照らしてみると通路には誰も居なかった。


 私はゆっくりと慎重な足取りで通路に出ると、あの隠し部屋に向けて歩き出した。



 ようやくアデラインが居た隠し部屋まで戻って来ると、そこで見た光景は、アデラインが引っかき棒を構えていて、ツバメは私が落とした投げナイフを手にしていた。


 そしてもう一人、カークランド公爵夫人が地上への入口を塞ぐ形で長剣を構えていた。


 3人の位置関係はどう見ても三つ巴だ。


 え? 誰かこの状況を説明してください。


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