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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
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番外22(夜に鳴く声3)

 

 部屋の外からかすかに物悲しい鳴き声が聞こえて来てから、ベッドに入った幼い少女はずっと怯えていた。


 私はその小さな手を握りながら、優しくその甲を摩り、寝静まるまでモス男爵家に伝わる子守唄を歌っていた。


 モス男爵家はお世辞にも裕福とは言えなかったので、幼い私の面倒は2人の姉が見てくれていた。


 その時聞かされていたのが、今私が唄っている子守唄だ。


 ひょっとして子守唄というのは家毎に違うのだろうかと思いながらも、上級貴族の家では子供の面倒はメイドが見るので、こうやって聞かされる事も無いのだろうと思い直した。


 やがて小さな寝息が聞こえてくると、握っていた小さな手を放して布団の中に戻した。


 その可愛らしい寝顔を見ながら、私の姉達も今の私と同じ気持ちだったのだろうかと考えていた。


 そう考えると姉妹の居ないクレメンタイン様が少し気の毒に思えてきた。


 怖がるクレメンタイン様が安心して眠れるように原因を突き止めるべきだろうか?


 だが、申し送り事項を破るとあの怖いメイド長の逆鱗に触れてしまう。


 ただでさえ目を付けられているのに、そんな事をしたら本当に暇を出されてしまうかもしれない。


 うん、うん、と悩みながら、頭の中で怖がる少女と怒り狂う怖いメイド長を天秤に掛けていたが、その天秤は次第に怖がる幼い少女に傾いていった。


 私は5人兄弟の末っ子だったので何時も世話を焼いて貰っていたが、私も妹や弟が欲しかったのだ。


 そして私がされたように、私も幼い妹や弟の世話を焼きたかったのだ。


 これは仕方がないよねと自分に言い聞かせながら、クレメンタイン様の部屋を後にした。


 この迷宮のような3階でのクレメンタイン様の部屋は、ロの字型の建物の左奥、第3見張塔の傍だろうと当たりを付けていた。


 この廊下の先に第3見張塔があるはずだが、ここから先にある扉は殆どが罠で、正解を教えて貰っていない私は3階から行くのは諦め、一旦1階に下りる事にした。


 1階の厨房から出る煙は第3見張塔にある排煙路を通して外に排出されている。


 クレメンタイン様の部屋の暖炉の排煙口もそこに繋がっているとしたら、怪しいのはあの第3見張塔なのだ。


 問題は第3見張塔に入る扉の鍵を持っていない事だ。


 マスターキーは執事長が持っているし、他の鍵は館の護衛騎士の詰め所と清掃準備室にしかない。


 この時間だと清掃準備室が良さそうね。


 私はしんと静まり返った通路に誰も居ない事を確かめてから、そっと清掃準備室に潜り込んだ。


 こんな時、鍵を手にすると突然誰かが入って来るというありきたりの状況を回避するため、もう一度扉を開いて廊下に誰も居ない事を確かめた。


 そしてようやく鍵を手に取ると、部屋を出てそっと扉を閉めた。


「そこで何をしているの?」


 私は飛び上がるほど驚いた。悪い事をしているという自覚があるので、心臓が早鐘を打っていた。


 そして錆びた歯車のようなおかしな動きで振り返ると、そこにはブリタニーの怪訝そうな顔があった。


「お、驚かさないでよ」

「何を言っているのよ。貴女の方がよっぽど怪しいわよ。てっきり賊でも入ったのかと思ったじゃない」


 ブリタニーの声が大きいので他の人に聞かれるんじゃないかと焦った私は、今出てきた清掃準備室にブリタニーを強引に引っ張り込んだ。


「あ、あれ、エミーリア、貴女大胆ね。私に何をしようというの?」

「ちょ、ちょっと、おかしなことを言わないでよ。私はただ、あの鳴き声の秘密を探ろうとしただけよ・・・あ」


 私は自分の迂闊さに頭を打ちたくなったが、そんな事は無駄だと思い直していた。


「はあ、エミーリア、貴女はよっぽど謹慎になりたいようね」

「そんな訳無いでしょう。ただ、クレメンタイン様が怖がる姿を見ちゃうと、何とかしてあげたいなと思って」


 私がそう言うと、ブリタニーはちょっと考え込む仕草をしていた。


 そして何やら目がきらりと光ったような気がした。


「ふうん、クレメンタイン様の為かぁ、仕方がないわね。私も手伝ってあげる」

「え?」

「だから、手伝うって。それで何をしようとしていたの?」

「あの鳴き声、第3見張塔が怪しいと思うのよね。だからそこの扉を開ける鍵をちょいと拝借したの」


 私がそう言うとブリタニーは私が手ぶらなのを見て「はぁ」とため息をついた。


「やっぱり駄目じゃない。あそこは警備の兵士が巡回しているし、中は暗いのよ。いいわ、私が警備室に行って時間稼ぎをしてくるから、その間にさっと準備して、ぱぱっと見て来なさいな」


 そこで私は清掃準備室にある魔法石で光るランプを手に取ると、ランプが光る事を確認した。


 そして通路に誰も居ない事を確かめると第3見張塔へのちょっとした探検に出かけた。


 しんと静まり返った薄暗い通路を1人で歩いていると、ランプが照らさない闇の中から突然何かが襲い掛かって来るような気がして慎重な足取りになっていた。


 だが、何かが襲い掛かってくるようなハプニングも無く目的の場所に辿り着いていた。


 そこで左右の通路にランプを向けて誰も来ない事を確かめると、鍵穴に鍵を差し込んで回した。


 カチリと鍵が開いた音が聞えると、誰かの咎めるような声が聞えないかと一拍間を置いた。


 そして何も起きないのを確かめてから、そっと扉を開けて中に入った。


 外から見える第3見張塔は円柱形をしているが、扉の中にあった部屋は普通に四角形をしていて物置なのか私が見るとガラクタのようにしか見えない物が置いてあった。


 そしてそっと耳を澄ませてみると確かにあの物悲しい声のような音が聞えて来た。


 どうやらこの部屋で当たりのようだ。


 何処から音が聞こえてくるのかと探していると、見つけたのは壁だった。


 その壁を誰かが蹴飛ばしたのか下の方に小さな穴が開いていてそこから風が流れていたのだ。


 この穴は外に繋がっているのだろうか?


 私は腹ばいになってランプでその穴を照らしてみたが、奥まで見通せなかった。


 だが、そこで私はその壁に違和感を感じたのだ。


 壁の模様に沿って手を動かすと壁の一部が私の手と一緒に動いた。


 何回か壁を動かしていくと、そこに扉が現れたのだ。


 そこで私はこれからどうするか考えてみた。


 今、ブリタニーが警備の兵士が巡回に来ないように抑えてくれているが、それは私が直ぐに戻って来る事を前提にしているはずだ。


 私が巡回の兵士に見つかったらブリタニーも謹慎になってしまうかもしれない。


 ではこの寄木を元に戻して帰るか?


 でも、この穴が原因で後で館に侵入する者が現れたら?


 メイド長に話すか?


 駄目ね。話を聞く前に謹慎にさせられそうだ。


 どうせ謹慎なら、最後まで確かめてみた方がいいわね。


 そうよ、毒を食らわば皿までというしね。


 私はそっと扉を開けると、中にランプを翳してみた。


 ランプに照らし出された物は下に降りる階段だった。


 私は一度後ろを振り返ってから、ゆっくり階段を下りて行った。


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