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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
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番外23(夜に鳴く声4)

 

 第3見張塔の隠された階段を下りて行くと、そこは隠し通路というよりもきちんと整備された館の廊下のような場所だった。


 その廊下は微かに魔法石の明かりで照らされており、魔法石のランプが無くても十分な光源となっていた。


 そして1つの扉の隙間から明かりが漏れていて、そこに誰かが居る事を示していた。


 もし侵入者の拠点だったら、捕まってそのままという事も考えられる。


 ここからは慎重の上にも慎重に行動しよう。


 ゆっくりと明かりが漏れている扉に近づくと、扉に耳を当てて聞き耳を立ててみたが、中から人の話し声は聞えなかった。


 扉を開けたらいきなり襲い掛かられる事も考えて、普段は隠してある投げナイフを手に取った。


 そして、そっと扉を開けた。


 そこに広がった光景は、裕福な商人か貴族の令嬢の個室と言った感じで、床には絨毯が敷き詰められ、天蓋付きベッドやソファが置かれ、1人の女性がソファに腰掛けながら本を読んでいた。


 ここがからくり扉の先にある隠し部屋じゃなかったら、他人の家に間違えて入ってしまったと思ったことだろう。


 そうだったのならお詫びをして回れ右して立ち去るだけなのだが、ここは本館の地下なのだ。


 私が扉を開けたせいで廊下からの冷たい空気が流れ込んだのか、直ぐに異変に気付いた女性がこちらに視線を向けてきた。


 そして私の姿を認めると驚いて立ち上がった。


 その拍子に手に持った本が落ちて、「ドサリ」と重たそうな音が響いた。


 女性は落とした本には構わずそのまま部屋の奥に後ずさりすると、震える事で誰何してきた。


「誰?」


 そして私が着ている服がブレスコット辺境伯家のメイド服と分かると一瞬ほっとしたような表情になったが、直ぐにその表情が硬くなった。


「もしや、ダグラスに何かあったの?」


 ダグラス? 


 いきなりお館様の名前を呼び捨てにするこの女性は何者だろう?


 そこで最初に思ったのは、お館様が奥方様やクレメンタイン様に隠れて妾を囲っているという事だった。


 成程、それならあの申し送り事項も納得できる。


 こんな事が奥方様やクレメンタイン様にバレたら家族崩壊の危機だ。


 いや、本当にそうか?


 高位貴族なら妾の1人や2人囲っていても不思議ではないはずだ。


 我が男爵家では経済的にそんな余裕は無いが、裕福なブレスコット家では簡単な話だし、クレメンタイン様が王家に嫁がれてしまったら、お家存続の為にも後継ぎは必要ではないの?


 ひょっとして、奥方様は嫉妬深い方だったのだろうか?


 そうすると秘密を暴いてしまった私はどうなるの?


 もしかして、私はブレスコット家の安泰のために口を封じられてしまうのではないか?


 そう思った途端、大変な秘密を知ってしまった事に酷く後悔していた。


 ここから戻ってもきっとブリタニーに聞かれるし、あの娘は秘密を暴くのが得意なのだ。私が知った事実なんて簡単に聞き出してしまうだろう。


 ああ、「毒を食らわば皿まで」とか言ったさっきの私、どうしてくれるのよ。


 進退窮まって混乱していると、私の事を観察していた女性が話しかけてきた。


「貴女、まさかとは思うけど、申し送り事項を無視してここに来たの?」


 はい、そうです。


 心の中で返事をした私は、この女性が申し送り事項の事を知っている事実で、お館様に囲われている妾さんと断定した。


 事態は最悪である。人知れず亡き者になる可能性が数倍跳ね上がった。


 お父様、先立つ不孝をどうかお許しください。最後に美味しいお菓子をお腹いっぱい食べたかったです。


 私が心の中で辞世の句を詠んでいると、目の前の女性の顔から警戒心が消えていた。


「貴女、黙っていてあげるから早く帰りなさい」

「え? お咎めなし、ですか?」

「ええ、早く帰りなさい」


 その一言で、私の首にかかっていた死神の大鎌がすうっと遠のいて行くような気がした。


 そして命の恩人にぺこりと一礼して再びその女性を見ると、目の下に泣きホクロがあるのを見つけた。


 あれ? ひょっとしてツバメが探していたのはこの女性なの?


 例えそうだったとしても私はツバメには話さないけどね。


 そして戻ろうとしたところで、背中を強く押されて部屋の中にダイブしていた。


「ついに見つけたぞ。アデライン」


 そう言った低い声が、部屋の中に無様にうつ伏せに倒れた私に降り注いだ。


 どうしてここにツバメが居るの?


 振り返って見たツバメの顔はとても凶悪そうだった。


 その顔に不安を覚えた私は、素早く立ち上がると2人に間に割って入るとツバメに投げナイフを構えた。


「ここから立ち去りなさい。さもないと」


 私がそう言うと、ツバメは私を睨みつけてきた。


 その顔は今まで見た事がない程冷酷だった。


「おままごとは終わりだ。そこをどけ」


 その声に敵意を感じたので、今度は左手をスリットの中に入れ短刀を取り出した。


 そこではたと気が付いた。


 こんなんでも、この男は主家様が招いたお客様なのだ。


 あの男にナイフを当てるのは造作もないが、唯の使用人でしかない私が主家様のお客様に危害を加える訳にはいかなかった。


 でも、それならどうしたらいいの?


 すると先程の女性が叫んだ。


「貴女、こっちよ」


 その声に振り返ると、女性が扉から出ていく姿が目の隅に写っていた。


 私は慌ててその後を追うとツバメも追いかけてきたが、一歩早く扉に辿り着くとツバメの鼻先に扉を閉めてやった。


 その後、扉に激突した衝撃音と扉に弾き飛ばされただろうツバメのうめき声が、扉の向う側から聞えて来た。


 これは不可抗力よ。


 私は悪くないわ。


 自分にそう言い聞かせると、ツバメがアデラインと呼んだ女性の後を追うため振り返った。


 そこにあったのは天然の洞窟というよりも、大昔に人為的に作られたトンネルのようだった。


 アデラインの足音を追ってトンネルを進んでいくと、やがてアデラインの後ろ姿がランプの光に照らし出されてきた。


「あの男は扉の向う側で伸びています。そんなに急がなくても大丈夫ですよ」


 私がそう声を掛けると、アデラインの逃げ足がゆっくりになっていた。


 追いついた私が再び口を開こうとすると、アデラインはトンネルの先を指さした。


 その指先を追って先を見るとそこには道が左右に別れていた。


「あそこで追跡者を巻きます。ついて来てください」


 そしてアデラインが右の通路に入って行くと、私は手に持った投げナイフを態と左側の通路に落とした。


 これでツバメが馬鹿なら左側の通路に入って行くだろう。


 右側の通路も先程と同じで人の手が入ったトンネルだった。


 そして先程の分岐点が見えなくなった地点で、重要な事をアデラインに尋ねてみた。


「貴女はどちら様ですか?」


 私のその質問にアデラインは足を止めると不思議そうな顔で振り返った。


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